御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

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本編

4話 未知なる力の発動です

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身体が恐怖で動きません。短剣を私のお腹に突き刺そうとする瞬間までの男の動きが、スローモーションのように長く感じます。短剣が衣服を貫き、お腹に刺さろうとした瞬間……《バキ》という奇妙な音が鳴りました。

「へ?」「な!?」

気づけば、男の持つ短剣の刃が折れ、床に転がっていました。

「あ…はは、助かりました」

これって、手入れ不足による破損なのでしょうか?
これから人を殺そうとする人間が、武具の手入れを怠るとは思えません。
もしかして、私のスキル《身体硬健》が発動したのでしょうか?

「折れた…だと?」

絶句する不審者、私はその隙を見逃しません。
これでも、元警察犬です。

ご主人様や仲間たちから、パピヨンの私でも、人間の力を削げる箇所を教えてもらっています。今の私は獣人だから、本気になってその部位を噛めば、怪我を負わせ、この場で確保できるかもしれません。

私は小柄を利用して、男の利き足とも言える右足足首の要となるアキレス腱をこれでもかというくらい全力で噛みました。

「があああああ~~~~~~」

男は激痛で悲鳴をあげ、それだけでバランスを崩し右足を振り回し、私を振り解こうと暴れたので、私の身体も宙に浮きましたが、地面に着いた瞬間、私は怒りを込めて思いっきり、前世のパピヨン時、ぬいぐるみ(小型)で遊んだ時のように、足首を噛んだまま左右に激しく振りました。

すると、筋肉を切断していくブチブチという音が鳴り、しかも男の身体が何度も左右に高速でビタンビタンビタンビタンと床に打ち付ける事態に陥り、私は驚きのあまり、振り回している途中で離してしまい、不審者は勢いのついたまま壁に激突し、とんでもない轟音が鳴り響きました。

「どこに…そんな力が…」

不審者は、ずるずると床に崩れ落ちます。

「どういうことでしょう? 私は勝ったのでしょうか?」

そもそも男の人の体重って、こんなに軽かったかな?
意味不明な事態ですが、このまま追撃して、男を行動不能にしてしまいましょう。

「俺の右足…が…くそ…」

まだ余力がありそうなので、私は利き手となる右手の手首に噛みつき、砕こうと思い渾身の力を込めると、すぐにバキバキという音が鳴りました。魔法ですぐに回復できないよう、私は奴の手首を何度も噛んでいくと、何故かすぐにバキバキバキバキと噛み砕けました。

「あああああ~~~~~~」

1階に聞こえるぐらいの雄叫びをあげる男、この人の骨、脆弱過ぎます。でも、これで1階にいる皆も、流石に気づいたはずです。

「あなた、脆いです。それで、よく護衛が務まりますね?」

私はすくっと立ち上がり、痛みで床を転げ回る男を見下ろします。

「俺が…脆い?」

アキレス腱を千切り、右手首の骨を砕いても意識を保てる根性は凄いですけど、この人は弱いです。

「あなたは骨骨病です」

不審者の男は顔中に大量の汗を掻き、痛みで踠き苦しみながら、私の言葉を理解できていない表情を作っています。

「は?」

骨が脆くなる病気、その名称が、骨…骨…病…だったと思います。

「あなたの絶叫と激突音で、皆がすぐにここへ駆けつけてきますから、もう観念してください」

男はハッとなったものの、激痛が身体全身を襲ったのか、すぐに苦悶の表情を浮かべます。

「冗談…じゃねえ。これで逮捕されたら、俺の人生は終わりだ」

アキレス腱を千切り、右手首を砕いてもなお立ち上がる根性は凄いです。

「あ!?」

もう反撃してこないと思い、完全に油断していました。男は必死の形相となって、無傷の左手で私に殴りかかってきました。恐怖で目を閉じ、咄嗟に両手で頭を庇ったことで、右腕を殴られたのですが、全く痛みがありません。

その後も、何度も何度も男の左手で殴られているにも関わらず、何故か全然痛くありません。私は途中から両手で庇うこともやめ、そのまま頭を殴られても、痛みはありませんでした。

「なんだよ…なんなんだよお前は? なんで…こんなに硬いんだよ? 喚けよ…泣けよ…死ねよ」

この人、子供を舐め過ぎです。
そんなポコポコパンチで、痛がる子供はいません。

「あなた、弱いです。潔く負けを認めてください。ほら、皆さんの駆けつける足音が、すぐそこまで聞こえています」

どこを殴られても、全然痛くありません。

「くそ…何で…俺は弱くない…弱くない」

料理人のナオトさんを先頭に、1階にいた3人の先輩メイドさんたちもお嬢様の部屋へ駆けつけてくれました。部屋入口付近でポコポコと頭を殴られ平然としている私を見て、皆呆然としています。

「ナオトさん、不審者の男を確保しました。念の為、右アキレス腱に大怪我を負わせ、右手首を噛み砕いておきました。あと殴られていますが、この人の力が弱過ぎるので、私は無傷です」

男は必死の形相で、未だに私の頭を殴っているのですが、痛くも痒くもありません。

「そこの男が弱いって……俺には凄い勢いで殴られているように見えるが、本当に痛くないのか?」

ナオトさんが心配してくれています。近くにいる3人の先輩メイドたちも、異様な光景だからなのか、こちらに踏み込めないようです。

「はい、これっぽちも痛くありません。この男は弱いです。強くもないのに、よくここまで踏み込めましたね。ある意味、凄いです」

「俺が…弱い? あ…ああ…8歳の子供に負けた…もう…終わりだ」

それが決め手となったのか、男はその場で崩れ落ちます。

「多分、リコッタのスキルが原因だと思うが、なんか…その男が哀れになってきた。とにかく、縛り上げて旦那様に報告だ」

ここからナオトさんは男から事情を聞くため、両手足に手錠を嵌め、3人の先輩メイドの方々は大慌てになって旦那様のいる場へと向かいました。お嬢様の部屋で事情聴取するわけにはいきませんので、ナオトさんは男を担ぎ上げ部屋を出て行き、私も急いで床に転がっている《金貨入りポシェット》《指輪》《折れた短剣》を拾い、それらを大きな布で包んでから彼の後を追いました。

私たちが1階リビングに到着すると、ナオトさんは男を乱暴に床へと落とし、男は激痛のせいか呻き声をあげます。この人が急に暴れる可能性もありますから、一言釘を刺しておきましょう。 

「もう観念して下さいね。逃げようとしたら、両手足の関節部を全部噛み砕いて、2度と歩けないようにしてやります」

「ひ!!」

私がニカっと歯を見せると、さっきまでの威勢はどこにいったのか、私を見て怯えるようになりました。

警察犬になってから、私は人を撃退するための方法を教えられています。一番ポピュラーなのは両腕や手首なのですが、パピヨンの私の場合不可能なので、足首を本気で噛めと教えられました。ただ、そう言った犯人捕縛の役目は大型犬のシェパードやドーベルマンが担っていますので、私自身が実際に試すことはありませんでした。でも、どこを噛めば、人の行動力を低下させられるのかは覚えています。今回、それらが初めて役立ちました。

リビングに控えてから数分で、アリアお嬢様の父君である旦那様と《護衛》兼《メイド》で24歳独身のクラリッサさんが入ってきました。旦那様の年齢は、32歳と聞いています。アリアお嬢様と同じ黒髪ですが、目も鋭くキリッとしており、見た目が少し怖いです。お嬢様が病気で亡くなった奥様に似ていて、本当に良かったです。

「リコッタ、アリアの部屋で不審者を捕縛したと聞いたが、まさかこの床に転がっている男か?」

「はいです。この男は右手に立派な指輪を持っていて、お嬢様に絶望を与えるよう、何者かに命令されたようです。お嬢様の部屋で遭遇し短剣で刺されそうになりましたが、腹に刺さる瞬間折れて助かりました。こちらが、指輪と折れた短剣であります」

私は布で包んでおいた指輪と折れた短剣を旦那様に差し出しました。金貨入りのポシェットに関しては、後で渡そうと思います。

「この指輪は!?」

旦那様は指輪を見るなり、険しい顔つきとなり、男のもとへ行くと、勢いよくマスクを剥がしました。

「貴様は!? クラリッサ、大至急ここにマクガイン公爵と連れの方々を連れて来い!! ただし、この騒ぎを誰にも気づかれないよう配慮するんだ。急げ!!」

 ベテランメイドのクラリッサさんが、旦那様の顔色を見て、急いでリビングを出て行きます。旦那様は不審者の男へと近づき、お腹を蹴ります。

「ぐあ!?」

上から冷徹な視線で、男を睨む旦那様。
凄く怖いです。

「さて、君はマクガイン公爵令嬢の護衛で貴族だったね。無断で子爵家の邸内に侵入し、可愛い娘のアリアに何らかの罪を被せ、メイド見習いで8歳のリコッタにも暴行を加え、絶望を与えようとした。公爵令嬢も間違いなく絡んでいる以上、マクガイン公爵家にも多大な迷惑を掛けることになる。これまでにどれだけの功績を積んでいたのか知らないが、君の人生はここで終わりだ」

不審者の男は観念したのか、敵意が完全に無くなりました。
マクガイン公爵家、お嬢様の人間不信に大きく関わっていると聞いています。
どうして、ここまでのことをするのでしょう?
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