御主人様を求めて異世界へ〜チート幼女となった元わんこの不遇な逆境生活〜

犬社護

文字の大きさ
上 下
3 / 34
本編

1話 ご主人様を求めて異世界に転生します

しおりを挟む
ここは何処?
真っ暗で何も見えないよ。

「わお~~~ん、わお~~~ん(ご主人様~~~ご主人様~~~)」

ダメだ。
どれだけ吠えても、どれだけ歩いても、誰にも会えないし返事もしてくれない。
ご主人様は、何処にいるの?

あ、かなり先に灯りが見える‼️
誰かいるかもしれないから、あの場所へ行ってみよう。

これは……ご主人様の匂いだ‼︎
近づくにつれて、匂いが強くなってくる。
あそこに、ご主人様がいるんだ‼︎

「……へ行き、幸せな生活を送りたいです‼︎」 

ご主人様の声だ‼︎
私は灯りの見える場所へ全力で駆けだす。

「それがあなたの選択なのね。なら、お行きなさい。次の転生先でも、幸せな生活を送れますように」

「はい!!」

私は全力で走り出し、遂にご主人様のいる場所へ辿り着くと、2人の女性がいた。

「わお~~~ん(ご主人様~~~)」
「え……リコッタ‼︎」

ご主人様が振り向いて私に気づいてくれた。私は全速力で走り、抱いてもらおうと飛びつこうとしたら、何故かすり抜けてしまう。

慌てて振り向くと、先程までいた場所にご主人様の姿はなかった。

「わん!? わおーーーん(消えた!? ご主人様~~~)」

どうして、突然消えたの?

ご主人様と話し合っていた綺麗な女性は、私を見てかなり驚いているけど、どうしたのかな?

「まさか…自力でこの空間を見つけたの? 警察官でもあるあの女性から事情を聞いてはいたけど、相当強い縁で結ばれているのね。警察犬(パピヨン)の女の子、リコッタというのはあなたですか?」

この人、今私のことを呼んだの?

「ワン(そうです)」 

人間の言葉を少ししか理解していないから全部聞き取れないけど、私の名前を呼んだよね? これまで出会ってきた人と何処か違う雰囲気を放っているし、清涼な匂いがする。

「ああ、犬は人の言葉を殆ど理解できないのよね。ほら、これならどうかしら? あなたの知能を人の10歳児並みに引き上げて、人の言語も話せるようにしたわ。どう、私の言葉を理解できる?」

あれ…わかる…わかります‼︎ 女の人が私の頭を撫でた途端、頭の中がスッキリしてきて言葉を全て理解できる‼︎

「ありがとうございます!! 私はリコッタと言います」

本当だ、人の言語も話せる‼︎
この人、凄い!!

「ちゃんと自己紹介してくれたのね、えらいわ。それに敬語で話しているようだし、あなたはあの女性に大切に育てられてきたのね。私は、日本で言うところの《神》に値するものよ」

知らない人に対しては、自己紹介するのが当たり前だと思います。
ご主人様だって、いつもこんな話し方でした。

神様という言葉は、私も頻繁に耳にしています。特に神社へ言った時、ご主人様が必死に祈っている時、この言葉を使っていました。そんな凄いお方なら、ご主人様の消えた理由を知っているかもしれません。

「女神様、ご主人様が私の目の前で消えちゃいました。何処に行ったのでしょう?」

質問した途端、何故か苦笑いを浮かべました。

「リコッタ、落ち着いて聞いてね。あなたたちの身に起きた状況を理解できるかしら?」

状況? 
行方不明者を捜索中、私とご主人様は信号無視をした暴走車にはねられた。

凄く痛くて目の前で倒れているご主人様に向けて、「ク~ンク~ン」と鳴いたら、ご主人様は悲しそうな表情を浮かべ、私の頭をゆっくり撫でて…

『リコッ…タ…ごめん…ヘマ…しちゃった。ごめん…ね』

そう言ったら、ご主人様の手がぱたっと地面に落ちた。必死に叫ぼうとしたけど、私の身体も動かず、段々と痛みも引いてきて気づいたらここにいた。もしかして、私たちは死んじゃったの?

「その通りよ、あなたたちは死んだの。そして、私はあなたのご主人様の記憶を保たせたまま、魂を新たな命へと転生させたの。次は、あなたの番ね。生まれ変わるにあたって、何かお願いがあるかしら?」

転生…生まれ変わる…あれ?
何故か、意味がわかります。
《記憶を保たせたまま》ということは、私との思い出も残るということですよね?

「私も記憶を維持したまま、ご主人-安優香様のもとへ行きたいです!!」

嫌な記憶もありますが、ご主人様との思い出を無くしたくありません。
女神様は、何故か困った表情を浮かべた。

「私は、彼女を異世界《ラストリア》へと転生させたわ。ここからあの世界に転生できる人数が決められていてね。当分は無理かな~」

「え、そんな!?」
 
私はご主人様に恩返しをしたい。

今の私なら、小さい頃に経験したあの状況が《多頭飼育崩壊》とわかります。警官だったご主人様は、私をその状況から救ってくれて、そこから訓練されて警察犬になって、一緒に色んな所に行って行方不明者を見つけたりもした。

私は、ご主人に拾われて幸せだった。
もう一度、ご主人様のもとへ行って飼われたい。
私の願いは、それ一択だけなのに……。

「(この子、年齢は7歳のはず、邪念が全くないわ。動物でも、ここまで純粋な子っていないわよ。やめて、そんな目で見つめないで!! これは決まりなの…でも、もしかしたら空きがあるかも……)あ~ちょ~と待ってね」

女神様が懐からスマートフォンを急に取り出して、誰かに連絡しています。

「ねえ、もう1人…いえ1匹分だけそっちに送っていいかしら?」

ご主人様の転生先は《異世界》って言ってたけど、どういう意味なのかな?

「この子の魂を覗いてみなさいよ。……ねえ、綺麗でしょう? できれば、これまでに見聞きした人間たちとの会話や常識を全て理解させた状態で転生させてあげたいわ。この綺麗さなら、不都合は生じないでしょう?」

どんな話をしているのかな?
私は異世界《ラストリア》へ行けるのかな?

「え…そうなの? かなり離れているけど、スキルで彼女の匂いを辿れるようにすれば問題ないわね。それじゃあ、彼女の希望を聞いて、3つのスキルを与えるわね」

女神様がスマートフォンを懐に入れました。

「リコッタ、異世界の神があなたの転生を了承してくれたわ」
「本当ですか!? やったやった!!」
「(この子を抱きしめたい衝動に駆られるけど、女神としての威厳を示さないとね)ただし、急な事もあって、あの子とはかなり離れた場所で生まれるけど、それでもいいかしら?」

私の我儘を通してもらったのだから仕方ないけど、ご主人様の匂いを辿れるかな?

「ご主人様の匂いも変化しているのですか?」

「匂いだけでなく、姿も変化しています。今回、特別措置として、あなたにはあの子の匂いを辿れるようスキル《絶対嗅覚》を与えましょう。効果の一つに、あなたがご主人と認めた者であれば、何処にいようとも匂いを感知し、方向と距離を正確に把握できます」

スキル《絶対嗅覚》? 

それって、私たち犬の持つ《帰巣本能》と似ている気がします。私が迷子になった時も、周囲の匂いを探り、知っているものを辿っていくことで、ご主人様のいる場所へ到着できました。

「ありがとうございます。どんなに離れていても、必ず見つけ出してみせます!!」
「本当に良い子ね。それじゃあ、他に欲しいスキルはあるかしら? あの世界の人類には、初期の時点で3つのスキルストックがあるの」

ということは、残り2つですね。《スキル》という言葉の意味がわからないけど、何か願い事を言えばいいのかな?

「身体を丈夫にしてほしいです」
「健康な身体ね。長距離の旅なのだから、当然ですね」

 健康な身体、それもいいですけど、私の場合は意味が違います。

「私の身体は小型で、他の犬たちより弱いんです。災害救助犬のような災害現場に行けないし、出来ることといえば、臭いを分別して行方不明者を捜索することくらいなんです。どんなところでも進める丈夫な身体が欲しいです」

シェパードやドーベルマンといった警察犬みたいに、私も色んなところに行ってご主人様の役に立ちたいけど、この身体だから出来ることが限られていた。だから、嗅覚に関しては誰にも負けないよう、みっちり訓練して成果を上げたことで表彰されたりもしたし、他の犬たちからも褒められたけど、私も災害に遭った人たちを助けたいと、いつも強く思っていた。

「本当に純粋な子ね。丈夫な身体で攻撃にも転じることができるスキル《身体硬健》を与えましょう。日本の四字熟語と少し意味合いが違いますが、あなたの望むものです。他には、ありませんか?」

やった、嬉しい‼︎ これで、色んな場所に行けます‼︎
他に望むもの……う~ん、やっぱり顎かな?

「他の犬よりも顎の力が弱いので、顎を強くして欲しいです」
「顎ですか!?」

女性は何故か驚いているけど、変なこと言ったかな?

「あなたを獣人の女の子に転生させるので必要ありませんよ? それに、さっきのスキルを応用すれば、顎や牙も強くなります」

獣人という言葉の意味がわからないけど、牙も強くなるのなら嬉しい。

「それならご主人様と再会した時、私だとわかってもらえるよう、この姿に変身できる力が欲しいです」

女性は、何故か微妙な顔をしています。
私は、また変なことを言ってしまったのかな?

「あなたの言いたいことも理解できますが、それだと《犬化》になるから、なんだか勿体無いわね、デメリットしかないわ。《獣化》にして、あなたの身体能力を向上させましょう。それなら獣人の時よりも、速く走れようになります」

やった!! 
この姿に戻れるのなら、ご主人様だってわかってもらえます!!

「ありがとうございます!!」

「元気があってよろしい。あなたの場合、赤ちゃんからだと不都合が生じますから、自我の強くなり始める8歳の時に記憶を呼び起こすようにしましょう。今の精神年齢と近いので、周囲に上手く溶け込めるわ。次目覚めた時、あなたは孤児で必要最低限の知識を身につけた獣人の8歳の女の子です。始めは混乱するでしょうが、落ち着いて行動するように」

今の記憶が目醒めるのは、8歳の時なんですね。
ご主人様と同じ世界に行けるだけでも嬉しいです。
絶対、見つけてみせます!!

「はい、わかりました!!」

「異世界《ラストリア》の世界観は、ヨーロッパ20世紀初頭の文明に近く、魔法やスキルのあるファンタジー世界よ。不便なところもあるでしょうけど、頑張ってね」

魔法とスキル?
知能を引き上げられても、いまいちイメージできません。
私の周りが、どんどん輝いていきます。
目を開けていられない。
安優香様、私は絶対にあなたのもとへ辿り着いてみせますね。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...