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第一章
任務─➀
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雑貨屋に帰ると、出迎えてくれたおばあちゃんは俺の手の中にいる四十雀を見るなり、目をまんまるにして俺と四十雀を交互に見つめた。
どう説明しようかと四十雀に目線を落とすと、さっきまで元気そうだった四十雀がぐったりとしている。ちらりと見上げた瞳がうまくやれよと訴えかけている。
「……おばあちゃん……こいつ、怪我してるんだ。あまりにも苦しそうだから居ても立ってもいられなくなっちゃって……」
むかついた気持ちが自然と声にこもってしまった。この鳥はなんて無責任なんだろう。
おばあちゃんは頷きながら心配そうに四十雀を見下ろした。
「そうなの……かわいそうにねえ……」
そう言って顔を覗き込むおばあちゃんを四十雀は品定めをするかのように見つめていた。
「……こいつ──」
四十雀が聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。俺が聞き返すと、おばあちゃんは不思議そうな顔で俺の顔を見つめた。
「蒼ちゃん、夕飯できてるよ。早く着替えておいで」
おばあちゃんがにこにこ笑う。俺は曖昧に頷き、商品棚を横切って階段を上った。
「きみの声、俺にしか聞こえないのか?」
手の中ですっかり元気になった四十雀に問いかける。四十雀は相変わらずの声色で俺を睨む。
「当たり前だろう、お前にしか話しかけてないんだから」
半ば呆れたように言う四十雀は、俺が部屋の扉を開ける瞬間に飛び立ち、滑らかに入っていった。礼儀の欠片もない彼にむっとしながら俺も中に入る。
「そんなのわかんないって。俺はきみとは違うんだから」
俺が文句を言うと、四十雀は今までにないほど冷たく言い放った。
「少しは考えろ。なんでもかんでも教えてもらえると思うな。お前は馬鹿なのか」
さらにむっとする俺を尻目に、四十雀はふわりと椅子の背に降り立つ。そしてゆったりと羽繕いを始めた。
しばらく沈黙が訪れる。開いた窓から吹き込む肌寒い風が俺の肌を冷ました。
「……さて、まず何から聞きたい?」
四十雀が嘴を開く。俺はしばし考え込み、口を開く。
「……きみは何者なの? 時の使い手って何?」
俺が目線を合わせて問うと、四十雀は言葉を選ぶように顔を逸らした。
「む……、話せば長くなる。簡潔に言うなれば、時を見ることができるということだ。わたしたちは過去、現在、未来すべてを見ることができる」
「わたし“たち”?」
四十雀がこくりと頷く。
「わたしたち四十雀はみな、その能力を持っている。時間の均衡を保つために授かったものだ」
四十雀は四角い夜空を見上げた。
「──しかし最近、その均衡が乱れてきている。身勝手な欲望によって時空が歪み、取り返しのつかない事態になってしまった。このままではいつ善からぬ者が放たれてしまうかわからない」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。四十雀は遠くを見るような目で続ける。
「──天が泣いているんだ」
四十雀は俺にそう言った。
どう説明しようかと四十雀に目線を落とすと、さっきまで元気そうだった四十雀がぐったりとしている。ちらりと見上げた瞳がうまくやれよと訴えかけている。
「……おばあちゃん……こいつ、怪我してるんだ。あまりにも苦しそうだから居ても立ってもいられなくなっちゃって……」
むかついた気持ちが自然と声にこもってしまった。この鳥はなんて無責任なんだろう。
おばあちゃんは頷きながら心配そうに四十雀を見下ろした。
「そうなの……かわいそうにねえ……」
そう言って顔を覗き込むおばあちゃんを四十雀は品定めをするかのように見つめていた。
「……こいつ──」
四十雀が聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。俺が聞き返すと、おばあちゃんは不思議そうな顔で俺の顔を見つめた。
「蒼ちゃん、夕飯できてるよ。早く着替えておいで」
おばあちゃんがにこにこ笑う。俺は曖昧に頷き、商品棚を横切って階段を上った。
「きみの声、俺にしか聞こえないのか?」
手の中ですっかり元気になった四十雀に問いかける。四十雀は相変わらずの声色で俺を睨む。
「当たり前だろう、お前にしか話しかけてないんだから」
半ば呆れたように言う四十雀は、俺が部屋の扉を開ける瞬間に飛び立ち、滑らかに入っていった。礼儀の欠片もない彼にむっとしながら俺も中に入る。
「そんなのわかんないって。俺はきみとは違うんだから」
俺が文句を言うと、四十雀は今までにないほど冷たく言い放った。
「少しは考えろ。なんでもかんでも教えてもらえると思うな。お前は馬鹿なのか」
さらにむっとする俺を尻目に、四十雀はふわりと椅子の背に降り立つ。そしてゆったりと羽繕いを始めた。
しばらく沈黙が訪れる。開いた窓から吹き込む肌寒い風が俺の肌を冷ました。
「……さて、まず何から聞きたい?」
四十雀が嘴を開く。俺はしばし考え込み、口を開く。
「……きみは何者なの? 時の使い手って何?」
俺が目線を合わせて問うと、四十雀は言葉を選ぶように顔を逸らした。
「む……、話せば長くなる。簡潔に言うなれば、時を見ることができるということだ。わたしたちは過去、現在、未来すべてを見ることができる」
「わたし“たち”?」
四十雀がこくりと頷く。
「わたしたち四十雀はみな、その能力を持っている。時間の均衡を保つために授かったものだ」
四十雀は四角い夜空を見上げた。
「──しかし最近、その均衡が乱れてきている。身勝手な欲望によって時空が歪み、取り返しのつかない事態になってしまった。このままではいつ善からぬ者が放たれてしまうかわからない」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。四十雀は遠くを見るような目で続ける。
「──天が泣いているんだ」
四十雀は俺にそう言った。
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