STAND BY ME… - 女子高校生幽霊奇譚 -

月森冬夜

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第2部

3.

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 放課後。
 蛍子は、担任の教師に呼び止められて体調やら気分やらをたずねられた。教師も職員室などで蛍子のことを聞かれたりするだろうし、報告の義務があるのかもしれない。早く美術室に行きたかったのだが、教師の立場に配慮してしばらく質疑応答に付き合った。

(ふたりともまだ居るのかな……?)

 担任とわかれて、蛍子は廊下を歩きながら考えた。
 非現実的な出来事だったが、夢でも幻でもなく、会話した記憶はしっかりと残っていた。
 しかし、もしかすると幻だった可能性もある。ひとりだけ生き残った負い目を払拭するため、自分で自分に許しをあたえるために生み出した幻想だったのかもしれない。なにしろ頭を強く打っていることだし。
 蛍子は美術室のドアをそっと開けて中を見た。

「おつかれさまです」

 部活に出ていた部員たちが部長である蛍子に気づいて挨拶した。
 蛍子が退院明けであることと、明里と魅那子がいないことで、いつもより静かな挨拶だった。みな神妙な態度でどの部員にも笑顔はない。

「あ、おつかれさま」

 蛍子が部員たちに挨拶を返し、自分が座る席を見ると、いつも通り明里と魅那子はその後ろの机に座っていた。姿は「いつも通り」ではなかったが。

「いるし」

「いるし、じゃねーよ」

 魅那子がすかさず言い返す。その声や姿にはだれも気づいていない。
 蛍子はイーゼルとキャンバスを引っ張り出した。美術室は各クラスが使用するので、美術部の作品は毎回教室の隅にかたつけておかねばならない。

「ほかの人にはあたしたちは見えてないのかな」

 蛍子が席につくと、明里が後ろからささやいた。

「見えてたらみんな気絶してるか逃げ出してるわよ」

 蛍子も小声で答えた。頭を打ったことは部員たちに知られているだろうから、ひとりでぶつぶつしゃべっていたら「退院が早かったんじゃないか」と思われてしまう。

「蛍子がひっくり返るほどだからなあ」

 魅那子が人ごとのようにつぶやいた。

「なんかもう、ヒドイかっこうよね。あたしなんて腕折れちゃってるし。どーすんのこれ」

 明里は折れているほうの腕をプラプラさせた。

「死んでるのにケガの心配はいまさらすぎるだろ」

「でも、なんか不便」

 蛍子のほうは後ろの会話にいちいち反応することもできない。
 ほぼ無視した状態で完成した絵をながめていた。
 ふと足もとを見る。
 床にあったはずの血溜まりがなかった。
 血が止まっている。

「そうだ」

 思わず声をあげた。
 大きな声ではなかったが、部員たちの視線が一斉に蛍子に向いた。

「ああ、いや」

 蛍子は片手を軽く上げて、文化祭の案を練っていただけだとごまかした。
 そして背後をふり返り、痛ましい状態の友人と彼女らが座る机の下を見た。
 部員たちから見れば親友を懐かしがっているように見えるかもしれない。

「みんな、遅くならないうちに帰っていいよ」

 とりあえず、部員たちを帰すことにした。
 ちゃんと部活に出てきている部員たちは、それぞれひとつは作品を仕上げている。文化祭まであと五日しかないのでどうせもうひとつは無理だし、あとは文化祭前の展示をしてもらえばいいだろう。

「部長、大丈夫ですか?」

 部員たちは心配して声をかけてくれる。

「ああ、うん、大丈夫よ。ありがと」

 蛍子は心配させないように笑顔で答えた。
 幽霊が見えている自分が本当に大丈夫かどうかは判断がつかないが、頭を打つ前から九多良木紫苑の幽霊は見えていたのだから、脳の異常や精神疾患ではないのではないかとも思う。



「あなたち、見た目は変えられないの?」

 部員たちがいなくなると、蛍子は明里と魅那子のほうを向いて言った。

「ええ? 見た目を変えるってどういうこと」

 明里が目を丸くした。もともと大きい目がさらに大きくなるととても可愛らしい。残念ながらいまは片方の目しか確認できない。

「最初に見たとき、あなたたちもっと出血してたじゃない、床に血が溜まるほど。でもいまは出てないわよね」

「時間が経ったから、血が止まったんじゃない?」

「いや、だから……」

 どう説明すればいいのかと、蛍子は頭をかいた。

「ふむ……なるほど」

 魅那子のほうは理解したようである。自分の身体をしげしげと見ながら言った。

「自分の意思で、あるいは無意識に血を止めてるなら身体もなんとかならないかってことだな?」

「そうそう、そういうこと」

 蛍子はコクコクとうなずいた。

「でも、どうやって?」

 明里が当然の疑問を口にした。

「わかんないけど、とりあえず怪我する前の自分の姿を強く思い浮かべてみたら?」

「じゃ、ダメモトでやってみよう。どうせ暇だし」

 魅那子は意識を集中するように目を閉じた。
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