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第12話 追跡

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 国立博物館へ向かう消防や警察のサイレンの音が徐々じょじょに遠ざかっていくのが、トラックの荷台に隠れているボクとリトルにも聞こえてきた。
 ボクらを乗せたトラックは宅急便が使っている運転席と荷台が一体化したタイプだった。ボクとリトルはイクミちゃんが助手席へ乗せられたことを知ると、黒背広が注意を払いながら運転席へ回るスキをいて、後ろの荷台ドアをこっそり開けて車内に素早くもぐりこんだんだ。荷台には大小いろいろな荷物が荷造りされ、クモの巣のようにアミで固定されている。さっき見た国立博物館から盗み出された芸術品など秘宝の数々だ。
 まだジンジン痛む足をさすりながら、そっと立ち上がったボクは後ろの窓から外の景色をのぞき見た。トラックは早くもショッピングセンターの前を通り過ぎて長いトンネルに入りはじめたところだ。だとするとボクらは来たみちを戻っていることになる。トンネルを抜けてしばらく行くと一本道。そしてその先は……。
「リトル、次の作戦なんだけど」
 返事がない。
「リトル!」
 あせりで体から力が抜けて手足がかすかに震えてくる。頭の中でボクはなおも呼び続ける。
「リトル! リトル!」
『………』
「リトル! リトル!」
『んっ、なに?……』
 ほっとしたが、不安で涙が出そうになった。誘拐ゆうかいされてるイクミちゃんのことも心配だが、それよりも大きな不安で押しつぶされそうだった。会話が途切とぎれたら、それでおしまいのように思われたからだ。だから一所懸命いっしょけんめいに次の作戦をリトルに提案ていあんし続けた。それこそ実現不可能な作戦まで、考えつくままにいろいろと。
「さて、かくれているのは、とうにわかってるんだ。さっさと出てきたまえ」
 黒背広の片手ににぎられた拳銃が鈍い光を放ちながらイクミちゃんに向けられる。リトルとの交信をめられたボクは怒りをおさえながら荷台から顔を出した。
「まったく、どんなマジックを使ったのか知らないが、よくも私の計画を邪魔じゃましてくれたものだ」
 ボクはだまっている。
「計画は変わったが、君たちには最後までつき合ってもらうよ。それだけのことをしたんだからね」
「………」
「怖くはないのかね」室内のバックミラーしに黒背広のサングラスがギラリと光る「私の国はとてもまずしい国でねぇ。君たちには想像もつかんだろうな。そこの子供たちには2種類しかいないんだよ。一つは不安をかかえ、おびえた目をした子供だ、この女の子のようにね。もう一つは、どんな子供かわかるかね?」
 気持ちの悪い猫なで声にボクはなおもだまっている。
「君のように悪に立ち向かう勇気ある少年……ふん、バカバカしい! もう一つは死んだ子供たちだよ! その2種類しかいないのだよ!」
 不安そうにシートベルトをつかんでいるイクミちゃんと目が合った。
 しばらくしてイクミちゃんは、体を二つりにして、わっと泣き出した。
 黒背広は満足したように銃をふところおさめた。その動作を見計みはからって、ボクは初めて口を開く。
「ねぇ、おじさん」
 何事もなかったかのように黒背広は運転を続ける。どうやら今度はボクが無視される番らしい。
「おじさんも、おびえた子供だったんだよね」
 ボクの言葉に、はっとこちらを見た黒背広はすぐにわれを取り戻すとバックミラー越しににらみつけてきた。
「生き残って大人になれたんだから、そうでしょ。ボク、おじさんの国のことは全然知らないけど、ほかの種類の子供たちも、きっといるはずだよ」
「なんだと、小僧」
 走る車の中で運転席に近づいたボクと黒背広の視線が一瞬、ぶつかり合った。
「ねぇ。それは、どんな子供かわかる?」
「………」
「わからないんだね。じゃぁ、教えたげるよ。それは友だちがいる子供たちさ。彼らは助け合って不安を押しのけられる。きっと、そんな子供たちが、おじさんの国にも……」
「黙れ! お前のように恵まれた国に育ったガキになにが……な、なんだ、これは?!」
 場所と時間は申し分がない。
 リトルの合図とともにボクとイクミちゃんは危険をともなう反撃にでたんだ。
 ボクに注意を向けていた黒背広は、泣いているお芝居しばいのイクミちゃんが二つ折りにした体の下に手を伸ばし、助手席の横から発煙筒をこっそり取り出して、マッチをるように、それに点火するのを見抜けなかった。
 仕上げにボクはリトルから教えられた黒背広の国の言葉で窓の外を指差して、大声でこう叫んだ。
「警察だ! 警察が来たよ!」
               *
 完全にボクたちのペースだった。ボクは素早くハンドルに飛びついて、えいや、とばかりに大きくそれを左へ回した。
 土手どての上を走っていたトラックは大きくみちをそれ、ガタガタと土手どてくだりはじめた。そしてボクが荷物を固定しているアミに飛びついたと同時にイクミちゃん、ボク、リトル、そして黒背広の悲鳴をかき混ぜながら、トラックはゴロンゴロン、ガンガンと今度は石のように土手どてを転がり落ちはじめた。
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