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自棄酒したけど、それでも俺は悪くない!
しおりを挟む「うぃ~、ヒック……あれ? あぁ~、もうないやぁ。オヤジ、酒! 同じの!」
「……まぁ、こっちとしちゃぁ、売り上げに貢献してくれて嬉しい限りだがよ。そろそろ止めとかねぇと、マジでお前、早死にするぞ?」
「このくらいなんぼのもんじゃー! それに神官には、酒精を分解する魔法だってあるんだ! まだまだいけるぞ、こん畜生め!」
「そりゃあ、バッカシュ神官のお家芸だろうが……ったく、処理が面倒なんだから、うちで死ぬんじゃねぇぞ」
オヤジは氷をグラスに2つ入れて、トクトクと綺麗な琥珀色の液体を注いでいく。
一杯になった瞬間に、グラスを手に取ってグイッと喉に流し込む。
「んぐ……んぐ……んぐ……!」
「ペースはえぇっつうの、もう少しゆっくり飲めや」
そんなオヤジの言葉なんて、聞いても知った事かと知らんぷり。
注がれた酒があっさりとなくなり、残った氷だけがカランとグラスの中を転がる。
「ぷはぁ! ……ぐす……ひっく……ユーリ、俺達はそんな簡単に離れられるような、軽い友情じゃなかっただろぉ……ぐす……うぇぇ……」
「彼氏に逃げられた女か? 女々しい奴だな。皆楽しく飲んでんだから、湿っぽくなるような愚痴零してんじゃねぇよ!」
「聞いてくれよオヤジぃ、ユーリがさぁ……」
「……駄目だこりゃ」
もう知るかと、空いたグラスに酒を注ぎ直して、オヤジは他の客の対応に向かった。
むすぅっと頬を膨らます
「……ひでぇなぁ、オヤジ。少しくらい良いじゃんよぉ~」
同情して欲しいとか、慰めてほしいとまではいわないけど、せめて少しくらい話し相手になってくれてもいいのではないだろうか。
酒をなめるように少しずつ飲みながら、俺は座っているカウンターに突っ伏して、一人寂しく涙を流す。
「……そりゃさ、わかっちゃいるんだよ。俺なんて足手まといだってさぁ……あの頃はよかったなぁ」
あの頃、おおよそ3年くらい前のこと。
ユーリを含めて3人とも、あの頃から才能はあったけど、まだまだ冒険者のイロハも知らない新米揃い。
当時は俺程度の回復魔法でも、十分に役立っていた。
だから俺も、あんまり意識することはなかったのだ。
けど、ここ最近はどうだ。
ユーリもサーシャもリリアンも、その成長は目覚ましい。
ユーリはいつの間に覚えたのか、斬撃を飛ばすスキルで、偶然近くに来ていた空を飛ぶ魔物を一撃で倒してしまうし。
後でギルドで聞いたらその魔物、最近緊急討伐依頼が出された奴らしい。
空を高速かつ無音で移動し、遠距離からの唐突な風魔法による奇襲を得意としている奴で、新米からベテランの冒険者まで幅広く被害にあっていたとか。
その結果、ギルドから与えられたのは依頼ランクA。
通り名は“無音の暗殺者”ガルダ。
そんな奴を「なんだあいつ?」とふいにその存在に気付き、おもむろに剣を一閃。
斬撃が高速で飛んで行って、その魔物は一刀両断にされてしまった。
ユーリがいなければ、俺達はその時に死んでいたかもしれない。
実力もさることながら、戦闘での直感力は周りと一線を画すものがあった。
サーシャは中級までなら一通りの属性魔法を使えて、最近は上級の炎魔法エクスプロージョンなんてのを習得した。
少し詠唱時間が長いが、全魔力をつぎ込んでまともに当てることが出来れば、最上級の魔物にだってダメージを与えられるだろう。
そしてリリアン。
あいつもなんだかんだで規格外な奴だ。
格闘家だから拳が主体なのはわかるけど、鍛錬といってサーシャの魔法を殴り飛ばしたり、剣を持ったユーリと殴り合ったりしてるし。
お前、本当に人間か?
お前の拳には、精霊か神様でも宿ってるんじゃないのか?
そう何度思ったことか。
その中で俺はというと、この3年間スキルも魔法も覚えることはない。
杖だけはそこそこの物を一本買い、杖術なんかに手を出したりもした。
しかしそれでも使える魔法はヒール1つのみ、スキルも習得しやしない。
教会や地元の両親に頼っても、そもそも戦うことを念頭に置いてないから、教皇クラスでもヒール一つしか使えないという、悲しい情報しか得ることは出来なかった。
「……それ知った時も、今みたいに自棄酒したっけなぁ……ヒック……」
チビリ、寝そべりながらグラスを少し傾ける。
この3年、他のメンバーと比べて自分の成長を振り返る。
俺に成長したものがあるとすれば、それはパーティ内の雑務処理の腕とヒールの熟練度くらいだろう。
使い続ければ少しずつ力の運用の仕方が向上していき、スキルも魔法もその効果が上がっていく。
さっき上げた我らが宗派の教皇様ともなれば、ヒール一発で切断された手足も綺麗に繋ぐことが出来るだろう。
まぁ、それくらいなら中級の回復魔法ハイ・ヒールがあれば出来るのだけど。
上級のリザレクションともなれば、それこそ完全に欠損していても元に戻すことが出来るそうだし。
ちなみに他所の宗派の教皇なら、大抵はリザレクション持ちらしい。
まったくもって羨ましい限りだ。
「ヒールだけは滅茶苦茶使ってきたけど、流石にそこまで回復力はないしなぁ……」
おおよそだが治療院にでも行けば、すぐ雇ってくれそうなくらいの力はあるだろう。
ある程度の力のある神官は、冒険者をしたり教会に勤めてたりで、治療院の人手は不足しているようだし。
しかし別に俺は治療院に就職したいとは思っていない。
「……俺だって、俺だってよぉ……英雄譚みたいな冒険したかったのに……くぅぅ!」
あいつが英雄譚みたいな冒険をして、偉業を打ち立てたいと夢を語った時、俺もそれに憧れた。
ユーリについていけば、俺も新しい英雄譚に名をのせることが出来るんじゃないか。
仮に名をのせることが出来なくても、ユーリが打ち立てる偉業を間近で見ることが出来るんじゃないかって。
両親は良い人達だ。
時に厳しくはあったが、いつも俺のことを思って優しい言葉を投げかけてくれた。
宗派の教えの通り、傷ついた人達を癒し、誰にでも優しくあろうとした。
そんな尊敬すべき両親ではあるが、この時ばかりは少しだけ恨めしい気持ちが湧いてくる。
自分たちの子供だからと、同じところに入信させなくてもいいではないかと。
入信させられたのは赤ん坊の時だったから、俺には拒否なんて出来ようもなかったし。
「他の宗派だったら……俺も今頃いろんなスキルや魔法が使えて……ユーリたちと一緒に冒険してて……」
たらればと、そんなあり得ない”もしもの話し”が洪水のように次から次へと口から出続ける。
そんな時。
―――カタンッ
「ずいぶん荒れてるようですねぇ」
「……あぁん?」
誰かが隣に座り、馴れ馴れしそうに話しかけてきた。
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