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私が聖女ではない?嘘吐き?婚約者の婚約者の思い込みが残念なので正してあげます。
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「お前が聖女のわけないっ!この○○女め!」
「!まぁ…」
子爵の御令息とは思えない、というよりも常識的な大人なら口に出すはずもない悪態。
正体を表したのはどちらかしら。
ドン引きして言葉も出ない私を、都合よく解釈した婚約者はさらに言葉を重ねた。
「だいたい、評判も出来過ぎていたんだ!『この街の聖女は子ども好きで民からは慕われ、性格はおしとやか、金髪の愛らしい女性』だと。ああ俺も愚かだった。初めておまえに会った時に気づかず、噂を信じて婚約までしてしまったのだから。でも全くの嘘だった」
流石に私だって初めて会ったお貴族様相手には猫10匹はかぶりますよ?
でも嘘吐きは言いすぎだと思います。
あと気付いてないようですが、早くも自分の見る目の無さを認めましたね。
「待ってください。私は嘘をついておりません」
「なんだと?」
不機嫌そうに睨まれても事実は変わりません。
「まず確認いたしますが。今の評判は私のことでよろしいのかしら?」
「そうだ!とぼけるな!」
「本当に私は嘘をついたことありません(そもそも自分が噂を広めた訳ではないし)」
「煩い!さっきも見ていたぞ。迷子の子どもがいたのに無視して通り過ぎだだろ」
「(そんなこと?)確かに通り過ぎましたが」
「泣きそうになっている子を無視するとは、何が子ども好きだ」
その子結局泣いてなかったし。というか住んでる家の前で迷子になるはずがない。
母親である八百屋のおばさんが「店を手伝わないとおやつ抜きだ!」と大声で言っているのが通りまで聞こえてきたからそれが原因でしょう。たぶん。
言い訳すらしない私に、婚約者は言葉を重ねる。
「非道な!そんな女性だとは…」
「はぁ。そう言われましても。私、子どもは嫌いなので積極的に関わらないようにしてますの」
「嫌いだと!?では修道院で面倒を見ていたというのは偽りだったのか!!」
「いえ、面倒は見てました。それが仕事なので」
「…仕事?」
「子どもたちの面倒をみる事が私の仕事です。対価はこの修道院での衣食住の補償です」
婚約者は目を見開いている。え、働かざる者食うべからずって普通でしょう?
「まさか食事のためにいやいや面倒みてたのか!」
「はい」
「なに!」
「仕事とはそういうものです。もしうちの修道院の子どもが迷子で泣いてたら助けました。仕事なので」
「こんな女だったとは。それなら民から慕われるはずもないな!従兄弟のアルからおまえが勝手気ままに周囲を振り回していると聞いた。冗談かと笑って聞き流したが、本当だったのだろう!」
慕われてた?勝手気ままに振り回す?
うーん。どちらも心当たりはない。んん?そう言えば…
「その、従兄弟のアル様は隣町に住んでますよね?もしかしたら、先日の問屋騒動の場にいたのかしら」
「?なんの話だ?」
「友人が毛織物の問屋で働いているのだけど、最近売り上げが伸びないって悩んでたので一緒に原因を調べていました。そうしたらこの町と隣町の問屋間で手数料の利率が違うことがわかって…。結論から言うとこの町が損していました」
「損?」
「ついでに毛織物の取引価格も見直してたら、王都で販売した方が儲かるなぁって話になりまして」
「王都?」
あ、この反応は思考が追いついていないな。説明しても無駄な気がします。
「えーと、結局二つの町共同で王都へ毛織物を売り込むためのギルドを作りました。両方の町に利益が落ちるよう動き始めたところです」
本来ならうちの町だけで進めたかったが、ひとつの町だけでは初期費用を回収するのに時間がかかるので手を組んだ…という説明は省きましょう。
「今まで利益を独占していた一部の問屋にとっては痛い話らしく結構揉めました」
そうだ。アル様のご実家は隣町で幅を利かせていた問屋だったので最後まで反対していました。昔から町の中では大きな顔して商売してたのに、ギルドを作った途端肩身が狭くなったようです。おそらく真っ当な商売をしていなかったのでしょう。その件では隣町の人からはすごく感謝されました。あ。それって慕われてるっていえるかしら。
一通り話すと、婚約者は目を泳がせて考え込んでいるようだ。
いちおう、アル様のご実家の町での評判は知っていたのでしょう。
私がすっかり冷めた紅茶を飲み終えた頃、心を持ち直したらしい婚約者は話を続けた。
「お、おしとやかで愛らしいとは言えんな!」
えぇぇ。そんな主観的な話されても。
礼儀作法は修道院で習っていますし、対外的には行儀良くしています。
この町はお年寄りが多いから孫扱いで愛らしいねぇかわいいねぇとは言われてます。
念のため付け加えるなら、私は自分から『おしとやかで愛らしいのよ』と言ったことはありません。
自分でも苦しいと気づいたのか、婚約者は沈黙したのち、やっと閃いたというように…
本題に戻った。
「そもそも聖女かどうかも怪しいな!」
「怪しいというか、私、聖女ではありませんよ」
「は?」
「聖女と名乗ったことはありません。貴方様が勝手にそう呼んでるだけです。この町の皆が知っています」
「みんな!?待て、初めて聖女に会うために修道院にきた時、お前のところに案内されたぞ!」
「初めて…ああ!いましたね!聖女の隣に座ってました」
「あの時はお前と貧相な子供しかいなかっただろ!」
「その子同い年です。太れない体質で痩せ型なんですよ」
最近は食事改善と睡眠改善で健康的な可愛い子になったのでちょっと嫉妬するくらいです。
「同い年…」
「そう。その子が本物の聖女ですね」
「いやいや待て!金髪ではなかったぞ!」
「金髪ですよ。私と比べたら茶色に近いですけど」
「あ、愛らしい…」
「それは」
当時はまぁ、正直微妙でしたね。痩せすぎだったので。
でも愛らしいって良い表現なんです。どんなときに使っても許されます。
世の中のものは見方を変えれば、たいてい愛らしいのですから。
それ以上の説明はさせないでくださいな。
ニコニコ笑ってみせると、何かを察したのか愛らしい問題はスルーされる。
「あと、おしとやか、でしたか?確かに私と比べればそうですね。人を立ててくれる優しい子です。問屋騒動が解決したのは、本当は彼女の力が大きいのですよ」
「問屋騒動で?」
「王都の売り込み担当をお願いしたら、いつの間にか王族の方と宰相の御子息様、あと将軍の御子息様とご縁ができたみたいで。売り込みは成功したのですが、先日全員からプロポーズされて悩んでいると相談されました」
「王族と宰相と将軍」
「まだお答えしていないようなので、チャンスはありますよ。あ、私の方は慰謝料を頂ければ婚約解消しますのでいつでも言ってください」
そして。
婚約者は項垂れてなにやらぶつぶつ呟いていたが、ふと力なく立ち上がると出口へ歩き出した。
ずっと開いたままのドアをくぐる直前の挨拶は、ここを訪れた時の10分の1位のテンションだった。
「またくる」
「(慰謝料を)お待ちしてます」
「やっと帰ったね。お疲れー」
婚約者と入れ替わるように、茶色に近い金髪の愛らしい友人が顔を出した。
「本当に疲れました。あの方、慰謝料払ってくれるかしら。帰り際は魂抜けてたから話を聞いていないかったと思いますし」
「その辺はあとで請求すればいいよ!ぜーんぶ向こうの勘違いだし!」
「たった三ヶ月のお付き合いですが時間の無駄遣いでした。はぁ。婚約解消って噂が広まるのかしら」
「王都に行けばイイオトコ見つかるって!本物の聖女より可愛いし!」
「はいはい。ありがとうございます聖女様」
「本心で言ってるのよ。とにかく王都で住む場所は確保したわ。幼馴染と一緒じゃないと嫌!って言ったから二部屋ね。明日には出発よ」
「そうですね。慰謝料待ちで王都行きを伸ばすのは馬鹿らしいわ。あの人の別邸が王都にあるはずだから、慰謝料はそちらに請求しましょう」
そうだ。終わった婚約のために時間を取られるのは無駄なことだ。
友人もうんうんと頷いて嬉しそうに口を開いた。
「これで子どもの世話する日々ともおさらばってね!」
「あなた、私より子ども嫌いですね」
「キャンキャンうるさいじゃん。仕事じゃなければパス!そうだ、子どもで思い出した。例の王子の方も誤解してるの。最悪。子供はたくさんほしいとか言い出してさー。無いわー」
「無いですね」
「で、宰相の息子の方は…」
男の思い込みは本当にタチが悪い。
それが私と聖女の共通認識です。
「!まぁ…」
子爵の御令息とは思えない、というよりも常識的な大人なら口に出すはずもない悪態。
正体を表したのはどちらかしら。
ドン引きして言葉も出ない私を、都合よく解釈した婚約者はさらに言葉を重ねた。
「だいたい、評判も出来過ぎていたんだ!『この街の聖女は子ども好きで民からは慕われ、性格はおしとやか、金髪の愛らしい女性』だと。ああ俺も愚かだった。初めておまえに会った時に気づかず、噂を信じて婚約までしてしまったのだから。でも全くの嘘だった」
流石に私だって初めて会ったお貴族様相手には猫10匹はかぶりますよ?
でも嘘吐きは言いすぎだと思います。
あと気付いてないようですが、早くも自分の見る目の無さを認めましたね。
「待ってください。私は嘘をついておりません」
「なんだと?」
不機嫌そうに睨まれても事実は変わりません。
「まず確認いたしますが。今の評判は私のことでよろしいのかしら?」
「そうだ!とぼけるな!」
「本当に私は嘘をついたことありません(そもそも自分が噂を広めた訳ではないし)」
「煩い!さっきも見ていたぞ。迷子の子どもがいたのに無視して通り過ぎだだろ」
「(そんなこと?)確かに通り過ぎましたが」
「泣きそうになっている子を無視するとは、何が子ども好きだ」
その子結局泣いてなかったし。というか住んでる家の前で迷子になるはずがない。
母親である八百屋のおばさんが「店を手伝わないとおやつ抜きだ!」と大声で言っているのが通りまで聞こえてきたからそれが原因でしょう。たぶん。
言い訳すらしない私に、婚約者は言葉を重ねる。
「非道な!そんな女性だとは…」
「はぁ。そう言われましても。私、子どもは嫌いなので積極的に関わらないようにしてますの」
「嫌いだと!?では修道院で面倒を見ていたというのは偽りだったのか!!」
「いえ、面倒は見てました。それが仕事なので」
「…仕事?」
「子どもたちの面倒をみる事が私の仕事です。対価はこの修道院での衣食住の補償です」
婚約者は目を見開いている。え、働かざる者食うべからずって普通でしょう?
「まさか食事のためにいやいや面倒みてたのか!」
「はい」
「なに!」
「仕事とはそういうものです。もしうちの修道院の子どもが迷子で泣いてたら助けました。仕事なので」
「こんな女だったとは。それなら民から慕われるはずもないな!従兄弟のアルからおまえが勝手気ままに周囲を振り回していると聞いた。冗談かと笑って聞き流したが、本当だったのだろう!」
慕われてた?勝手気ままに振り回す?
うーん。どちらも心当たりはない。んん?そう言えば…
「その、従兄弟のアル様は隣町に住んでますよね?もしかしたら、先日の問屋騒動の場にいたのかしら」
「?なんの話だ?」
「友人が毛織物の問屋で働いているのだけど、最近売り上げが伸びないって悩んでたので一緒に原因を調べていました。そうしたらこの町と隣町の問屋間で手数料の利率が違うことがわかって…。結論から言うとこの町が損していました」
「損?」
「ついでに毛織物の取引価格も見直してたら、王都で販売した方が儲かるなぁって話になりまして」
「王都?」
あ、この反応は思考が追いついていないな。説明しても無駄な気がします。
「えーと、結局二つの町共同で王都へ毛織物を売り込むためのギルドを作りました。両方の町に利益が落ちるよう動き始めたところです」
本来ならうちの町だけで進めたかったが、ひとつの町だけでは初期費用を回収するのに時間がかかるので手を組んだ…という説明は省きましょう。
「今まで利益を独占していた一部の問屋にとっては痛い話らしく結構揉めました」
そうだ。アル様のご実家は隣町で幅を利かせていた問屋だったので最後まで反対していました。昔から町の中では大きな顔して商売してたのに、ギルドを作った途端肩身が狭くなったようです。おそらく真っ当な商売をしていなかったのでしょう。その件では隣町の人からはすごく感謝されました。あ。それって慕われてるっていえるかしら。
一通り話すと、婚約者は目を泳がせて考え込んでいるようだ。
いちおう、アル様のご実家の町での評判は知っていたのでしょう。
私がすっかり冷めた紅茶を飲み終えた頃、心を持ち直したらしい婚約者は話を続けた。
「お、おしとやかで愛らしいとは言えんな!」
えぇぇ。そんな主観的な話されても。
礼儀作法は修道院で習っていますし、対外的には行儀良くしています。
この町はお年寄りが多いから孫扱いで愛らしいねぇかわいいねぇとは言われてます。
念のため付け加えるなら、私は自分から『おしとやかで愛らしいのよ』と言ったことはありません。
自分でも苦しいと気づいたのか、婚約者は沈黙したのち、やっと閃いたというように…
本題に戻った。
「そもそも聖女かどうかも怪しいな!」
「怪しいというか、私、聖女ではありませんよ」
「は?」
「聖女と名乗ったことはありません。貴方様が勝手にそう呼んでるだけです。この町の皆が知っています」
「みんな!?待て、初めて聖女に会うために修道院にきた時、お前のところに案内されたぞ!」
「初めて…ああ!いましたね!聖女の隣に座ってました」
「あの時はお前と貧相な子供しかいなかっただろ!」
「その子同い年です。太れない体質で痩せ型なんですよ」
最近は食事改善と睡眠改善で健康的な可愛い子になったのでちょっと嫉妬するくらいです。
「同い年…」
「そう。その子が本物の聖女ですね」
「いやいや待て!金髪ではなかったぞ!」
「金髪ですよ。私と比べたら茶色に近いですけど」
「あ、愛らしい…」
「それは」
当時はまぁ、正直微妙でしたね。痩せすぎだったので。
でも愛らしいって良い表現なんです。どんなときに使っても許されます。
世の中のものは見方を変えれば、たいてい愛らしいのですから。
それ以上の説明はさせないでくださいな。
ニコニコ笑ってみせると、何かを察したのか愛らしい問題はスルーされる。
「あと、おしとやか、でしたか?確かに私と比べればそうですね。人を立ててくれる優しい子です。問屋騒動が解決したのは、本当は彼女の力が大きいのですよ」
「問屋騒動で?」
「王都の売り込み担当をお願いしたら、いつの間にか王族の方と宰相の御子息様、あと将軍の御子息様とご縁ができたみたいで。売り込みは成功したのですが、先日全員からプロポーズされて悩んでいると相談されました」
「王族と宰相と将軍」
「まだお答えしていないようなので、チャンスはありますよ。あ、私の方は慰謝料を頂ければ婚約解消しますのでいつでも言ってください」
そして。
婚約者は項垂れてなにやらぶつぶつ呟いていたが、ふと力なく立ち上がると出口へ歩き出した。
ずっと開いたままのドアをくぐる直前の挨拶は、ここを訪れた時の10分の1位のテンションだった。
「またくる」
「(慰謝料を)お待ちしてます」
「やっと帰ったね。お疲れー」
婚約者と入れ替わるように、茶色に近い金髪の愛らしい友人が顔を出した。
「本当に疲れました。あの方、慰謝料払ってくれるかしら。帰り際は魂抜けてたから話を聞いていないかったと思いますし」
「その辺はあとで請求すればいいよ!ぜーんぶ向こうの勘違いだし!」
「たった三ヶ月のお付き合いですが時間の無駄遣いでした。はぁ。婚約解消って噂が広まるのかしら」
「王都に行けばイイオトコ見つかるって!本物の聖女より可愛いし!」
「はいはい。ありがとうございます聖女様」
「本心で言ってるのよ。とにかく王都で住む場所は確保したわ。幼馴染と一緒じゃないと嫌!って言ったから二部屋ね。明日には出発よ」
「そうですね。慰謝料待ちで王都行きを伸ばすのは馬鹿らしいわ。あの人の別邸が王都にあるはずだから、慰謝料はそちらに請求しましょう」
そうだ。終わった婚約のために時間を取られるのは無駄なことだ。
友人もうんうんと頷いて嬉しそうに口を開いた。
「これで子どもの世話する日々ともおさらばってね!」
「あなた、私より子ども嫌いですね」
「キャンキャンうるさいじゃん。仕事じゃなければパス!そうだ、子どもで思い出した。例の王子の方も誤解してるの。最悪。子供はたくさんほしいとか言い出してさー。無いわー」
「無いですね」
「で、宰相の息子の方は…」
男の思い込みは本当にタチが悪い。
それが私と聖女の共通認識です。
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