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今までの私とこれからの私
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それからマルガの行動は早かった。ベーネを見送った足で雇い主である店主に仕事を辞める旨を伝えた。
朝から残念な話になったが店主は少し寂しそうな顔をしながらもマルガに「無理はするなよ」と労りの言葉を返した。すんなりと話がついたのはマルガが一睡もしないで考えた理由のおかげ、という事にしておこう。
親戚の家が色々あって大変なので手伝いに来て欲しいと言われた。
田舎から出てきたマルガの親戚関係など、城下町であるここまで情報などまず入ってこない。それどころかマルガの田舎が何処だか知ってる者も居ない。もっと言えば両親はもうずっと前に亡くなっているし、兄弟も居ない天涯孤独だ。完全な嘘だった。
どうやって連絡が来たんだと聞かれたら偶々会ったと言うつもりだったが店主はそこまでマルガに興味はなく、代わりの人員が見つかり引き継ぐまで働くという約束の方が大切そうだった。
その日の内に店の外壁に募集の紙を張り付ければ、流石は城下町というべきか直ぐに働きたいという女性が訪れた。田舎から出てきたばかりという少女の面影が色濃く残る女性にしっかり仕事を教え、忙しなくも充実した日々を過ごした。気が付けばベーネが去ってから一週間が経っていた。あっという間だった。
そして今日、マルガは城下町に恋心を置き捨てにし、新たに旅立つ。
見送りは誰も居ない。日の出と共に発つ馬車に乗る為、仕事上がりと同時に酒場から出てきたからだ。今の季節ならほんの数時間で空が明るくなり始める、変にゆっくりして後で慌てるよりはと先に馬車の停留所に向かった。
人けのない夜道を歩くのは恐ろしかったが城下を警ら中の騎士様達が丁度通りかかり声を掛けてくれ、訳を話せば何かあっては危ないのでとわざわざ停留所まで送ってくれた。最後の最後で素敵な騎士様とお話しが出来、その上一緒に歩くという思い出まで出来てしまったマルガは闇への恐怖など忘れて久々に年頃の娘らしく嬉しそうに恥じらった笑みを浮かべ騎士達に丁寧に礼を述べた。
停留所はまばらではあるが人がいた。行先によっては既に満員近くの馬車まであり、マルガは素直に驚く。そして楽し気に顔を綻ばせると自分の目的地行の馬車を探し始めた。
東西南北にある国境のうち一番寂れている、南の国境地点にある城塞都市。それがマルガの行先だ。
寂れているといっても他の街よりは栄ているし、砦を兼ねている都市なので治安も良いと聞いている。
ここ城下から馬車で五日と少し時間はかかるがマルガはわくわくとした気持ちが溢れてきて止まらなかった。あの最低な事をした日、ベーネへの想いと決別してからマルガは本当に久々に世界が楽しいと感じていた。
後任の女の子は明るくチャーミングで話していてとても楽しい子だった。常連のお客さんはいつもと同じ様にだらしなく酔っぱらっていたがマルガの退職を伝えると別れを惜しみつつもこれからの幸運を祈ってくれた。他にも馴染みの店や顔見知りになった人には挨拶をしてきた。その誰もがマルガの新しい生活を応援してくれる状況で沢山の嬉しいと、ほんの少しの偽りへの罪悪感も抱きながら。
それでもマルガは後悔はしていない。最悪な恋の終わらせ方でも今のマルガはそれさえも肯定してみせる。あれはあれで必要だったのだ、と。
少しずつ白くなってきた空に目を向けていると、馬の嘶きが耳に入る。視線を下げれば続々と姿を現し始めた馬を連れた御者がこちらに歩いてくるのが見えた。
マルガの胸はより一層ドキドキと高鳴る。新しい場所、新しい自分への希望。
さあ、あと少しで出発だ。
朝から残念な話になったが店主は少し寂しそうな顔をしながらもマルガに「無理はするなよ」と労りの言葉を返した。すんなりと話がついたのはマルガが一睡もしないで考えた理由のおかげ、という事にしておこう。
親戚の家が色々あって大変なので手伝いに来て欲しいと言われた。
田舎から出てきたマルガの親戚関係など、城下町であるここまで情報などまず入ってこない。それどころかマルガの田舎が何処だか知ってる者も居ない。もっと言えば両親はもうずっと前に亡くなっているし、兄弟も居ない天涯孤独だ。完全な嘘だった。
どうやって連絡が来たんだと聞かれたら偶々会ったと言うつもりだったが店主はそこまでマルガに興味はなく、代わりの人員が見つかり引き継ぐまで働くという約束の方が大切そうだった。
その日の内に店の外壁に募集の紙を張り付ければ、流石は城下町というべきか直ぐに働きたいという女性が訪れた。田舎から出てきたばかりという少女の面影が色濃く残る女性にしっかり仕事を教え、忙しなくも充実した日々を過ごした。気が付けばベーネが去ってから一週間が経っていた。あっという間だった。
そして今日、マルガは城下町に恋心を置き捨てにし、新たに旅立つ。
見送りは誰も居ない。日の出と共に発つ馬車に乗る為、仕事上がりと同時に酒場から出てきたからだ。今の季節ならほんの数時間で空が明るくなり始める、変にゆっくりして後で慌てるよりはと先に馬車の停留所に向かった。
人けのない夜道を歩くのは恐ろしかったが城下を警ら中の騎士様達が丁度通りかかり声を掛けてくれ、訳を話せば何かあっては危ないのでとわざわざ停留所まで送ってくれた。最後の最後で素敵な騎士様とお話しが出来、その上一緒に歩くという思い出まで出来てしまったマルガは闇への恐怖など忘れて久々に年頃の娘らしく嬉しそうに恥じらった笑みを浮かべ騎士達に丁寧に礼を述べた。
停留所はまばらではあるが人がいた。行先によっては既に満員近くの馬車まであり、マルガは素直に驚く。そして楽し気に顔を綻ばせると自分の目的地行の馬車を探し始めた。
東西南北にある国境のうち一番寂れている、南の国境地点にある城塞都市。それがマルガの行先だ。
寂れているといっても他の街よりは栄ているし、砦を兼ねている都市なので治安も良いと聞いている。
ここ城下から馬車で五日と少し時間はかかるがマルガはわくわくとした気持ちが溢れてきて止まらなかった。あの最低な事をした日、ベーネへの想いと決別してからマルガは本当に久々に世界が楽しいと感じていた。
後任の女の子は明るくチャーミングで話していてとても楽しい子だった。常連のお客さんはいつもと同じ様にだらしなく酔っぱらっていたがマルガの退職を伝えると別れを惜しみつつもこれからの幸運を祈ってくれた。他にも馴染みの店や顔見知りになった人には挨拶をしてきた。その誰もがマルガの新しい生活を応援してくれる状況で沢山の嬉しいと、ほんの少しの偽りへの罪悪感も抱きながら。
それでもマルガは後悔はしていない。最悪な恋の終わらせ方でも今のマルガはそれさえも肯定してみせる。あれはあれで必要だったのだ、と。
少しずつ白くなってきた空に目を向けていると、馬の嘶きが耳に入る。視線を下げれば続々と姿を現し始めた馬を連れた御者がこちらに歩いてくるのが見えた。
マルガの胸はより一層ドキドキと高鳴る。新しい場所、新しい自分への希望。
さあ、あと少しで出発だ。
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