1 / 5
一夜目
しおりを挟む
気付いたら、私は暗闇に支配された部屋に居た。
暗闇の中、私の目の前にある粗末なベッドが激しく音をたてる。その原因である一組の男女がベッド脇に置かれたランプに照らされ、男に責め立てられ女が乱れる様を私は冷静に眺める。
多分これは夢なんだろう。今の私には足や手といった身体の感覚がなく、目の前を映す視界と私という自我しかない。だから、動けない。私はより激しさを増すベッドの横から男女の情事を眺めるしか出来ない。
強制的に行為を見させられているとは言え、私に見られている男女の顔はランプの明かりが届かないのか、幸いな事に分からない。だからか尚の事、絡み合う男女の肉体にばかり私の目が向く。
男は体格が立派な筋骨隆々という言葉が似合う逞しい肉体をしていた。大小様々な傷痕が見れ、猛々しい印象どころか女を責め立てる様子からして猛々しいの一言だ。今も仰向けで息も絶え絶えの体な女の腰を力に任せて掴み、膝立ちをしている男のそそり立っている雄の位置まで持ち上げると、容赦のない鋭い一突きで女の嬌声を引き出している。雄を女の中から抜く時は酷く名残惜しいと言わんばかりにそろりそろりゆっくりと、抜けきるほんの手前になると我慢できぬとばかりに手加減の一切感じられない一突きでまた女を襲う。
対して女は驚くほど平凡のように思う。
細くも太くもなく、小柄に見えそうなのは絡み合う男が大柄すぎるからだろうか。仰向けの体勢で確認出来る胸はお世辞でも豊満とはいえない、残念な膨らみだ。正直に言うと仰向けでは膨らみなのかも怪しい。
傍から見ている私には男に無理やり襲われている光景にしか見えない。
そんな思いを感じていると、女が嬌声以外に初めて言葉らしき声を途切れがちに零し、震える両手を力が入らないながらも精一杯持ち上げ、男に伸ばした。
男がそれに気付いた途端、女に覆いかぶさり絞め殺すように思えるくらいきつく女を抱きしめ、乱暴としか表現できない荒々しい口づけを女にぶつける。
その一連の行為で、私は悟る。
ああ、この男女は愛し合っているんだと。
男が自分本位に欲望を女にぶつけていても。乱暴すぎる行為でも。女は知っているんだ。そして分かっているから女は嬉々として求め、受け止めているんだ。
羨ましい、と。私は強く思った。何度も何度も、繰り返し思う。羨ましいと。
暗くなっていく視界で私が最後に見たのは、男に手伝ってもらいながら、女の震える両手がゆっくりと男の首周りに絡んでいく光景だった。
完全に見えなくなる直前、顔の見えない男女が互いに微笑み合うのが、なぜか、分かった。
ああ、羨ましい。
そう思いながら目を開けると、また暗闇だった。だけど今度は分かる。現実だと。
私の背中に顔を埋めるようにしながら後ろから抱きしめる、いや、違う。しがみつくように回された腕を身体に感じる。知らずため息が漏れた。なんていう違いだろう。
私を盾にするように引っ付いている男と私。
夢に現れた男女。
さっきまで私はこの男に抱かれていた。まるで大罪人が罪から逃げるように、罪に怯え、一時でもそれから目を背ける為だけに。
いつになったら私は解放されるのだろうか。
暗闇の中、私の目の前にある粗末なベッドが激しく音をたてる。その原因である一組の男女がベッド脇に置かれたランプに照らされ、男に責め立てられ女が乱れる様を私は冷静に眺める。
多分これは夢なんだろう。今の私には足や手といった身体の感覚がなく、目の前を映す視界と私という自我しかない。だから、動けない。私はより激しさを増すベッドの横から男女の情事を眺めるしか出来ない。
強制的に行為を見させられているとは言え、私に見られている男女の顔はランプの明かりが届かないのか、幸いな事に分からない。だからか尚の事、絡み合う男女の肉体にばかり私の目が向く。
男は体格が立派な筋骨隆々という言葉が似合う逞しい肉体をしていた。大小様々な傷痕が見れ、猛々しい印象どころか女を責め立てる様子からして猛々しいの一言だ。今も仰向けで息も絶え絶えの体な女の腰を力に任せて掴み、膝立ちをしている男のそそり立っている雄の位置まで持ち上げると、容赦のない鋭い一突きで女の嬌声を引き出している。雄を女の中から抜く時は酷く名残惜しいと言わんばかりにそろりそろりゆっくりと、抜けきるほんの手前になると我慢できぬとばかりに手加減の一切感じられない一突きでまた女を襲う。
対して女は驚くほど平凡のように思う。
細くも太くもなく、小柄に見えそうなのは絡み合う男が大柄すぎるからだろうか。仰向けの体勢で確認出来る胸はお世辞でも豊満とはいえない、残念な膨らみだ。正直に言うと仰向けでは膨らみなのかも怪しい。
傍から見ている私には男に無理やり襲われている光景にしか見えない。
そんな思いを感じていると、女が嬌声以外に初めて言葉らしき声を途切れがちに零し、震える両手を力が入らないながらも精一杯持ち上げ、男に伸ばした。
男がそれに気付いた途端、女に覆いかぶさり絞め殺すように思えるくらいきつく女を抱きしめ、乱暴としか表現できない荒々しい口づけを女にぶつける。
その一連の行為で、私は悟る。
ああ、この男女は愛し合っているんだと。
男が自分本位に欲望を女にぶつけていても。乱暴すぎる行為でも。女は知っているんだ。そして分かっているから女は嬉々として求め、受け止めているんだ。
羨ましい、と。私は強く思った。何度も何度も、繰り返し思う。羨ましいと。
暗くなっていく視界で私が最後に見たのは、男に手伝ってもらいながら、女の震える両手がゆっくりと男の首周りに絡んでいく光景だった。
完全に見えなくなる直前、顔の見えない男女が互いに微笑み合うのが、なぜか、分かった。
ああ、羨ましい。
そう思いながら目を開けると、また暗闇だった。だけど今度は分かる。現実だと。
私の背中に顔を埋めるようにしながら後ろから抱きしめる、いや、違う。しがみつくように回された腕を身体に感じる。知らずため息が漏れた。なんていう違いだろう。
私を盾にするように引っ付いている男と私。
夢に現れた男女。
さっきまで私はこの男に抱かれていた。まるで大罪人が罪から逃げるように、罪に怯え、一時でもそれから目を背ける為だけに。
いつになったら私は解放されるのだろうか。
10
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話
はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。
父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。
成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。
しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。
それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。
(……なぜ、分かったの)
格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「契約結婚だって言ったよな?」「そもそも結婚って契約でしょ?」~魔術師令嬢の契約結婚~
神田柊子
恋愛
王立魔術院に勤めるジェシカは、爵位を継ぐために結婚相手を探していた。
そこで、大きな商会の支店長ユーグに見合いを申し込む。
魔力の相性がいいことだけが結婚相手の条件というジェシカ。ユーグとジェシカの魔力の相性は良く、結婚を進めたいと思う。
ユーグは子どもを作らない条件なら結婚してもいいと言う。
「契約結婚ってわけだ」
「契約結婚? そもそも結婚って契約でしょ?」
……という二人の結婚生活の話。
-----
西洋風異世界。電気はないけど魔道具があるって感じの世界観。
魔術あり。政治的な話なし。戦いなし。転移・転生なし。
三人称。視点は予告なく変わります。
※本作は2021年10月から2024年12月まで公開していた作品を修正したものです。旧題「魔術師令嬢の契約結婚」
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる