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traumatic experience

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 閉ざされ部屋、沈黙。ドアノブに手を置いたままのレッス。殺意の意思とは裏腹に固まってしまった私の身体。バイスが反論してドアを開けてくれるんではないかと僅かな希望を頼りに耳を澄ましていると薄い扉越しにバイスの舌打ちと離れていく靴音が無情にも聞こえた。

 私は何を期待していたのだろう。

 14歳の少年があの言葉を論破するのを? そもそも訪ねると事前に連絡を貰っていたのだ、それには私の事情も絡む事柄が話される確率が高い。やり方はどうであれレッスの行動は正しい。頭では分かっているのに、私は逃れたくて仕方がない。
 
 この腕から!
 旦那以外の男の体温から!!
 
 気持ち悪い。触るな。私に触るな! 新しい命を、旦那の子を、息子の兄弟が宿るはずの私のお腹に触らないで!!!!!

 なのに出ない、声。ますます症状が悪化しているのは、体が、心が、あの恐怖を思い出してしまっているから。
 
 何を言おうが叫ぼうが存在を無視され続け、人としての誇りさえ捨て泣き喚き縋り付いて懇願したのは《息子の所に還して》の一つだけ。その私の願いを叶えさせる唯一の人物から無慈悲に、手加減さえせず力任せに腕を掴み引き離した、あの痛みしか感じない、手の感触。

 その手の持ち主の、レッスが、触れている? 私、に?!

 『いっしー! おいっ、いっしー!! しっかりして下さい石田さん!! 石田さん!!』

 軽い一瞬の衝撃の後、声が聞こえてきた。正確には途中からやっと聞こえてきた。
 目の前には後ろが透けて見える半透明なまーくんが居た。彼の手が宙を切った形になっているのから気付けの衝撃の正体がわかる。

 『まーくんありがとう。ごめんね? 女ぶたせちゃって』

 『いえ』と答えただけの彼の表情はいつになく真剣なものだった。一瞬で崩壊しそうになった自分の精神の弱さに舌打ちしたい気分だ。

 「レッス、もうバイスは行きましたので離して下さい」

 後ろは振り向かずにようやく言いたい言葉が言えた。レッスは返事の代わりに直ぐ腕を解き、身体を離す。私も不自然にならない様に距離を取り部屋を見回して、困った事に気づく。

 椅子と寝台しか座る場所が無いのだ。

 レッスに椅子を勧めると必然的に私がベットに腰かける事になる。
 それで普通なのだろうが、なんかその、ヤダ。自意識過剰と言われてもいい、嫌なものは嫌。その逆でレッスがベットに座るのも嫌なもんだから困った。

 そもそも部屋には親しい人しか上がらないものなのでこのパターンは初めてだ。

 まーくんは私が勧める前にベットに座ったので、空気の読めるよく出来た日本人である。警戒されるより嫌悪される道を選んだ。それは私にとって正解です。

 こんな事で悩んでもしょうがないのでキッパリ諦めよう。

 「よかったら座ってください」
 「ありがとう」

 椅子に手を向けレッスに着席を促す。ベットと言う選択肢は選ばなかった。

 私はどこにも座らない。

 立ち位置がさり気無くドア近くなのは決してまーくんを信用していないからではない。自分で出来る最低限の警戒がこれなのだ。ついでにまーくんはいつの間にかまた透明になったみたいで見当たらない。

 『いや、居るからね? ついでにいっしーの考えもだだ漏れだからね?』 

 そこは遭えて言わないでおくのが日本人でしょ、まーくん。

 椅子に座りこっちを見たレッスが苦笑する。

 「イシーダも、って言っても君は座らないよね。うちに居た時はそうだったけど此処でも?」 
 「すみません、座ってしまうと首が痛いままなので。お気遣いありがとうございます」

 勝手にすみませんが出てくる日本人の特性が若干憎い!
 いや、気遣いを無下にしてるから謝罪はありか? ああもうこんな事考える事態マンドk(ry

 『貴様まさか鬼女でありながらそのいtあばばばばばばば』

 まーくん自重。今は黙っててくれ。 

 「色々聞きたい事はあるんですが……何か緊急を要する事が起こったんですか?」

 用があって来たくせに一向に本題に触れないレッスに私から話しを振る。


 私のその問いにレッスはまた、苦笑した。




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