それでも日は昇る

阿部梅吉

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暗闇は永遠に続くわけではない

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 どこかで誰かのすすり泣く音が聞こえる。
 聞いたことのある声だ。高い声。細い声。暗闇の中で誰かが泣いている。ショートカットの少し背の低い女の子が泣いている。よく知ったような人の後ろ姿に俺は見える。その子は泣いている。ただただ泣いている。何が悲しくて泣いているのかはわからない。ただただその子は泣いている。

「どうしたの?」

その子の顔は、手でふさがって見えなかった。涙が止まらないらしく、しゃっくりを上げている。

「大丈夫?」

その子はただただ泣き続けた。しくしくと、それは夏前の雨のごとく留まることを知らない。その子は何も答えない。涙が出続けて応えられないのだろう。顔は見えないが、俺は床に落ちる涙を救い上げた。そして唇の横、彼女の頬の横に伝う涙を指で拭った。

「大丈夫」

俺が言う。

「きっと、大丈夫だから」

それしかいうことができなかったが、そういうしかなかった。

「絶対に、光があるから」

俺はその子の右手を握る。右手で隠していた顔の部分は見られたくないらしく、左手で顔全体を覆った。

「大丈夫、行こう。何処に行きつくかはわからない。でも俺と二人で、こっちのほうにとりあえず歩いてみよう。ダメだったら、また考えればいいさ」

俺は彼女の手を引く。彼女は泣きながらゆっくり歩く。

「大丈夫、光の射すところは絶対にあるから」

俺は言う。

「歩いてみるしかないさ」

そこで俺は目が覚めた。




 命短し恋せよ乙女とはよく言うけれど
 しようと思ってできるものでもない
 あの人は去り
 あの人は他の人の所にいる
 私はどこへにも行けない
 あの人が好きだった曲を聞いてみるけど
 もうあまり色々思い出せなくなってきたね
 町の夜は輝いて見えて
 誰もかれもが誰かのもとへ向かって行く
 特に今日みたいな日は
 あの時の約束を私はまだ守っている
  
 今日みたいな夜は歌おう
 きっと何かが慰めてくれる
 時間が私たちをどこかに連れて行ってくれると信じながら
 お酒なんかで気を紛らわさないで
 飽きるくらいこの曲を聞いて
 飽きるくらいあなたのことを思う
 それでももう、あなたの指の感触を
 私は思い出せないの  
    
(桜木ヒカル『SIGN』2016)
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