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自分のスタイルは挑戦することでしか確立できない 2
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翌日、そのことをみんなに話したら、案外ノリノリだった。
「誰かに見てもらった方が作品はよくなるかもしれませんもんね」
若狭が目を輝かせて言った。佐伯も
「正直、多くの人に読んでもらって、ダメ出ししてほしいです」
と、強気だった。
「私、H社の編集者さん知っているから、その人に連絡してみたら?」
「へ? 誰?」
俺が聞いたことのない名前だった。伊月にもわからないらしい。
「私の本を出してくれたのは、この人なの。出版社の人だし、小説は良いも悪いもきっと腐るほど読んでるはずだから何らかのアドバイスはくれると思う」
鈴木は自分の財布を取り出す。
「あった」
一枚の名刺が手渡される。
「お、おう」
突然のことで、気の利いた返事が出来ない。今から出版社の人に俺が連絡する。そう思うとひどく緊張した。高校生のガキだ。なんて言われるのかもわからない。
「いいね」
伊月が笑う。
「すごいです」
若狭もキラキラした目で名刺を見ている。
「待って、連絡する前に。整理しよう」
俺はいったん冷静になりたかった。
「まず、みんな自分の作品のデータはあるよな?」
「あります」
佐伯が言う。若狭も鈴木も頷く。
「手ぶらで電話するわけにもいかねえしよ……、みんな、まず連絡する前に聞きたいことを予め考えておいた方が良いんじゃないのか?」
「そうね、私はだいたい考えてある」
鈴木が即座に返してくる。
「私は全体的にいろいろわからないので、とにかく読んでほしいです」
佐伯が弱弱しい声で言う。賞に入らかなったことで相当ダメージを食らっているみたいだ。
「僕もですかねえ」
若狭がゆっくりした口調で言う。
「わかった」
俺は意を決して、携帯を取り出し、名刺に書かれてある電話番号を押した。コールが鳴った。みんなが黙って俺を見ていた。
しかし、コールはいつまでもコールのままだった。十秒ほどコールが続き、そのあとにツーツーという一定の音が流れた。
「話し中みたいだ」
「なんだあ」
佐伯がため息をつく。
「タイミング悪いです」
若狭もがっかりしているみたいだ。
「まあ、次電話するときまでに、作品を出来る所まで仕上げよう。きっと、人に見せる気で書かないとコテンパンにやられる」
「そうね」
鈴木が低い声で言う。いつになく冷静だ。
「少なくとも本気で書かないと、相手にもされないかも」
鈴木の言葉に、俺たちは黙った。鈴木は軽々しく自分の意見を言うタイプじゃない。彼女の言っていることは本気だ。
「わかった」
「事実上、応募するつもりで書きあげてから電話しても遅くないと思うの。今回はタイミングが悪かったけど、もしかしたら今はまだ私たちの努力が足りないのかもしれない」
鈴木が淡々と言う。
「先生のオーラやばいっす……」
若狭が小声で言う。実は俺もちょっと、鈴木の態度に圧倒されていた。
「わかった。俺たちが納得してから、行動に起こそう」
皆が無言で頷いた。
その日から小説組は、黙々と作品を書きあげることに集中した。鈴木に至っては、夏休みには家で集中したいと言って学校に来ることさえなくなった。鈴木の本気を俺は感じていた。
小説を書いていない梶や伊月も、俺たちのオーラに圧倒され、つられて熱心に本を読み進めるようになったし、度々文芸誌をチェックするようになった。高橋だけはマイペースに俳句を書いていた。同時に、若狭の長編の校正も高橋が行うようになっていた。俺が頼んだのだ。高橋はこの部で俺の次に文学の知識があるから、今やこの部の校正係は実質高橋になっていった。
少しずつ、俺たちを取り巻く風は冷たくなっていった。夏が終わろうとしていた。
「誰かに見てもらった方が作品はよくなるかもしれませんもんね」
若狭が目を輝かせて言った。佐伯も
「正直、多くの人に読んでもらって、ダメ出ししてほしいです」
と、強気だった。
「私、H社の編集者さん知っているから、その人に連絡してみたら?」
「へ? 誰?」
俺が聞いたことのない名前だった。伊月にもわからないらしい。
「私の本を出してくれたのは、この人なの。出版社の人だし、小説は良いも悪いもきっと腐るほど読んでるはずだから何らかのアドバイスはくれると思う」
鈴木は自分の財布を取り出す。
「あった」
一枚の名刺が手渡される。
「お、おう」
突然のことで、気の利いた返事が出来ない。今から出版社の人に俺が連絡する。そう思うとひどく緊張した。高校生のガキだ。なんて言われるのかもわからない。
「いいね」
伊月が笑う。
「すごいです」
若狭もキラキラした目で名刺を見ている。
「待って、連絡する前に。整理しよう」
俺はいったん冷静になりたかった。
「まず、みんな自分の作品のデータはあるよな?」
「あります」
佐伯が言う。若狭も鈴木も頷く。
「手ぶらで電話するわけにもいかねえしよ……、みんな、まず連絡する前に聞きたいことを予め考えておいた方が良いんじゃないのか?」
「そうね、私はだいたい考えてある」
鈴木が即座に返してくる。
「私は全体的にいろいろわからないので、とにかく読んでほしいです」
佐伯が弱弱しい声で言う。賞に入らかなったことで相当ダメージを食らっているみたいだ。
「僕もですかねえ」
若狭がゆっくりした口調で言う。
「わかった」
俺は意を決して、携帯を取り出し、名刺に書かれてある電話番号を押した。コールが鳴った。みんなが黙って俺を見ていた。
しかし、コールはいつまでもコールのままだった。十秒ほどコールが続き、そのあとにツーツーという一定の音が流れた。
「話し中みたいだ」
「なんだあ」
佐伯がため息をつく。
「タイミング悪いです」
若狭もがっかりしているみたいだ。
「まあ、次電話するときまでに、作品を出来る所まで仕上げよう。きっと、人に見せる気で書かないとコテンパンにやられる」
「そうね」
鈴木が低い声で言う。いつになく冷静だ。
「少なくとも本気で書かないと、相手にもされないかも」
鈴木の言葉に、俺たちは黙った。鈴木は軽々しく自分の意見を言うタイプじゃない。彼女の言っていることは本気だ。
「わかった」
「事実上、応募するつもりで書きあげてから電話しても遅くないと思うの。今回はタイミングが悪かったけど、もしかしたら今はまだ私たちの努力が足りないのかもしれない」
鈴木が淡々と言う。
「先生のオーラやばいっす……」
若狭が小声で言う。実は俺もちょっと、鈴木の態度に圧倒されていた。
「わかった。俺たちが納得してから、行動に起こそう」
皆が無言で頷いた。
その日から小説組は、黙々と作品を書きあげることに集中した。鈴木に至っては、夏休みには家で集中したいと言って学校に来ることさえなくなった。鈴木の本気を俺は感じていた。
小説を書いていない梶や伊月も、俺たちのオーラに圧倒され、つられて熱心に本を読み進めるようになったし、度々文芸誌をチェックするようになった。高橋だけはマイペースに俳句を書いていた。同時に、若狭の長編の校正も高橋が行うようになっていた。俺が頼んだのだ。高橋はこの部で俺の次に文学の知識があるから、今やこの部の校正係は実質高橋になっていった。
少しずつ、俺たちを取り巻く風は冷たくなっていった。夏が終わろうとしていた。
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