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54「また昔の男を気にしているな」
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二年生の中盤ほどまで進み、カインが登場した。
(大丈夫かしら……)
期待よりも不安が勝ってしまい、ヴェロニカは緊張で体をこわばらせた。
号令がかかると馬は軽快に駆け出した。
障害を越える跳躍の高さはフィンセントよりもあるように見える。
(でも……そんなに速くはないわ)
スピードよりも、正確に馬を操ることを心がけているのだろう。
危なげなくカインが一回目の競技を終えたのを見届けて、ヴェロニカは大きく息を吐いた。
「ああ、緊張したわ」
「心配しすぎよ」
緊張をほぐすようにルイーザはヴェロニカの肩を叩いた。
「だって……心配だもの」
「カイン様も慎重に乗っていたみたいだから大丈夫よ」
「……ええ」
「ほら、次はエリアス様よ」
ルイーザの示した先に、馬に跨ったエリアスの姿が見えた。
エリアスの馬はフィンセントの時よりも速く駆け出した。
「まあ、すごいわね」
高い跳躍に観客席がざわつき、ルイーザが声を上げた。
「かっこいい……」
アリサが呟いた。
(そういえば、アリサはエリアスが好きなのよね)
少しうるんだような眼差しでエリアスを見つめるアリサの横顔は、恋する少女の顔だ。
今もアリサはエリアスのことが好きなのだろう。
(どうして、エリアスはアリサが嫌いなのかしら)
前世を覚えていないエリアスが、死ぬ原因となったアリサを嫌っているとは考えにくい。
それに、それならば自身を殺したカインの方をより嫌うはずだ。
(アリサ……というよりアウロラが嫌いなのよね)
宵の魔女の象徴でもあるアウロラの花を嫌う者は滅多にいない。
それにエリアスも元から嫌いという訳ではなかったという。
(まるで前世の私と同じ……)
ぞくり、とヴェロニカの背筋に何かが走るような不快な感覚を覚えた。
もしも、エリアスが自分と同じ理由でアウロラが嫌いになったとしたら?
(……そんなことは……ありえないわ)
エリアスも宵の魔女の影響を受けているなどということは。
突然脳裏に浮かんだ、突拍子もない考えをありえないと思いながらも、ヴェロニカは胸の奥にじわりと不安が広がるのを感じた。
一回目の競技の結果は一位がエリアス、二位がフィンセント、そして三位がカインだった。
「すごいわね、エリアス」
「ありがとうございます」
ルイーザと共に選手たちの元へ向かい、ヴェロニカが声をかけるとエリアスは笑顔を向けた。
「二回目も頑張ってね」
「はい」
「カインも良かったわ」
ヴェロニカは側にいたカインを振り返った。
「とても高く跳んでいたわ」
「ああ。あの馬は跳躍力はあるが、神経質で誘導するのが難しいんだ」
「だから少し遅かったのね」
「無理はしないと約束したからな」
カインはヴェロニカの髪に触れた。
「二回目も慎重にいくから心配するな」
「……ええ」
「すごく不安そうに見ていたのよ」
ルイーザが言った。
「そうだったのか?」
「……カインが上手いのは分かっているけど……」
「そんなに去年の悪夢を引きずっているのか?」
カインの言葉に、ヴェロニカは視線を落とした。
あれはただの悪夢ではなかった。
前世では、ヴェロニカの願望に呼応した魔女の手により、本当にフィンセントが落馬した。
そして今日もまた、カインを落馬させようとする魔女の声が聞こえたのだ。
「気に入らないな」
ぽん、とカインはヴェロニカの頭に手を乗せた。
「え……?」
「前の男のことをそんなに引きずるとは」
「前の男!?」
「あの粘着質王子なら判断を鈍らせて落馬することもあるだろうが。俺はそんなミスはしないから心配するな」
髪をくしゃりと撫でながらカインは言った。
「……ふふ、分かったわ」
軽いカインの口調に、自分の不安を和らげようと言ったのだと気づいてヴェロニカは微笑んだ。
「いい婚約者ねえ」
(本当に)
ルイーザの呟きに、ヴェロニカも内心頷いた。
初めて会った時からカインは優しかった。
最初はフィンセントへの当てつけが目的で、元婚約者の自分へ近づいたと婚約後に聞かされたが、今はヴェロニカ自身を望んでいると、そう言ってくれた。
(そういう正直なところも優しさなのよね)
ヴェロニカの不安を取り除いてくれる、その言動はとても安心できるのだ。
離れたところから女子たちの声が聞こえてきた。
「また大勢に囲まれているのね」
ルイーザの声に、振り返るとフィンセントが女生徒たちに囲まれているのが見えた。
長くフィンセントの婚約者候補と思われてきたヴェロニカが、カインとの婚約が決まってから、フィンセントへのアプローチはより激しさを増していた。
卒業までに婚約者を決めるよう、国王から命じられているという噂もある。
残り半年ほど。皆必死なのだろう。
「また昔の男を気にしているな」
ヴェロニカがフィンセントの方へ視線を送っているとカインが言った。
「……そういう訳では」
「ヴェロニカ様」
エリアスはヴェロニカの前へ立った。
「次の試合でも全力を尽くします」
「……ええ。頑張ってね」
「王太子殿下には負けません」
その瞳の奥に、見たことがないような強い光を宿してエリアスは言った。
二回戦は順位の低かった順から行われる。
最後から三番目、カインは一回目同様危なげなく競技を終えた。
「今度は落ち着いて見られた?」
「ええ」
ルイーザに尋ねられてヴェロニカは頷いた。
カインと話して安心できたのだろう、最後まで不安になることなく見ることができた。
カインの試合を見守っていたエリアスは、準備をするために馬の元へ向かおうと振り返った。
馬を連れたフィンセントがこちらへ向かってくるのが見えた。
道を開け、フィンセントが通り過ぎるのを待とうとしたエリアスの前でフィンセントは立ち止まった。
「私は必ず勝つ」
前方を見つめたままフィンセントは口を開いた。
「キングとなり、ヴェロニカをクイーンに指名する。……そうして彼女に私の気持ちを伝える」
「――さようでございますか」
「邪魔はさせない」
わずかにエリアスへ視線を送ると、フィンセントは再び歩き出した。
「……未練がましいな」
ぽつりとエリアスは呟いた。
既に婚約者のいるヴェロニカに、今更想いを伝えようとするとは。
(優しいヴェロニカ様はきっと心を痛めてしまうだろう)
エリアスの腹の奥に、ふつりと怒りの熱が帯びた。
『ほんに、不快な奴よ』
その熱に呼応するように、エリアスの頭の中に声が響いた。
『落馬させて彼奴の鼻をへし折ってやろう』
「……そのようなことをしなくとも、私が勝つ」
一回目の競技ではまだ余力があった。
馬も馬場に慣れ、二回目はもっと速い記録が出せるだろう。
『我はあの男が気に入らぬのだ。国を滅ぼした愚かな王子がな』
あざ笑うような声がエリアスの耳元に残った。
大歓声に包まれながらフィンセントの馬が走り出した。
「速いっ」
ルイーザが思わず声を上げたほど、その速度は明らかにこれまでで一番だった。
(速すぎないかしら……)
軽々と一つ目の障害を飛び越えるのを見守りながら、ヴェロニカの胸に不安が広がった。
見守る観客の多くは、フィンセントの優勝を期待するだろうし、フィンセントとしても王太子としてエリアスには負けたくないだろう。
けれど優勝するためには、少なくとも一回目より速い記録を出さないとならない。
(でも、あんな速く走ったら……)
最後の障害を越えようと、馬が前脚を高く上げた。
大きな身体が跳ね上がると、もがくように両脚をばたつかせる。
その乱れた動きに、鞍上のフィンセントの身体も大きく揺れ、地面へと振り落とされた。
観客席から悲鳴が上がった。
地面へと倒れ落ちたフィンセントの元へ騎士や教師たちが駆け寄る。
(え――)
目の前で起きた出来事にヴェロニカは息を呑んだ。
(どうして……まさか……魔女?)
花壇で聞いた声を思い出す。
(でもあれはカインのことで……殿下じゃなかったわ)
呆然としながら見つめていると、倒れていたフィンセントの頭が動いた。
ゆっくりと、自らの力で起き上がる。
「……大丈夫そうね」
見守っていたルイーザが安心したように口を開いた。
騎士たちに両脇から抱えられながら、フィンセントは馬場から出て行った。
しばらくして、教師から最後に行う予定だったエリアスの二回目の競技は中止となり、彼が優勝したことが告げられた。
「意外な結果だったな」
観客席から出るとカインが待っていた。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
ヴェロニカの頬に手を触れるとその顔を覗きこむ。
「……驚いてしまって……」
「去年のことを思い出したか」
ヴェロニカが小さく頷くと、カインはヴェロニカを引き寄せその背中に手を回した。
「馬術に落馬はつきものだ。だから必ず落ちる訓練もする。王太子も自力で立ち上がってただろう、そう恐れるな」
「……ええ」
カインに背中を撫でられると、心が落ち着いてくるのをヴェロニカは感じた。
「エリアス様」
こちらへ向かって歩いてくるエリアスに気づいてルイーザが声をかけた。
「優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
「殿下の落馬のせいで二回目の競技ができなかったのは残念ね」
「――自信があったようですが。『必ず勝つ』と仰られていましたし」
「まあ、そんなことを言っていたの?」
「自身の力を過信したか、もしくは勝ちにこだわり焦ったか。いずれにしても、勝負の場では冷静になるのが大事だな」
カインが言った。
「ヴェロニカ様」
エリアスはヴェロニカの前に立った。
「今夜のパーティでクイーンになってくださいますか」
「ええ」
ヴェロニカはエリアスを見上げて笑顔を向けた。
「私でよければ喜んで」
「ありがとうございます」
ヴェロニカを見つめ返して、エリアスも笑顔で答えた。
(大丈夫かしら……)
期待よりも不安が勝ってしまい、ヴェロニカは緊張で体をこわばらせた。
号令がかかると馬は軽快に駆け出した。
障害を越える跳躍の高さはフィンセントよりもあるように見える。
(でも……そんなに速くはないわ)
スピードよりも、正確に馬を操ることを心がけているのだろう。
危なげなくカインが一回目の競技を終えたのを見届けて、ヴェロニカは大きく息を吐いた。
「ああ、緊張したわ」
「心配しすぎよ」
緊張をほぐすようにルイーザはヴェロニカの肩を叩いた。
「だって……心配だもの」
「カイン様も慎重に乗っていたみたいだから大丈夫よ」
「……ええ」
「ほら、次はエリアス様よ」
ルイーザの示した先に、馬に跨ったエリアスの姿が見えた。
エリアスの馬はフィンセントの時よりも速く駆け出した。
「まあ、すごいわね」
高い跳躍に観客席がざわつき、ルイーザが声を上げた。
「かっこいい……」
アリサが呟いた。
(そういえば、アリサはエリアスが好きなのよね)
少しうるんだような眼差しでエリアスを見つめるアリサの横顔は、恋する少女の顔だ。
今もアリサはエリアスのことが好きなのだろう。
(どうして、エリアスはアリサが嫌いなのかしら)
前世を覚えていないエリアスが、死ぬ原因となったアリサを嫌っているとは考えにくい。
それに、それならば自身を殺したカインの方をより嫌うはずだ。
(アリサ……というよりアウロラが嫌いなのよね)
宵の魔女の象徴でもあるアウロラの花を嫌う者は滅多にいない。
それにエリアスも元から嫌いという訳ではなかったという。
(まるで前世の私と同じ……)
ぞくり、とヴェロニカの背筋に何かが走るような不快な感覚を覚えた。
もしも、エリアスが自分と同じ理由でアウロラが嫌いになったとしたら?
(……そんなことは……ありえないわ)
エリアスも宵の魔女の影響を受けているなどということは。
突然脳裏に浮かんだ、突拍子もない考えをありえないと思いながらも、ヴェロニカは胸の奥にじわりと不安が広がるのを感じた。
一回目の競技の結果は一位がエリアス、二位がフィンセント、そして三位がカインだった。
「すごいわね、エリアス」
「ありがとうございます」
ルイーザと共に選手たちの元へ向かい、ヴェロニカが声をかけるとエリアスは笑顔を向けた。
「二回目も頑張ってね」
「はい」
「カインも良かったわ」
ヴェロニカは側にいたカインを振り返った。
「とても高く跳んでいたわ」
「ああ。あの馬は跳躍力はあるが、神経質で誘導するのが難しいんだ」
「だから少し遅かったのね」
「無理はしないと約束したからな」
カインはヴェロニカの髪に触れた。
「二回目も慎重にいくから心配するな」
「……ええ」
「すごく不安そうに見ていたのよ」
ルイーザが言った。
「そうだったのか?」
「……カインが上手いのは分かっているけど……」
「そんなに去年の悪夢を引きずっているのか?」
カインの言葉に、ヴェロニカは視線を落とした。
あれはただの悪夢ではなかった。
前世では、ヴェロニカの願望に呼応した魔女の手により、本当にフィンセントが落馬した。
そして今日もまた、カインを落馬させようとする魔女の声が聞こえたのだ。
「気に入らないな」
ぽん、とカインはヴェロニカの頭に手を乗せた。
「え……?」
「前の男のことをそんなに引きずるとは」
「前の男!?」
「あの粘着質王子なら判断を鈍らせて落馬することもあるだろうが。俺はそんなミスはしないから心配するな」
髪をくしゃりと撫でながらカインは言った。
「……ふふ、分かったわ」
軽いカインの口調に、自分の不安を和らげようと言ったのだと気づいてヴェロニカは微笑んだ。
「いい婚約者ねえ」
(本当に)
ルイーザの呟きに、ヴェロニカも内心頷いた。
初めて会った時からカインは優しかった。
最初はフィンセントへの当てつけが目的で、元婚約者の自分へ近づいたと婚約後に聞かされたが、今はヴェロニカ自身を望んでいると、そう言ってくれた。
(そういう正直なところも優しさなのよね)
ヴェロニカの不安を取り除いてくれる、その言動はとても安心できるのだ。
離れたところから女子たちの声が聞こえてきた。
「また大勢に囲まれているのね」
ルイーザの声に、振り返るとフィンセントが女生徒たちに囲まれているのが見えた。
長くフィンセントの婚約者候補と思われてきたヴェロニカが、カインとの婚約が決まってから、フィンセントへのアプローチはより激しさを増していた。
卒業までに婚約者を決めるよう、国王から命じられているという噂もある。
残り半年ほど。皆必死なのだろう。
「また昔の男を気にしているな」
ヴェロニカがフィンセントの方へ視線を送っているとカインが言った。
「……そういう訳では」
「ヴェロニカ様」
エリアスはヴェロニカの前へ立った。
「次の試合でも全力を尽くします」
「……ええ。頑張ってね」
「王太子殿下には負けません」
その瞳の奥に、見たことがないような強い光を宿してエリアスは言った。
二回戦は順位の低かった順から行われる。
最後から三番目、カインは一回目同様危なげなく競技を終えた。
「今度は落ち着いて見られた?」
「ええ」
ルイーザに尋ねられてヴェロニカは頷いた。
カインと話して安心できたのだろう、最後まで不安になることなく見ることができた。
カインの試合を見守っていたエリアスは、準備をするために馬の元へ向かおうと振り返った。
馬を連れたフィンセントがこちらへ向かってくるのが見えた。
道を開け、フィンセントが通り過ぎるのを待とうとしたエリアスの前でフィンセントは立ち止まった。
「私は必ず勝つ」
前方を見つめたままフィンセントは口を開いた。
「キングとなり、ヴェロニカをクイーンに指名する。……そうして彼女に私の気持ちを伝える」
「――さようでございますか」
「邪魔はさせない」
わずかにエリアスへ視線を送ると、フィンセントは再び歩き出した。
「……未練がましいな」
ぽつりとエリアスは呟いた。
既に婚約者のいるヴェロニカに、今更想いを伝えようとするとは。
(優しいヴェロニカ様はきっと心を痛めてしまうだろう)
エリアスの腹の奥に、ふつりと怒りの熱が帯びた。
『ほんに、不快な奴よ』
その熱に呼応するように、エリアスの頭の中に声が響いた。
『落馬させて彼奴の鼻をへし折ってやろう』
「……そのようなことをしなくとも、私が勝つ」
一回目の競技ではまだ余力があった。
馬も馬場に慣れ、二回目はもっと速い記録が出せるだろう。
『我はあの男が気に入らぬのだ。国を滅ぼした愚かな王子がな』
あざ笑うような声がエリアスの耳元に残った。
大歓声に包まれながらフィンセントの馬が走り出した。
「速いっ」
ルイーザが思わず声を上げたほど、その速度は明らかにこれまでで一番だった。
(速すぎないかしら……)
軽々と一つ目の障害を飛び越えるのを見守りながら、ヴェロニカの胸に不安が広がった。
見守る観客の多くは、フィンセントの優勝を期待するだろうし、フィンセントとしても王太子としてエリアスには負けたくないだろう。
けれど優勝するためには、少なくとも一回目より速い記録を出さないとならない。
(でも、あんな速く走ったら……)
最後の障害を越えようと、馬が前脚を高く上げた。
大きな身体が跳ね上がると、もがくように両脚をばたつかせる。
その乱れた動きに、鞍上のフィンセントの身体も大きく揺れ、地面へと振り落とされた。
観客席から悲鳴が上がった。
地面へと倒れ落ちたフィンセントの元へ騎士や教師たちが駆け寄る。
(え――)
目の前で起きた出来事にヴェロニカは息を呑んだ。
(どうして……まさか……魔女?)
花壇で聞いた声を思い出す。
(でもあれはカインのことで……殿下じゃなかったわ)
呆然としながら見つめていると、倒れていたフィンセントの頭が動いた。
ゆっくりと、自らの力で起き上がる。
「……大丈夫そうね」
見守っていたルイーザが安心したように口を開いた。
騎士たちに両脇から抱えられながら、フィンセントは馬場から出て行った。
しばらくして、教師から最後に行う予定だったエリアスの二回目の競技は中止となり、彼が優勝したことが告げられた。
「意外な結果だったな」
観客席から出るとカインが待っていた。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
ヴェロニカの頬に手を触れるとその顔を覗きこむ。
「……驚いてしまって……」
「去年のことを思い出したか」
ヴェロニカが小さく頷くと、カインはヴェロニカを引き寄せその背中に手を回した。
「馬術に落馬はつきものだ。だから必ず落ちる訓練もする。王太子も自力で立ち上がってただろう、そう恐れるな」
「……ええ」
カインに背中を撫でられると、心が落ち着いてくるのをヴェロニカは感じた。
「エリアス様」
こちらへ向かって歩いてくるエリアスに気づいてルイーザが声をかけた。
「優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
「殿下の落馬のせいで二回目の競技ができなかったのは残念ね」
「――自信があったようですが。『必ず勝つ』と仰られていましたし」
「まあ、そんなことを言っていたの?」
「自身の力を過信したか、もしくは勝ちにこだわり焦ったか。いずれにしても、勝負の場では冷静になるのが大事だな」
カインが言った。
「ヴェロニカ様」
エリアスはヴェロニカの前に立った。
「今夜のパーティでクイーンになってくださいますか」
「ええ」
ヴェロニカはエリアスを見上げて笑顔を向けた。
「私でよければ喜んで」
「ありがとうございます」
ヴェロニカを見つめ返して、エリアスも笑顔で答えた。
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