ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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24 図書館

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羽根を生やした天使たちが空を優雅に舞っている。
そして優美な笑みを浮かべた女神が、青空に浮かぶ雲の合間からこちらへと手を差し伸べている。
天井一面に描かれたその色鮮やかな絵の、その下には、天井まで届く二層の本棚が立ち並んでいる。圧巻な光景だ。

「ここは元々礼拝堂であったものを改修したものです」
案内してくれた館長がそう説明した。
「見事だな」
「美しいですね……」
「ありがとうございます。それでは、次に資料として集められた絵画を飾っている部屋に案内いたしましょう」
館長に促されて、中へと進んでいく。
(本当にすごい……)
「クリスティナ。そう上を見て歩いていたら危ないから」
つい天井画に視線が惹きつけられていると、殿下に手を握られた。

今日は念願の図書館へとやってきた。
ここは収蔵されている本も貴重だが、建築物としても有名で観光客も多く来るという。そんな場所でゆっくり見るのは難しいだろうと、開館前の時間に案内してもらえることになった。
壁を埋め尽くすように絵画が並べられた部屋や、剥製などが置かれた部屋。まるで博物館のように本だけでなく様々なものが展示された図書館は、一日かけても回りきれないだろう。そんな場所を少ししか見られないのは残念だ。
(しかも、ずっと殿下が手を握ったままだし……)
手を離そうとしない殿下に気を取られていたこともあり、あっという間に開館の時間となってしまった。

一般の人が入れないエリアへと向かい、本を修復する部屋や希少本が保存された部屋などを案内してもらい、図書館に併設されたレストランで昼食を取った。
その後は殿下の希望で街で一番の公園にある温室へ向かい、散策をして屋敷へと戻ることになった。


「ラウル様はもう到着されているでしょうか」
馬車に揺られながらそう口にすると、殿下はため息をついた。
「せっかくクリスティナと二人きりだったのに」
私は二人きりじゃない方が安心ですけど!

行きも今も、馬車の中では隣同士に座っている。
お忍び用とはいえ王家の馬車、二人並んで座ってもゆとりがあるはずなのに、殿下はぴったりと私にくっつくように座り、時々手が伸びてきては髪や手に触れてくる。
(積極的になりすぎなのよね……)
殿下は変わったのかもしれないけれど、私はまだ……。
「クリスティナ」
殿下が手を握り締めてきた。そうしてもう片方の手は肩に。
顔を上げると、すぐ目の前に殿下の顔があって……唇に軽く口づけられた。
(また……!)
恥ずかしさで目を閉じると、頬に唇が触れる感触。
「……ど、どうして……キスするんですか」
「どうしてって。クリスティナが愛おしくて、可愛いからね」
何とか声を振り絞って抗議すると、もう一度頬に口づけられた。
「っだからって……」
「クリスティナは、キスされるのは嫌?」
「……嫌ではないですけれど……」
「嫌じゃないんだね」
はっとして目を開いた。
あれ……キスされるのは、嫌じゃない?

「良かった」
安堵の声と共に唇が塞がれた。
それまでは、軽く触れるだけだったのに。
隙間なく強く重ねられ……息が、できない。
「ん……」
苦しくて呻くと、ようやく殿下の顔が離れた。
「……そんな顔をされたら歯止めが効かなくなりそうだな」
私を見つめて微笑むその顔は……何というか、色気がダダ漏れで。
その色気にあてられたのと恥ずかしさで顔が上げられなくなった私を抱きしめ、背中を撫でる……その手の動きに、意味があるような気がして。
ますます恥ずかしさを感じて、早く着いてくれることをひたすら願い続けていると、ようやく馬車は屋敷へと到着した。

「もう着いたのか」
残念そうな声が聞こえると、ようやく殿下が離れた。
(やっと着いた……)
緊張と暑さで汗をかいてしまった。早くお風呂に入ってさっぱりしたい。

「クリスティナ様!」
殿下の手を借りて馬車から降りていると、思いがけない声が聞こえた。
「……サーシャ嬢?」
こちらへ駆け寄ってくるのは、確かにサーシャだ。
そしてその後ろから歩いて来るのは、ラウルと……エディー?!

「どうして二人がここへ……」
「お兄様がお仕事でこの街へ来ることになったので、私たちも来ましたの」
サーシャは笑顔でそう言った。
「お兄様?」
「はい、騎士団にいる長男ですわ」

「ダニエル・アボットか? 王都の副団長がなぜこの街に?」
殿下が硬い声色で言った。
「少し困ったことが起きまして」
ラウルの言葉に、思わず殿下と顔を見合わせた。
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