ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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20 ヒロインのその後

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「――ということで、二国間の関所は十三年前に廃止されたんだ」
二年生になって最初の試験前。エディーとラウルの三人で、我が家で勉強会を開いている。――勉強会というか、ラウル先生による講習会だけれど。

「で、この国境だけど。最近アリス・リオットが越えたらしい」
「え?」
アリスって……ヒロイン?!
「あのおかしい女か? 修道院に入ったんじゃなかったのか」
「脱走したんだって」
「脱走?!」
そんなことできるの?
「協力者がいたらしい。彼女と親しくしていた騎士見習いの男も消息不明になっている」
騎士見習いと国境を越えたって……それってまさか、冒険者になるルート?!
ラウルに口パクで『冒険者?』と尋ねると小さく頷いた。
「ふうん。それで、そいつらはどうなるんだ?」
「さあ。わざわざ捜索するような重罪を犯したわけでもないから、たぶん放置じゃないかな」
「そうなんだ……」
冒険者なんて、大丈夫なのかな。
ああでも、どうせ転生するならRPGの世界が良かったとか言っていたから。ちょうどいいのかしら。



しばらくして試験結果が貼り出された。
「すごいですわラウル様! 満点だなんて!」
私の隣で大きな瞳を輝かせているのは一年生のサーシャ・アボット嬢。ラウルのお見合い相手だ。
その後も定期的に会っているようで、このままいけばラウルが卒業するまでに婚約する予定だという。
「ラウル様はこれまで一度も失点がないのよ」
「まあ、本当に?!」
よく変わる表情が可愛らしい。いいなあ、こんな可愛い妹が欲しかったなあ。

「相変わらずあり得ないな、ラウルは」
サーシャ嬢に癒やされていると、すぐ後ろから声が聞こえた。
「殿下……」
「またクリスティナに勝てなかったね」
私の肩に手を乗せながら殿下は言った。
今回、私は二点マイナスの二位、殿下は三点マイナスで三位、そのあとにエディーと続いている。
「クリスティナはどこを間違えたの?」
「ええと……歴史学の、最後から三番目の設問を……」
「ああ、あれは難しかったよね。じゃあ他は満点だったの?」
「はい……」
振り返ると、殿下は笑みを浮かべていた。
「すごいねクリスティナは。私は数学がだめだったよ」
「で……殿下もすごいです」
(顔が近い!)
肩を抱かれたまま振り返ると、すぐ目の前に殿下の顔があった。
「次は勝てるよう、頑張らないとな」
「殿下」
目の前で微笑まれて思わず顔に熱がこもるのを感じていると、低い声が響いた。

「もう婚約者ではないのですから、そうやって触れるのはおやめください」
いつの間にか現れたエディーが、そう言って殿下を引き剥がすと私の腕を取って自分へと引き寄せた。
「――君も人のことは言えないのでは?」
「俺は『家族』ですから」
「家族、ね」
エディーを一瞥すると、殿下は再び私を見た。
「クリスティナ。次の休日に王宮へ来てくれる?」
「またですか」
私が答えるより早くエディーが言った。

「エディー。確かに一度婚約は解消したが、クリスティナが王太子妃の最有力候補であることに変わりはない」
エディーを見据えて殿下は言った。
「候補なのだから会う機会を多く持つのは当然だろう」
そう言うと、殿下は私を見て目を細めた。
「それじゃあクリスティナ、また迎えの馬車を送るから」

「……むかつくな」
立ち去った殿下の後ろ姿を見つめながらエディーは呟いた。
「クリスティナ様を巡る男同士の戦いですわね! 恋愛小説で読みましたわ」
サーシャが先刻以上に目を輝かせた。
「でも、どうして婚約解消したのにまだクリスティナ様がお妃候補なんですの?」
「それは、クリスティナ嬢以上にお妃に相応しい人がいないからだよ」
ラウルの声が聞こえた。
「クリスティナ嬢の優秀さを知ってしまうと、どうしても見劣りするんだって。それにお妃教育は何年もかかるから、今から新しい婚約者を決めるのも大変だし」
「それでしたらそもそも婚約を解消しなければ良かったのでは?」
側までやってきたラウルにサーシャが尋ねた。
「――色々あるらしいよ」
「色々ですの?」

私も王妃様に尋ねたことがある。婚約解消という処遇は重すぎるのではないかと。
そのことは王宮内でも賛否があったそうだ。
他の者たちと異なり、殿下とアリスはただ会話をしていただけで、それはアリスも認めているという。
それに対して、謹慎はともかく婚約解消は厳しすぎるのではないかという声もあったのだが、王太子としての自覚に欠けているとの意見も多く、結局再教育のためにも一旦解消することにしたのだという。
そのおかげなのか、殿下は猛省し予定より早く謹慎も解かれることとなった。
『このままだと本当にあなたとの婚約がなくなってしまうと、あの子かなり焦っていたのよ』と王妃様は笑顔で言っていた。

「本当にあなたがお妃になるか、それはあなた自身で選んでいいのよ」
王妃様はそうも言った。
「無理にお妃になってとは言いづらいけれど、あの子が王に相応しいと思えて、あの子を支えてもいいと思えるならお妃になって欲しいの」
(私が決めるとか、気が重いなあ)
のんびり暮らしたいからお妃にはなりたくないなんて、言えないし。


「色々な意見があるから、『一旦婚約破棄』というのが落とし所ってことかな」
ラウルがそうサーシャに説明した。
「そうなんですの……」
「それで振り回されるこっちは迷惑なんだよな」
分かったような分からないような表情のサーシャの隣で、エディーが眉を寄せた。
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