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07 王太子の帰国
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(わあ、こっちもゲームそっくり!)
三年ぶりに会ったアルフレッド殿下は、幼さはやや残るものの、美しさと凛々しさを兼ね備えたその顔はゲームで見た姿そのままだった。
「お帰りアルフレッド」
「まあ、すっかり大人になって」
「父上、母上。ただいま戻りました」
ご両親に挨拶する所作も大人のそれになっている。
(三年だもの……それは変わるわよね)
前世の感覚でいえば、中学生の間全く会わなかったようなものだ。小学生から高校生になれば成長もするし大人になるだろう。
「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
殿下と視線が合ったので、私はドレスを摘んで挨拶をした。
「ありがとう。クリスティナも……とても綺麗になったね」
「そうでしょう。もう妃としてどこに出しても恥ずかしくないわ」
王妃様が私の肩を抱いてそう言ってくれた。
「そうでしたか」
「疲れたでしょう。晩餐まで休みなさい」
「その前に温室を見ておきたいですのですが」
「あら。じゃあクリスティナ、案内してあげて」
「はい」
王妃様の言葉に私は頷いた。
「ああ、どれもちゃんと育っているね」
温室を見回して殿下はほっとした顔を見せた。
「はい。殿下が育て方を詳しく書いてくださいましたから」
「環境が変わると枯れてしまうものも多いから心配だったんだ。これらは鉢に植えたまま?」
「はい。土が変わると良くないかと思いまして。それに直植えするなら配置など、殿下の意見を聞かないとなりませんし」
温室の管理は、殿下の希望で何故か私が任されていた。実際に手入れをするのは庭師たちだが、彼らが判断できないことは私が指示しないとならないのだ。
「ありがとう、さすがだね」
前世で行ったことのある植物園や温室は、種類や産地などによって植える場所が異なっていた。私にはその法則までは分からないし、殿下の好みもあるだろうから、ただ預かった植物たちを枯らさないことだけに気を遣っていたのだが……その判断は正しかったようだ。
「クリスティナに任せて正解だったよ」
「ありがとうございます」
「そうだ、これお土産」
殿下は懐から小さな箱を取り出した。
「各国のレシピは同行したシェフに覚えさせたからね」
「ありがとうございます!」
デザートのこと、覚えていてくれたんだ。楽しみすぎる!
お礼を言うと私は殿下から箱を受け取り、それを開いた。
「綺麗……ローズリリー?」
中に入っていたのは、薄紅色のローズリリーを模した髪飾りだった。
「留学先にローズリリーの産地があってね。群生したローズリリーはとても綺麗だったよ」
「……あの絵本の最後の場面みたいにですか?」
「ああ、絵本よりずっと綺麗だった」
「まあ。見てみたいです」
きっととても綺麗なんだろう。殿下のうっとりとした表情からそれが伝わってくる。
「じゃあ行こうか」
「え?」
「いつか外遊で行く機会もあるだろうしね」
「……はい!」
そうか、王太子妃になれば外国にも行かれるのか。それは楽しみだわ。
「この髪飾り、つけてもいい?」
「え? はい」
殿下は私の手から髪飾りを取ると、そのまま私の頭へとその手を伸ばした。
(わ……近い)
殿下の腕の中に収まった、まるで抱きしめられているような体勢に顔が熱くなってくる。
(本当に……大きくなった)
三年前は身長も同じくらいだったのに。
腕も逞しくなって、すぐ目の前にある殿下の首の、その喉仏も大きくなって声も低くなった。
パチン、と髪留めを止める音が響いた。
「ああ、似合っているね」
身体を離すと殿下は私を見て目を細めた。
「……ありがとうございます」
「本当にクリスティナは綺麗になったね」
「……そうでしょうか」
「うん。想像していた以上だ」
正面から褒められると照れてしまう。
「……殿下も、とても立派になられました」
「そうかな。自分ではよく分からないけどね」
優しくて穏やかなところは変わっていないけれど、本当に殿下は成長して――そろそろ『ゲーム』が始まるんだなと、そう改めて実感した。
三年ぶりに会ったアルフレッド殿下は、幼さはやや残るものの、美しさと凛々しさを兼ね備えたその顔はゲームで見た姿そのままだった。
「お帰りアルフレッド」
「まあ、すっかり大人になって」
「父上、母上。ただいま戻りました」
ご両親に挨拶する所作も大人のそれになっている。
(三年だもの……それは変わるわよね)
前世の感覚でいえば、中学生の間全く会わなかったようなものだ。小学生から高校生になれば成長もするし大人になるだろう。
「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
殿下と視線が合ったので、私はドレスを摘んで挨拶をした。
「ありがとう。クリスティナも……とても綺麗になったね」
「そうでしょう。もう妃としてどこに出しても恥ずかしくないわ」
王妃様が私の肩を抱いてそう言ってくれた。
「そうでしたか」
「疲れたでしょう。晩餐まで休みなさい」
「その前に温室を見ておきたいですのですが」
「あら。じゃあクリスティナ、案内してあげて」
「はい」
王妃様の言葉に私は頷いた。
「ああ、どれもちゃんと育っているね」
温室を見回して殿下はほっとした顔を見せた。
「はい。殿下が育て方を詳しく書いてくださいましたから」
「環境が変わると枯れてしまうものも多いから心配だったんだ。これらは鉢に植えたまま?」
「はい。土が変わると良くないかと思いまして。それに直植えするなら配置など、殿下の意見を聞かないとなりませんし」
温室の管理は、殿下の希望で何故か私が任されていた。実際に手入れをするのは庭師たちだが、彼らが判断できないことは私が指示しないとならないのだ。
「ありがとう、さすがだね」
前世で行ったことのある植物園や温室は、種類や産地などによって植える場所が異なっていた。私にはその法則までは分からないし、殿下の好みもあるだろうから、ただ預かった植物たちを枯らさないことだけに気を遣っていたのだが……その判断は正しかったようだ。
「クリスティナに任せて正解だったよ」
「ありがとうございます」
「そうだ、これお土産」
殿下は懐から小さな箱を取り出した。
「各国のレシピは同行したシェフに覚えさせたからね」
「ありがとうございます!」
デザートのこと、覚えていてくれたんだ。楽しみすぎる!
お礼を言うと私は殿下から箱を受け取り、それを開いた。
「綺麗……ローズリリー?」
中に入っていたのは、薄紅色のローズリリーを模した髪飾りだった。
「留学先にローズリリーの産地があってね。群生したローズリリーはとても綺麗だったよ」
「……あの絵本の最後の場面みたいにですか?」
「ああ、絵本よりずっと綺麗だった」
「まあ。見てみたいです」
きっととても綺麗なんだろう。殿下のうっとりとした表情からそれが伝わってくる。
「じゃあ行こうか」
「え?」
「いつか外遊で行く機会もあるだろうしね」
「……はい!」
そうか、王太子妃になれば外国にも行かれるのか。それは楽しみだわ。
「この髪飾り、つけてもいい?」
「え? はい」
殿下は私の手から髪飾りを取ると、そのまま私の頭へとその手を伸ばした。
(わ……近い)
殿下の腕の中に収まった、まるで抱きしめられているような体勢に顔が熱くなってくる。
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腕も逞しくなって、すぐ目の前にある殿下の首の、その喉仏も大きくなって声も低くなった。
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「ああ、似合っているね」
身体を離すと殿下は私を見て目を細めた。
「……ありがとうございます」
「本当にクリスティナは綺麗になったね」
「……そうでしょうか」
「うん。想像していた以上だ」
正面から褒められると照れてしまう。
「……殿下も、とても立派になられました」
「そうかな。自分ではよく分からないけどね」
優しくて穏やかなところは変わっていないけれど、本当に殿下は成長して――そろそろ『ゲーム』が始まるんだなと、そう改めて実感した。
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