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第3章 呪い
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運び出されたアルセーヌは意識を失っていたが、防御魔法を掛けられていた事もあり怪我などはなかった。
二人の魔力の相性のせいなのか、何らかの要因で魔力が暴発したと思われたが、原因と対策が済むまで魔術大会は中止となった。
「イリス様。噂を耳にしたのですが」
魔術大会からひと月ほど経った頃。
放課後に一人図書館にいたイリスはオレールから声を掛けられた。
「噂?」
「アルセーヌ殿下がある女生徒と親しくしているという噂です」
「…え?」
イリスは思わず眉をひそめた。
「親しく…?」
「何でも人気の少ない場所で二人きりで会っていたとか」
「———お相手の方は?」
「ミアー・マクレーン。この間の魔術大会で殿下と対戦した子爵令嬢ですよ」
「あの暴発した時の…?」
「はい」
イリスは魔術大会の時を思い出した。
相手の顔は遠目で見ただけだったが、可愛らしい容貌だったように思う。
「…親しいというのはどれくらい…」
「ずいぶんと距離が近かったようですよ」
「———それは本当の事なのですか」
不快な表情を露わにしてイリスは尋ねた。
「目撃した生徒が複数いるんです。殿下を見間違える事はないですからね」
「それは…困った事にならないといいけれど」
婚約者のいる王子が、人目の少ない場所で他の女性と二人きりで会っている…しかも親しくしているように見えるなど、問題でしかない。
———アルセーヌ殿下はそんな不誠実な事をするような方だったろうか。
感情が出やすいレナルドと比べてアルセーヌは穏やかな性格で、知性的で大人びた雰囲気を持っている。
頭の回転もよく、礼儀もわきまえている彼が悪い噂になるような行動をするだろうか。
それに婚約者のフランソワーズに対しても、信頼関係を築いているように見えていたのだが。
「その噂は…どれくらい広まっているのかしら」
「今は二年生の一部で囁かれているくらいですね」
「なぜオレール様は知っているのですか」
「情報収集は得意なんです」
オレールはにっこりと笑った。
「…貴方は神官じゃなくて諜報員の方が向いているんじゃないかしら」
思わず声に出してしまう。
「そうかもしれませんね。でも情報収集は神殿にとっても大事ですよ」
「レナルドにも言った方がいいかしら…」
「殿下にはまだ伝えない方がよろしいと思います。本当の関係が分からないのですから」
「…どうして私には伝えたのですか」
「イリス様は物事を冷静に判断される方と思っておりますので」
オレールは笑みを消すと真顔でそう言った。
「それにイリス様は神殿関係者ですからね」
「…関係者になった覚えはないのですが?」
「前も申し上げた通り、イリス様は我々にとって大事な方ですから」
オレールは真顔のまま、口元にだけ笑みを浮かべた。
「それと関係者だというのは違うのではなくて?」
「それについてはまた改めて。次に大神殿に来ていただいた時にでも」
そう言うとオレールは口元の笑みを消した。
「アルセーヌ殿下の件はまだごく一部の噂ですから。もう少し様子を見ていいと思います」
「———フランソワーズ様の耳に入る前に収まればいいのだけれど…」
何だか嫌な予感が胸に広がってしまい、イリスはため息をついた。
二人の魔力の相性のせいなのか、何らかの要因で魔力が暴発したと思われたが、原因と対策が済むまで魔術大会は中止となった。
「イリス様。噂を耳にしたのですが」
魔術大会からひと月ほど経った頃。
放課後に一人図書館にいたイリスはオレールから声を掛けられた。
「噂?」
「アルセーヌ殿下がある女生徒と親しくしているという噂です」
「…え?」
イリスは思わず眉をひそめた。
「親しく…?」
「何でも人気の少ない場所で二人きりで会っていたとか」
「———お相手の方は?」
「ミアー・マクレーン。この間の魔術大会で殿下と対戦した子爵令嬢ですよ」
「あの暴発した時の…?」
「はい」
イリスは魔術大会の時を思い出した。
相手の顔は遠目で見ただけだったが、可愛らしい容貌だったように思う。
「…親しいというのはどれくらい…」
「ずいぶんと距離が近かったようですよ」
「———それは本当の事なのですか」
不快な表情を露わにしてイリスは尋ねた。
「目撃した生徒が複数いるんです。殿下を見間違える事はないですからね」
「それは…困った事にならないといいけれど」
婚約者のいる王子が、人目の少ない場所で他の女性と二人きりで会っている…しかも親しくしているように見えるなど、問題でしかない。
———アルセーヌ殿下はそんな不誠実な事をするような方だったろうか。
感情が出やすいレナルドと比べてアルセーヌは穏やかな性格で、知性的で大人びた雰囲気を持っている。
頭の回転もよく、礼儀もわきまえている彼が悪い噂になるような行動をするだろうか。
それに婚約者のフランソワーズに対しても、信頼関係を築いているように見えていたのだが。
「その噂は…どれくらい広まっているのかしら」
「今は二年生の一部で囁かれているくらいですね」
「なぜオレール様は知っているのですか」
「情報収集は得意なんです」
オレールはにっこりと笑った。
「…貴方は神官じゃなくて諜報員の方が向いているんじゃないかしら」
思わず声に出してしまう。
「そうかもしれませんね。でも情報収集は神殿にとっても大事ですよ」
「レナルドにも言った方がいいかしら…」
「殿下にはまだ伝えない方がよろしいと思います。本当の関係が分からないのですから」
「…どうして私には伝えたのですか」
「イリス様は物事を冷静に判断される方と思っておりますので」
オレールは笑みを消すと真顔でそう言った。
「それにイリス様は神殿関係者ですからね」
「…関係者になった覚えはないのですが?」
「前も申し上げた通り、イリス様は我々にとって大事な方ですから」
オレールは真顔のまま、口元にだけ笑みを浮かべた。
「それと関係者だというのは違うのではなくて?」
「それについてはまた改めて。次に大神殿に来ていただいた時にでも」
そう言うとオレールは口元の笑みを消した。
「アルセーヌ殿下の件はまだごく一部の噂ですから。もう少し様子を見ていいと思います」
「———フランソワーズ様の耳に入る前に収まればいいのだけれど…」
何だか嫌な予感が胸に広がってしまい、イリスはため息をついた。
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