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32.帰省
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「フローラ様。しばらく里帰りしない?」
「え?」
突然のラウルの言葉に私は首を傾げた。
里帰りって…公国にって事?
「再封印の事で何ヶ所か行きたい所があって。転送魔法を使っても時間がかかりそうなんだよね」
「時間がかかるって…どれくらい?」
「最低でも五日はかかるかな」
「そんなに…」
「できれば連れて行きたいんだけど。危険な場所もあるし」
「…また危険な事をするの?」
「そうだよ」
ラウルは私を抱き寄せた。
「でも今回は一緒には連れて行けない。…自分で手一杯だから」
「———分かったわ…」
ラウルを一人で行かせるのは不安だけれど…私がいた所で何もできないという事を痛感したから。
足手まといになるくらいなら、大人しく待っていた方がきっといいのだ。
「でもどうして家に帰るの?ここで待っているわ」
「だって王子が来るでしょ。俺の居ない時に二人きりなんて、冗談じゃない」
「…ジェラルド様はそんなに変な事はしないと思うけど…」
ラウルと違ってね!唇へのキスは一回しかされた事ないし。
「貴女のそういう所が心配なんだけど」
ラウルは大きくため息をついた。
「男を分かってない。無防備過ぎる。押しに弱い」
…何か酷い言われようね。
押しに弱いのは認めるけど…。
「とにかく一人にはしておけないし、一度報告にも行きたいから。ね?」
「…分かったわよ」
———こういう所が押しに弱いって事なんだろなあ。
未練はないと思っていたけれど、十年ぶりに城に入ると懐かしさと共に久しぶりに帰ってきた…という安堵感を覚えた。
帰ってきたなんて…森以外にもそう思える場所があったんだ。
私が使っていた部屋はあの頃のまま綺麗に残されていた。
…おそらく行方不明になっていた私がいつ見つかってもいいように手入れされていたのだろう。
本当に申し訳ないと思う。
「ああフローレンス…やっと帰ってきてくれたのね」
涙目のお母様が私を抱きしめる。
少し前にランベールの王宮で会ったけれど…やはり家で会うのとでは感慨も違う。
お父様はラウルと何やら話し込んでいた。
時々笑いあって…何だろう、妙に親しそうなんだよな。
「あの人は彼の事を気に入っているの」
お母様がそっと耳打ちする。
「子供の時からあなた一筋なのが自分に重なるみたいね」
お母様はその美貌で名だたる王家や名家から婚姻の申し込みが殺到していたらしい。
その中から小さな公国の、幼馴染でもあったお父様を選んだのは、自分のことを小さい時から一途に愛してくれる愛情の強さと誠実さに惹かれたからなのだと伯母様が教えてくれた。
…ラウルの場合は愛情を通り越して執着のような気もするけれど…。
家族三人にラウルを交えて晩餐を取り、ゆったりした団欒の時間を過ごした後、翌朝早くにラウルは旅立って行った。
残された私は暇を持て余すかと思いきや…
お母様による厳しい淑女教育が始まりました。
空白の十年間を埋めるように、儀礼やマナーなどなど詰め込まれ…そういえば子供の時も厳しかったなと遠い記憶が蘇る。
思えばこの間の夜会で十年ぶりにしては何とか踊れたのもこの厳しい教育のお陰だったのかも…。
「姫様、お客様です」
城に戻って七日ほど経ち、心が折れそうになりながらも何とか午前の課題を終わらせて休憩していると侍女の声が聞こえた。
「お客様…?」
私に?ここへ訪ねてくるような人なんかいたかしら?
不思議に思いながらも向かった先、ティールームにいたのは思いがけない人だった。
「フローラ!」
「ジェラルド様?!」
え、どうして?
何でジェラルド様がここに?
「会いたかった…」
立ち上がったジェラルド様にぎゅっと抱きしめられる。
あ…慣れない生活に疲れているせいか、何だかほっとしてしまう。
「———本当に彼は策士だよね」
ジェラルド様が耳元で囁く。
彼?…ラウルの事?
「私を君に会わせないようにこんな所に隠しておくなんて」
ため息が耳元にかかる。
「悔しいから会いに来たんだ」
…ランベール王国からここまで馬車だと二日以上かかる。
それだけ離れている距離をわざわざ私に会うために来たの?!
「すっかり令嬢らしくなったね」
ジェラルド様は私の手を取るとソファへ座らせ、すぐ隣へと腰を下ろした。
夜会のように着飾る訳ではなく、貴族令嬢としての普段着を着ているから…逆にそう見えるかもしれない。
それとも厳しい淑女教育の賜物かしら?
「ジェラルド様…本当に私に会うためにここまで来たのですか」
「そうだって言いたいけど…流石に父上に怒られるから。オールヴィル王国へ行く途中に寄ったという事にしてあるんだ」
親戚だから不自然じゃないでしょ、と笑みを浮かべる。
…ジェラルド様も十分策士だよね…。
「オールヴィル王国へは何をしに?」
「見合いだよ」
え?
「ああそんな顔しないで。私の一番はフローラだから」
いやいや待って。
お見合いする前に他の女の所に寄っていいの?!
しかも私が一番って笑顔で言われても!
———確かに王族の結婚に恋愛感情とかは必要ないかもしれないけど…。
「…それは…相手の方に失礼なのではないですか」
「そうだね。だから割り切ってくれる相手を探しているんだ」
ジェラルド様の手が私の頬に触れる。
「私のフローラへの想いは永遠に消えそうにないからね」
どうして…決して結ばれないと分かっているのに、そういう事を言えるんだろう。
「ジェラルド様は…それでいいのですか」
「———私は君に出会えて幸せだよ」
そう言ってジェラルド様は…本当に嬉しそうに笑うから。
申し訳なくて私は俯いてしまう。
「フローラは…本当に優しいね」
大きな両手が私の顔を包み込んだ。
「もう少し…君の優しさに触れさせて」
「え…?」
ふいにジェラルド様の顔が近づく。
あ…それはまずい…。
私が逃げようと頭を後ろに下げるより早く。
黒い手がジェラルド様の腕を掴んだ。
「———どうして貴方がここにいるんですか」
「…ラウル!」
「まったく…嫌な予感がしたから急いで戻ってみれば」
黒いローブに身を包んだラウルが立っていた。
「君は意地が悪いよね。少しくらいフローラを貸してくれてもいいだろう」
「いい訳ないでしょう」
悪びれる様子のないジェラルド様を明らかに不機嫌な顔のラウルが見下ろす。
わあ…修羅場ってやつ?
まずい場面なんだけど…いやそれよりも…!
「ラウル…あなた何を持って帰ってきたの?!」
ラウルの懐から明らかに危険な魔力の気配がする方がまずいんだけど!
「え?」
突然のラウルの言葉に私は首を傾げた。
里帰りって…公国にって事?
「再封印の事で何ヶ所か行きたい所があって。転送魔法を使っても時間がかかりそうなんだよね」
「時間がかかるって…どれくらい?」
「最低でも五日はかかるかな」
「そんなに…」
「できれば連れて行きたいんだけど。危険な場所もあるし」
「…また危険な事をするの?」
「そうだよ」
ラウルは私を抱き寄せた。
「でも今回は一緒には連れて行けない。…自分で手一杯だから」
「———分かったわ…」
ラウルを一人で行かせるのは不安だけれど…私がいた所で何もできないという事を痛感したから。
足手まといになるくらいなら、大人しく待っていた方がきっといいのだ。
「でもどうして家に帰るの?ここで待っているわ」
「だって王子が来るでしょ。俺の居ない時に二人きりなんて、冗談じゃない」
「…ジェラルド様はそんなに変な事はしないと思うけど…」
ラウルと違ってね!唇へのキスは一回しかされた事ないし。
「貴女のそういう所が心配なんだけど」
ラウルは大きくため息をついた。
「男を分かってない。無防備過ぎる。押しに弱い」
…何か酷い言われようね。
押しに弱いのは認めるけど…。
「とにかく一人にはしておけないし、一度報告にも行きたいから。ね?」
「…分かったわよ」
———こういう所が押しに弱いって事なんだろなあ。
未練はないと思っていたけれど、十年ぶりに城に入ると懐かしさと共に久しぶりに帰ってきた…という安堵感を覚えた。
帰ってきたなんて…森以外にもそう思える場所があったんだ。
私が使っていた部屋はあの頃のまま綺麗に残されていた。
…おそらく行方不明になっていた私がいつ見つかってもいいように手入れされていたのだろう。
本当に申し訳ないと思う。
「ああフローレンス…やっと帰ってきてくれたのね」
涙目のお母様が私を抱きしめる。
少し前にランベールの王宮で会ったけれど…やはり家で会うのとでは感慨も違う。
お父様はラウルと何やら話し込んでいた。
時々笑いあって…何だろう、妙に親しそうなんだよな。
「あの人は彼の事を気に入っているの」
お母様がそっと耳打ちする。
「子供の時からあなた一筋なのが自分に重なるみたいね」
お母様はその美貌で名だたる王家や名家から婚姻の申し込みが殺到していたらしい。
その中から小さな公国の、幼馴染でもあったお父様を選んだのは、自分のことを小さい時から一途に愛してくれる愛情の強さと誠実さに惹かれたからなのだと伯母様が教えてくれた。
…ラウルの場合は愛情を通り越して執着のような気もするけれど…。
家族三人にラウルを交えて晩餐を取り、ゆったりした団欒の時間を過ごした後、翌朝早くにラウルは旅立って行った。
残された私は暇を持て余すかと思いきや…
お母様による厳しい淑女教育が始まりました。
空白の十年間を埋めるように、儀礼やマナーなどなど詰め込まれ…そういえば子供の時も厳しかったなと遠い記憶が蘇る。
思えばこの間の夜会で十年ぶりにしては何とか踊れたのもこの厳しい教育のお陰だったのかも…。
「姫様、お客様です」
城に戻って七日ほど経ち、心が折れそうになりながらも何とか午前の課題を終わらせて休憩していると侍女の声が聞こえた。
「お客様…?」
私に?ここへ訪ねてくるような人なんかいたかしら?
不思議に思いながらも向かった先、ティールームにいたのは思いがけない人だった。
「フローラ!」
「ジェラルド様?!」
え、どうして?
何でジェラルド様がここに?
「会いたかった…」
立ち上がったジェラルド様にぎゅっと抱きしめられる。
あ…慣れない生活に疲れているせいか、何だかほっとしてしまう。
「———本当に彼は策士だよね」
ジェラルド様が耳元で囁く。
彼?…ラウルの事?
「私を君に会わせないようにこんな所に隠しておくなんて」
ため息が耳元にかかる。
「悔しいから会いに来たんだ」
…ランベール王国からここまで馬車だと二日以上かかる。
それだけ離れている距離をわざわざ私に会うために来たの?!
「すっかり令嬢らしくなったね」
ジェラルド様は私の手を取るとソファへ座らせ、すぐ隣へと腰を下ろした。
夜会のように着飾る訳ではなく、貴族令嬢としての普段着を着ているから…逆にそう見えるかもしれない。
それとも厳しい淑女教育の賜物かしら?
「ジェラルド様…本当に私に会うためにここまで来たのですか」
「そうだって言いたいけど…流石に父上に怒られるから。オールヴィル王国へ行く途中に寄ったという事にしてあるんだ」
親戚だから不自然じゃないでしょ、と笑みを浮かべる。
…ジェラルド様も十分策士だよね…。
「オールヴィル王国へは何をしに?」
「見合いだよ」
え?
「ああそんな顔しないで。私の一番はフローラだから」
いやいや待って。
お見合いする前に他の女の所に寄っていいの?!
しかも私が一番って笑顔で言われても!
———確かに王族の結婚に恋愛感情とかは必要ないかもしれないけど…。
「…それは…相手の方に失礼なのではないですか」
「そうだね。だから割り切ってくれる相手を探しているんだ」
ジェラルド様の手が私の頬に触れる。
「私のフローラへの想いは永遠に消えそうにないからね」
どうして…決して結ばれないと分かっているのに、そういう事を言えるんだろう。
「ジェラルド様は…それでいいのですか」
「———私は君に出会えて幸せだよ」
そう言ってジェラルド様は…本当に嬉しそうに笑うから。
申し訳なくて私は俯いてしまう。
「フローラは…本当に優しいね」
大きな両手が私の顔を包み込んだ。
「もう少し…君の優しさに触れさせて」
「え…?」
ふいにジェラルド様の顔が近づく。
あ…それはまずい…。
私が逃げようと頭を後ろに下げるより早く。
黒い手がジェラルド様の腕を掴んだ。
「———どうして貴方がここにいるんですか」
「…ラウル!」
「まったく…嫌な予感がしたから急いで戻ってみれば」
黒いローブに身を包んだラウルが立っていた。
「君は意地が悪いよね。少しくらいフローラを貸してくれてもいいだろう」
「いい訳ないでしょう」
悪びれる様子のないジェラルド様を明らかに不機嫌な顔のラウルが見下ろす。
わあ…修羅場ってやつ?
まずい場面なんだけど…いやそれよりも…!
「ラウル…あなた何を持って帰ってきたの?!」
ラウルの懐から明らかに危険な魔力の気配がする方がまずいんだけど!
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