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「子供――」

ルイーズが生きていた。
その報を受けて喜んだのも束の間、続けられたユーゴの言葉にアレクサンドは言葉を失った。

「父親は義賊の男で……二人は夫婦として暮らしていたそうです」
ユーゴは隣に立つマクシムを見た。
「世話をしていたという女に聴取しました。結婚は合意によるもので、とても仲が良く、幸せに暮らしていたと」
「幸せ……そう、か」
マクシムの言葉に項垂れるようにアレクサンドは顔を伏せた。


「それで……ルイーズは、今は……」
「医者から絶対安静を言い渡されています」
「絶対安静だと?!」
「まだお腹の子が小さくて不安定な所に、男が死んだショックで体調を崩しまして……」
ユーゴはため息をついた。
「ともかく母が心配して、余計な刺激を与えるからと言って私も父もろくに会わせてもらえていません」

「そうか」
小さくそう応えて、アレクサンドは再び顔を伏せた。



ユーゴとマクシムは顔を見合わせると、何か確認するように小さく頷いた。
「時に殿下。ルイーズに紋章入りの指輪を贈ったことはありますか」
「紋章入りの?」
アレクサンドは顔を上げた。

「金の、紋章だけが彫られたものです」
「いや。それはルイーズに贈るようなものではないだろう」
紋章のみの指輪は、身分の低い者に褒美などで与えるものであり、公太子の婚約者に渡すものではない。

「それがどうかしたのか」
「実はルイーズが、その指輪を肌身離さず持っているようでして」
「何?」
「一度侍女が、身を清める時に外そうとしたら泣いて拒否したと」

「どういうことだ」
「それと」
マクシムが口を開いた。
「ルイーズ嬢の相手の男ですが……殿下にそっくりでした」

「何?」
「驚きましたよ、一瞬殿下が死んでいるのかと」
「その二つの件から、父があることを思い出しまして」
ユーゴが言った。
「昔、閣下が公太子だった時に侍女に手を出したことがあったそうです」
「――父上が?」
「父の記憶では、その侍女は暇を出され、その時に閣下から指輪を渡されたそうです」

「それは……まさか」
「この後、父と共に閣下に確認しに行く予定です」
「私も行こう」
ガタン、とアレクサンドは立ち上がった。



「殿下。ルイーズのことは諦めますよね」
立ち上がったアレクサンドと視線を合わせてユーゴが言った。
「何?」
「他の男と結婚し、子供まで宿しているのです。妹は……妃にはなれません」
「それは……」
「ルイーズは身体が安定したら領地へ移す予定です。二度と都へ戻ることはないでしょう」
侯爵令嬢が平民との間に子を産んだなど、貴族社会では醜聞以外の何物でもない。
ルイーズは表向き、アレクサンドによるシャンピオン子爵の悪事調査に巻き込まれないよう、領地へ向かったことになっている。
その調査や処罰は半年以上前に終わっているが、ルイーズは体調を崩したためそのまま領地で療養中だとされていた。
このまま身体が回復する見込みはないとして、アレクサンドとの婚約は解消させる。
グレゴワール侯爵はそう筋立てていた。

「……ルイーズを領地に閉じ込めるのか。その後はどうするつもりだ」
「それはまだ未定です。今はともかくルイーズの身体を守ることが第一ですから」

「そうか」
呟くと、アレクサンドはそれきり黙り込んだ。
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