3 / 22
第一章 瓜二つの少女
03
しおりを挟む
「疲れていない?」
「はい、大丈夫です」
長い廊下を歩きながら、エリオットの気遣いにルーシーは微笑んで答えた。
「じゃあ温室に寄って行こう。この間言ったバラが咲いているんだ」
「はい」
さらに笑顔になったルーシーは、けれどふとその顔を曇らせた。
「あの……ごめんなさい」
「何が?」
「陛下のお言葉に……身を引くと、勝手に言ってしまって」
「ああ、大丈夫」
不安そうな表情になったルーシーに、今度はエリオットが笑顔を向けた。
「ルーシーが家族を一番大事にしているのは分かっているし。あとは僕が両親たちに認めてもらえるよう頑張るから」
「……はい」
「温室は向こうだよ」
ほっとしたようにルーシーも再び笑顔になると、差し出された手を取った。
手を繋いだまま、二人は温室の中を歩いていた。
まだ寒い外と異なり一年中快適な温度を保っている温室には彩りどりの花が咲いている。
「このバラだ。ルーシーの髪色と同じだろう」
立ち止まったエリオットが指し示した先に咲いているのは、深紅のバラだった。
他のバラよりも多く花弁が重なり合った、大ぶりで華やかなその色は確かにルーシーの髪色によく似ていた。
「このバラは希少だから今はまだあげられないけど、いつか抱えきれないくらいの花束を作ってルーシーにあげるね」
「……ありがとうございます」
エリオットを見上げて、ルーシーは満面の笑みを浮かべた。
「私、バラが大好きなんです」
「僕も好きだよ。前は花なんて興味なかったけど、ルーシーみたいだと思ったら大好きになった」
エリオットの言葉にルーシーの顔が赤く染まった。
「ルーシーの頬は向こうに咲いているバラみたいだね」
淡い紅色のバラに視線を送り、エリオットは再びルーシーを見るとその染まった頬に手を添えた、その時。
「パトリシア……!」
女性の声が響き渡った。
振り返ると、ゆったりとしたドレスを着た金髪の女性が目を見開き立ち尽くしていた。
「パトリシア?」
エリオットの声に、女性は我に返ったようにその瞳を瞬かせた。
「あ……エリオット殿下……あの」
困惑したようにエリオットとルーシーを交互にみやる。
「その、お隣の……」
「彼女は僕の恋人だ」
「――ルーシー・アングラードと申します」
「ルーシー……アングラード……恋人?」
「ルーシー、こちらは兄上の側妃でアメーリアだ」
「初めてお目にかかります」
自分を凝視するアメーリアに、ルーシーは笑顔で再び挨拶をした。
「あ……初めまして」
アメーリアはほうと大きく息を吐くと、ようやくその表情を緩めた。
「ごめんなさいね、あまりにも似ていたものだから」
「パトリシアという人?」
エリオットは小首を傾げた。
「そんなに似ている人がいるの?」
「――殿下は覚えていないかしら。もう八年前になるものね……」
「そういえばさっき父上たちもとても驚いていたけど。もしかして皆が知っている人なの?」
「陛下たちにもお会いしたの?」
「ルーシーを紹介したんだ、彼女と結婚したいと」
「まあ。……侍女たちが言っていた殿下の『運命の人』はルーシーさんのことだったの」
アメーリアは納得したように頷いて、それから視線を傍の深紅のバラへと移した。
「それは、とても驚くでしょうね」
「そのパトリシアという人は一体……」
「――王太子殿下の元婚約者の方よ」
「兄上の? まさかあの……」
「そう、追放されて亡くなられてしまった」
そう言ってアメーリアは二人を見た。
「パトリシアは私の親友だったの」
エリオットは目を見開いて、ルーシーを見た。
「……そんなに似ているの?」
「ええ、瞳の色は違うけれど。パトリシアもこのバラと同じ髪色で、もっと長くて……」
「あ」
エリオットは小さく声を上げた。
「思い出した……小さい頃、赤い髪の女性が兄上と一緒に遊んでくれた……」
顔は思い出せないけれど、優しい笑顔だったように思う。
「パトリシアは、殿下のことをとても可愛くて良い子だったと言っていたわ。弟ができるのが嬉しいって……」
寂しげな顔でアメーリアは言った。
「――だから皆あんなに驚いていたのか」
「ねえ、ルーシーさん」
アメーリアはルーシーの手を取った。
「今度お茶に招いて良いかしら」
「お茶ですか」
「こんな身体で何もさせてもらえなくて退屈なの。話し相手になってくれると嬉しいわ」
アメーリアは自分の腹部へと視線を落とした。
「……赤ちゃん、ですか」
ふっくらとしたお腹を見てルーシーは言った。
「ええ、再来月産まれる予定なの」
「おめでとうございます」
「ありがとう。ね、どうか遊びにきてね」
「はい」
ルーシーが笑顔で頷くと、アメーリアも笑みを返した。
「はい、大丈夫です」
長い廊下を歩きながら、エリオットの気遣いにルーシーは微笑んで答えた。
「じゃあ温室に寄って行こう。この間言ったバラが咲いているんだ」
「はい」
さらに笑顔になったルーシーは、けれどふとその顔を曇らせた。
「あの……ごめんなさい」
「何が?」
「陛下のお言葉に……身を引くと、勝手に言ってしまって」
「ああ、大丈夫」
不安そうな表情になったルーシーに、今度はエリオットが笑顔を向けた。
「ルーシーが家族を一番大事にしているのは分かっているし。あとは僕が両親たちに認めてもらえるよう頑張るから」
「……はい」
「温室は向こうだよ」
ほっとしたようにルーシーも再び笑顔になると、差し出された手を取った。
手を繋いだまま、二人は温室の中を歩いていた。
まだ寒い外と異なり一年中快適な温度を保っている温室には彩りどりの花が咲いている。
「このバラだ。ルーシーの髪色と同じだろう」
立ち止まったエリオットが指し示した先に咲いているのは、深紅のバラだった。
他のバラよりも多く花弁が重なり合った、大ぶりで華やかなその色は確かにルーシーの髪色によく似ていた。
「このバラは希少だから今はまだあげられないけど、いつか抱えきれないくらいの花束を作ってルーシーにあげるね」
「……ありがとうございます」
エリオットを見上げて、ルーシーは満面の笑みを浮かべた。
「私、バラが大好きなんです」
「僕も好きだよ。前は花なんて興味なかったけど、ルーシーみたいだと思ったら大好きになった」
エリオットの言葉にルーシーの顔が赤く染まった。
「ルーシーの頬は向こうに咲いているバラみたいだね」
淡い紅色のバラに視線を送り、エリオットは再びルーシーを見るとその染まった頬に手を添えた、その時。
「パトリシア……!」
女性の声が響き渡った。
振り返ると、ゆったりとしたドレスを着た金髪の女性が目を見開き立ち尽くしていた。
「パトリシア?」
エリオットの声に、女性は我に返ったようにその瞳を瞬かせた。
「あ……エリオット殿下……あの」
困惑したようにエリオットとルーシーを交互にみやる。
「その、お隣の……」
「彼女は僕の恋人だ」
「――ルーシー・アングラードと申します」
「ルーシー……アングラード……恋人?」
「ルーシー、こちらは兄上の側妃でアメーリアだ」
「初めてお目にかかります」
自分を凝視するアメーリアに、ルーシーは笑顔で再び挨拶をした。
「あ……初めまして」
アメーリアはほうと大きく息を吐くと、ようやくその表情を緩めた。
「ごめんなさいね、あまりにも似ていたものだから」
「パトリシアという人?」
エリオットは小首を傾げた。
「そんなに似ている人がいるの?」
「――殿下は覚えていないかしら。もう八年前になるものね……」
「そういえばさっき父上たちもとても驚いていたけど。もしかして皆が知っている人なの?」
「陛下たちにもお会いしたの?」
「ルーシーを紹介したんだ、彼女と結婚したいと」
「まあ。……侍女たちが言っていた殿下の『運命の人』はルーシーさんのことだったの」
アメーリアは納得したように頷いて、それから視線を傍の深紅のバラへと移した。
「それは、とても驚くでしょうね」
「そのパトリシアという人は一体……」
「――王太子殿下の元婚約者の方よ」
「兄上の? まさかあの……」
「そう、追放されて亡くなられてしまった」
そう言ってアメーリアは二人を見た。
「パトリシアは私の親友だったの」
エリオットは目を見開いて、ルーシーを見た。
「……そんなに似ているの?」
「ええ、瞳の色は違うけれど。パトリシアもこのバラと同じ髪色で、もっと長くて……」
「あ」
エリオットは小さく声を上げた。
「思い出した……小さい頃、赤い髪の女性が兄上と一緒に遊んでくれた……」
顔は思い出せないけれど、優しい笑顔だったように思う。
「パトリシアは、殿下のことをとても可愛くて良い子だったと言っていたわ。弟ができるのが嬉しいって……」
寂しげな顔でアメーリアは言った。
「――だから皆あんなに驚いていたのか」
「ねえ、ルーシーさん」
アメーリアはルーシーの手を取った。
「今度お茶に招いて良いかしら」
「お茶ですか」
「こんな身体で何もさせてもらえなくて退屈なの。話し相手になってくれると嬉しいわ」
アメーリアは自分の腹部へと視線を落とした。
「……赤ちゃん、ですか」
ふっくらとしたお腹を見てルーシーは言った。
「ええ、再来月産まれる予定なの」
「おめでとうございます」
「ありがとう。ね、どうか遊びにきてね」
「はい」
ルーシーが笑顔で頷くと、アメーリアも笑みを返した。
46
お気に入りに追加
2,261
あなたにおすすめの小説
【一話完結】才色兼備な公爵令嬢は皇太子に婚約破棄されたけど、その場で第二皇子から愛を告げられる
皐月 誘
恋愛
「お前のその可愛げのない態度にはほとほと愛想が尽きた!今ここで婚約破棄を宣言する!」
この帝国の皇太子であるセルジオが高らかに宣言した。
その隣には、紫のドレスを身に纏った1人の令嬢が嘲笑うかのように笑みを浮かべて、セルジオにしなだれ掛かっている。
意図せず夜会で注目を浴びる事になったソフィア エインズワース公爵令嬢は、まるで自分には関係のない話の様に不思議そうな顔で2人を見つめ返した。
-------------------------------------
1話完結の超短編です。
想像が膨らめば、後日長編化します。
------------------------------------
お時間があれば、こちらもお読み頂けると嬉しいです!
連載中長編「前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される」
連載中 R18短編「【R18】聖女となった公爵令嬢は、元婚約者の皇太子に監禁調教される」
完結済み長編「シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす」
よろしくお願い致します!
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
親友をいたずらで殺した令嬢に、罪をなすりつけられ国外追放された私は……復讐を誓う。
冬吹せいら
恋愛
ニーザ・ガレンシアには、マース・シアノンという親友がいた。
しかし、令嬢のユレース・リムレットのいたずらで、マースが死んでしまう。
ユレースによって、罪をなすりつけられたニーザは、国外追放され、森に捨てられた。
魔法を研究していたせいで、魔女と罵られた彼女は、本当に魔女になるため、森で修行を始める……。
やがて、十年が経過したある日。街に異変が訪れるのだった。
【完結】悪役令嬢、ヒロインはいじめない
荷居人(にいと)
恋愛
「君とは婚約破棄だ!」
きっと睨み付けて私にそんなことを言い放ったのは、私の婚約者。婚約者の隣には私とは別のご令嬢を肩に抱き、大勢の前でざまぁみろとばかりに指をこちらに差して叫ぶ。
「人に指を差してはいけませんと習いませんでした?」
周囲がざわつく中で私はただ冷静に注意した。何故かって?元々この未来を私は知っていたから。だから趣旨を変えてみたけどゲームの強制力には抗えないみたい。
でもまあ、本番はここからよね。
悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。
しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。
次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。
破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
悪役令嬢に転生したけど記憶が戻るのが遅すぎた件〜必死にダイエットして生き延びます!〜
ニコ
恋愛
断罪中に記憶を思い出した悪役令嬢フレヤ。そのときにはすでに国外追放が決定しており手遅れだった。
「このままでは餓死して死ぬ……!」
自身の縦にも横にも広い肉付きの良い体を眺め、フレヤは決心した。
「痩せて綺麗になって楽しい国外追放生活を満喫してやる! (ついでに豚って言いやがったあのポンコツクソ王子も見返してやる‼︎)」
こうしてフレヤのダイエット企画は始まったのだった……
※注.フレヤは時々口が悪いです。お許しくださいm(_ _)m
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる