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最終章 令嬢は彼との未来を望む

03

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ドーナツパーティーも終わり、後片付けを済ませると応接室には私とパトリックが残った。

「シア」
並んでソファに座ると、パトリックが肩に手を回してきた。
そのまま抱き寄せられ…身体を預ける形になる。

力強い腕と、体温と、匂い…
全てが心地良くて安心できる。
思わず目を閉じて温もりを感じていると、頭に何か触れる感触を覚えた。

「シアが、俺を選んでくれて良かった」
そう言ってパトリックはもう一度頭にキスを落とした。
「記憶が戻ったと聞いた時…また嫌われてしまうのではないかと怖かった」
「リック…」
「けれどシアはこうやって、俺の側にいる」
「…はい」
頭をぎゅっとパトリックの胸に押し付けると、強く抱きしめられた。



記憶が戻り、殿下への恋心も思い出したけれど…それと共に、その殿下への想いは過去のものなのだと気付いた。
そうなったのは…記憶をなくすよりも前から、少しずつだったと思う。

「私…ずっと迷っていたんです」

「迷う?」
「殿下との仲を反対されて、それぞれ別の人と婚約する事になって。それでも互いを忘れないと誓いあったけれど…本当に、それでいいのかと」

殿下はいつかはと言っていたけれど、陛下の命令は絶対だ。
きっとそのいつかが来る前に二人とも結婚する事になるだろう。
そうなれば…その時は来ないのではないかと。


「…リックも…私達のせいで突然王命で婚約させられたのに。その私が拒み続けるのは…失礼ではないのかと思っていたんです」

婚約した当初は、絶対にこの人の事を好きにならないと決めていた。
けれど、失礼な私の態度を非難する事もなくただ物言いたげに送られる眼差しに…そして学園に入ってから伝え聞く、パトリックの優秀さと人となりに…
婚約という形で私に縛り付けられたこの人を、拒否し続けていいのか…迷いが生じたのだ。

迷いの中で…今覚えば、私は少しずつパトリックに惹かれていったのかもしれない。



「———そうか、シアも苦しんでいたんだな」
パトリックは私の肩を優しく撫でた。

「本当に…ごめんなさい」
「もう過ぎた事だ」
パトリックは私の頬に手を添えると顔を上げさせた。

「俺も怯えていないで、もっと早く…君と話をしておけば良かった」
「リック…」
「確かに辛い事もあったが…今はこうやって心を通わせる事が出来たのだから。もういいんだ」
パトリックの顔が近づく。
目を閉じると…柔らかくて温かな感触が唇に伝わる。


「シア。愛している」
「私も…愛しています」

見つめ合うと、私達はもう一度長い口付けを交わした。



おわり



ここまでお読みいただきありがとうございました。

今回はヤンデレを書こう!と思い立って作りました。
でも油断するとどんどんホラーな方向へと行ってしまうので…やり過ぎないよう意識しました。
さじ加減が難しいですね。

病んでてもいいよという方は、この後のおまけのテオドーロ視点の話をどうぞ。
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