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最終章 令嬢は彼との未来を望む
01
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「わあっ」
念願の!ドーナツ!
テーブルに並べられたドーナツを前に思わず歓声を上げてしまう。
プレーンなドーナツに、ドライフルーツが入ったもの、溶かした砂糖がかかったもの…どれも美味しそうだ。
「いい匂いだ」
「変わった菓子だな」
「ずいぶんと大きいんですのね」
他の人達はレベッカがテーブルの上にドーナツを並べているのを不思議そうに見つめている。
今日は私の快気祝いでドーナツパーティーをするのだ。
最初はレベッカと二人で食べるつもりだったのだが、それを聞きつけたパトリック達も食べたいと言い出して少し大事になってしまった。
ここは生徒会の応接室。
参加者は私とレベッカにパトリック、リアム、そして殿下とブリジットの六名だ。
「それじゃあ、シアの学園復帰を祝して」
ドーナツと紅茶をセッティングすると、殿下の言葉でお茶会が始まった。
「頂きます」
まずはプレーンからよね。
両手でドーナツを持つとかぶりつく。
フワフワで少しもちっとして…美味しい!
幾つでも食べられそう!
幸せな気持ちで懐かしさと共に美味しさを噛み締めていると、ふと全員の視線がこちらに向いているのに気付いた。
「…ずいぶんと大胆な食べ方をしますのね」
ナイフとフォークでドーナツを切っていたブリジットが眉をひそめて言った。
…御行儀が悪いのは分かっているけれど。
切ったら食感が変わりそうだし。
それにドーナツはかぶりついて食べるものよ!
「そうやって食べる方が旨そうだな」
隣に座ったパトリックが、ナイフを置くと手で砂糖がけのドーナツを取り私と同じようにかぶりついた。
「…うん、食感も味もいいな」
パトリックと目線を合わせると、本当に美味しそうな顔を見せたのでへらりとした淑女らしからぬ笑みが浮かんでしまった。
「…記憶が戻ったはずなのに幼稚に…いえ、以前と変わりましたわね」
「でも今のシアも可愛くていいと思うよ」
眉をひそめたままのブリジットの隣で殿下が笑顔でそう言った。
以前ならば殿下が他の女性を少しでも褒めようものならばブリジットは怒り出していたけれど…今はただただ私へ呆れているだけだ。
再度テオドーロに毒を盛られた私は、部分的な記憶喪失となった。
テオドーロが養子に入ってからの、彼との記憶が消えたのだ。
学園に通っていた事や、留年してレベッカと出会った事やパトリックとの交流などは覚えていたのだが…テオドーロが絡む部分はあやふやになる。
…まるでピースが欠けたジグソーパズルのように、ランダムに一部分が消えたのだ。
身体が回復するとともに記憶も全て戻り、ようやく頭の中がすっきりした。
———生まれてからの記憶と、前世の記憶とが混ざりあい、記憶をなくす前の私とはまた変わってしまったらしいけれど。
テオドーロは今、表向き病になったとして教会の療養院に預けられている。
彼が私に毒を盛ったという事は隠される事になった。
我が家の醜聞は王妃の汚点ともなるからだ。
一時的とはいえ、私がテオドーロの事だけを忘れた事は彼にとって相当ショックだったらしい。
療養院で大人しくしていると見舞いに行った父が言っていた。
身体は健康なので薬師の手伝いをしているそうだ。
テオドーロの薬を作る能力はかなり高いらしい。
実家のレスタンクール家で居場所がなかったテオドーロは、よく家を抜け出していたという。
そして野山に入り、そこに生えている植物に興味を持ち独学で薬草や薬の作り方も学んだそうだ。
…確かに子供の頃から草花の名前をよく知っていたけれど。
自分で薬を作っていたとは、実家も我が家の家族も、誰も気づいていなかった。
テオドーロが今後どうなるかはまだ分からないけれど…私への執着心をなくす事ができればいいと願っている。
念願の!ドーナツ!
テーブルに並べられたドーナツを前に思わず歓声を上げてしまう。
プレーンなドーナツに、ドライフルーツが入ったもの、溶かした砂糖がかかったもの…どれも美味しそうだ。
「いい匂いだ」
「変わった菓子だな」
「ずいぶんと大きいんですのね」
他の人達はレベッカがテーブルの上にドーナツを並べているのを不思議そうに見つめている。
今日は私の快気祝いでドーナツパーティーをするのだ。
最初はレベッカと二人で食べるつもりだったのだが、それを聞きつけたパトリック達も食べたいと言い出して少し大事になってしまった。
ここは生徒会の応接室。
参加者は私とレベッカにパトリック、リアム、そして殿下とブリジットの六名だ。
「それじゃあ、シアの学園復帰を祝して」
ドーナツと紅茶をセッティングすると、殿下の言葉でお茶会が始まった。
「頂きます」
まずはプレーンからよね。
両手でドーナツを持つとかぶりつく。
フワフワで少しもちっとして…美味しい!
幾つでも食べられそう!
幸せな気持ちで懐かしさと共に美味しさを噛み締めていると、ふと全員の視線がこちらに向いているのに気付いた。
「…ずいぶんと大胆な食べ方をしますのね」
ナイフとフォークでドーナツを切っていたブリジットが眉をひそめて言った。
…御行儀が悪いのは分かっているけれど。
切ったら食感が変わりそうだし。
それにドーナツはかぶりついて食べるものよ!
「そうやって食べる方が旨そうだな」
隣に座ったパトリックが、ナイフを置くと手で砂糖がけのドーナツを取り私と同じようにかぶりついた。
「…うん、食感も味もいいな」
パトリックと目線を合わせると、本当に美味しそうな顔を見せたのでへらりとした淑女らしからぬ笑みが浮かんでしまった。
「…記憶が戻ったはずなのに幼稚に…いえ、以前と変わりましたわね」
「でも今のシアも可愛くていいと思うよ」
眉をひそめたままのブリジットの隣で殿下が笑顔でそう言った。
以前ならば殿下が他の女性を少しでも褒めようものならばブリジットは怒り出していたけれど…今はただただ私へ呆れているだけだ。
再度テオドーロに毒を盛られた私は、部分的な記憶喪失となった。
テオドーロが養子に入ってからの、彼との記憶が消えたのだ。
学園に通っていた事や、留年してレベッカと出会った事やパトリックとの交流などは覚えていたのだが…テオドーロが絡む部分はあやふやになる。
…まるでピースが欠けたジグソーパズルのように、ランダムに一部分が消えたのだ。
身体が回復するとともに記憶も全て戻り、ようやく頭の中がすっきりした。
———生まれてからの記憶と、前世の記憶とが混ざりあい、記憶をなくす前の私とはまた変わってしまったらしいけれど。
テオドーロは今、表向き病になったとして教会の療養院に預けられている。
彼が私に毒を盛ったという事は隠される事になった。
我が家の醜聞は王妃の汚点ともなるからだ。
一時的とはいえ、私がテオドーロの事だけを忘れた事は彼にとって相当ショックだったらしい。
療養院で大人しくしていると見舞いに行った父が言っていた。
身体は健康なので薬師の手伝いをしているそうだ。
テオドーロの薬を作る能力はかなり高いらしい。
実家のレスタンクール家で居場所がなかったテオドーロは、よく家を抜け出していたという。
そして野山に入り、そこに生えている植物に興味を持ち独学で薬草や薬の作り方も学んだそうだ。
…確かに子供の頃から草花の名前をよく知っていたけれど。
自分で薬を作っていたとは、実家も我が家の家族も、誰も気づいていなかった。
テオドーロが今後どうなるかはまだ分からないけれど…私への執着心をなくす事ができればいいと願っている。
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