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第五章 令嬢は真実を知る
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(レベッカ視点3)
翌日。
学園に行くとアレクシアが階段から落ちて怪我をしたと聞かされた。
———まさか…突き落とされた?
昨日の毒草の事といい、不安に駆られながらも午前の授業を受け、食堂へと向かった。
「レベッカ!」
声を掛けられ、見やると上の席からリアムが手招きをしていた。
その側には殿下とブリジット、それにパトリックの姿も見える。
…あの中に入るのは勇気がいるが…おそらくアレクシアの事だろう。
私は昼食を手に彼らの元へと向かった。
ブリジットはいつもの気の強そうな様子はなく、今にも泣きそうな顔をしていた。
殿下も明らかに顔色が悪い。
一体何が…
訝しがる私に、リアムが昨日アレクシアの身に起きた事を説明してくれた。
ブリジットを庇ったせいで階段から落ちてしまったと。
「…それで…アレクシアの容体は…」
「———足を強く打ったが、安静にしていれば大丈夫だそうだ」
パトリックが答えた。
「そう…ですか…」
ゲームとは異なるとはいえ階段落ち…
本当に、アレクシアの身にばかりゲームをなぞるように悪い事が起きる。
「…これで毒までなんて…」
「毒?」
思わず口に出してしまった言葉にパトリックが反応した。
「あ…いえ…」
「昨日調べていたのはやはりベルティーニ嬢に関係があるのか」
「何の話だ」
リアムの言葉に、パトリックの眼差しが険しくなる。
「…あの…アレクシアが記憶喪失になった時の症状と似た毒の事を…その、本で読んだように思いまして…」
ゲームの事は言えないけれど、毒草の事は隠す事ではない。
そう思い私は答えた。
「それで昨日リアム様に王宮図書館に入れてもらい、調べたら…ある毒草が、麻痺や高熱を引き起こして、量によっては記憶障害もあると…」
「何だと?!」
一同がざわめき立った。
「その毒草は…レスタンクール領でしか採れないそうです」
「レスタンクール?」
殿下が口を開いた。
「叔母上の…テオドーロの実家だな」
「テオドーロの?」
「…そういえば…テオドーロは子供の頃から植物に詳しかった」
「シアの元へ行く」
ガタン、と音を立ててパトリックが立ち上がった。
パトリックの馬車に乗せてもらい、私も殿下達と共にベルティーニ家へと向かった。
「まあ…皆さま…」
出迎えた夫人の顔色はとても悪くて…嫌な予感がする。
「シアの様子は?」
「それが…急に熱が上がって…意識もなくて…今お医者様を呼んでいる所なんです」
「何だと?!」
パトリックがアレクシアの部屋へと走りだした。
その後を追うように、私と殿下、リアムが長い廊下を歩いていく。
「…ステファーニ嬢は、シアがテオドーロに毒を飲まされたと思っているのか」
殿下が小さく呟いた。
「状況と…テオドーロ様のこれまでの言動からして、その可能性は高いです」
———私にはゲームという、彼らにはない知識があるから確信に近いものがあるけれど…確かに殿下にとっては理解しがたいだろう。
従弟であり義弟であり、そしてアレクシアの事が好きなテオドーロがそんな事をするなんて。
「何のために…」
「…おそらく、アレクシアの身体の自由を奪い、家に閉じ込めておきたいのでしょう」
「———ああ…」
殿下は深くため息をついた。
「それは…正直考えた事があるな。シアを囲ってしまえればどんなにいいかと」
考えたんだ…
殿下にもヤンデレ要素があったのか…
「…それで、テオドーロ様が毒を使ったのは確かだと思うのですが…証拠がありません」
そう、確信はあるけれど…証明できないのだ。
いきなりテオドーロを問い詰めた所で本当の事を言うとは思えない。
アレクシアに毒が使われた事が判ればいいけれど…せめてこの家に毒がある事が明らかになれば。
「レベッカ、これを」
何が解決策はないかと考えていると、リアムが何かを手渡してきた。
見るとそれは中に透明の液体が入った小さな小瓶だ。
「これは…」
「毒を検出する薬だ」
「———え?」
「毒の含まれた飲み物や食品にかけると紫色に変色する。昨日君が毒草について調べていたから必要かと思って家から持ってきた」
「…ありがとう…ございます…」
気が利くというか…使えるかもしれないけれど。
「…何故そんなものを持っているんだ」
若干顔を引きつらせながら殿下が尋ねた。
「昔、祖父が政敵に毒殺されそうになった事があって以来、我が家に常備しています。王家にもあるはずですが」
「…宰相家にもあるとは思わなかったぞ」
あ…思い出した。
これ、ゲームでも使ったアイテムだ。
毒である事を証明するもので…ゲームでは確か、殿下が王家に伝わる秘薬だと言っていたけれど…
でも、これがあればなんとかなるかもしれない。
私は小瓶を握りしめた。
翌日。
学園に行くとアレクシアが階段から落ちて怪我をしたと聞かされた。
———まさか…突き落とされた?
昨日の毒草の事といい、不安に駆られながらも午前の授業を受け、食堂へと向かった。
「レベッカ!」
声を掛けられ、見やると上の席からリアムが手招きをしていた。
その側には殿下とブリジット、それにパトリックの姿も見える。
…あの中に入るのは勇気がいるが…おそらくアレクシアの事だろう。
私は昼食を手に彼らの元へと向かった。
ブリジットはいつもの気の強そうな様子はなく、今にも泣きそうな顔をしていた。
殿下も明らかに顔色が悪い。
一体何が…
訝しがる私に、リアムが昨日アレクシアの身に起きた事を説明してくれた。
ブリジットを庇ったせいで階段から落ちてしまったと。
「…それで…アレクシアの容体は…」
「———足を強く打ったが、安静にしていれば大丈夫だそうだ」
パトリックが答えた。
「そう…ですか…」
ゲームとは異なるとはいえ階段落ち…
本当に、アレクシアの身にばかりゲームをなぞるように悪い事が起きる。
「…これで毒までなんて…」
「毒?」
思わず口に出してしまった言葉にパトリックが反応した。
「あ…いえ…」
「昨日調べていたのはやはりベルティーニ嬢に関係があるのか」
「何の話だ」
リアムの言葉に、パトリックの眼差しが険しくなる。
「…あの…アレクシアが記憶喪失になった時の症状と似た毒の事を…その、本で読んだように思いまして…」
ゲームの事は言えないけれど、毒草の事は隠す事ではない。
そう思い私は答えた。
「それで昨日リアム様に王宮図書館に入れてもらい、調べたら…ある毒草が、麻痺や高熱を引き起こして、量によっては記憶障害もあると…」
「何だと?!」
一同がざわめき立った。
「その毒草は…レスタンクール領でしか採れないそうです」
「レスタンクール?」
殿下が口を開いた。
「叔母上の…テオドーロの実家だな」
「テオドーロの?」
「…そういえば…テオドーロは子供の頃から植物に詳しかった」
「シアの元へ行く」
ガタン、と音を立ててパトリックが立ち上がった。
パトリックの馬車に乗せてもらい、私も殿下達と共にベルティーニ家へと向かった。
「まあ…皆さま…」
出迎えた夫人の顔色はとても悪くて…嫌な予感がする。
「シアの様子は?」
「それが…急に熱が上がって…意識もなくて…今お医者様を呼んでいる所なんです」
「何だと?!」
パトリックがアレクシアの部屋へと走りだした。
その後を追うように、私と殿下、リアムが長い廊下を歩いていく。
「…ステファーニ嬢は、シアがテオドーロに毒を飲まされたと思っているのか」
殿下が小さく呟いた。
「状況と…テオドーロ様のこれまでの言動からして、その可能性は高いです」
———私にはゲームという、彼らにはない知識があるから確信に近いものがあるけれど…確かに殿下にとっては理解しがたいだろう。
従弟であり義弟であり、そしてアレクシアの事が好きなテオドーロがそんな事をするなんて。
「何のために…」
「…おそらく、アレクシアの身体の自由を奪い、家に閉じ込めておきたいのでしょう」
「———ああ…」
殿下は深くため息をついた。
「それは…正直考えた事があるな。シアを囲ってしまえればどんなにいいかと」
考えたんだ…
殿下にもヤンデレ要素があったのか…
「…それで、テオドーロ様が毒を使ったのは確かだと思うのですが…証拠がありません」
そう、確信はあるけれど…証明できないのだ。
いきなりテオドーロを問い詰めた所で本当の事を言うとは思えない。
アレクシアに毒が使われた事が判ればいいけれど…せめてこの家に毒がある事が明らかになれば。
「レベッカ、これを」
何が解決策はないかと考えていると、リアムが何かを手渡してきた。
見るとそれは中に透明の液体が入った小さな小瓶だ。
「これは…」
「毒を検出する薬だ」
「———え?」
「毒の含まれた飲み物や食品にかけると紫色に変色する。昨日君が毒草について調べていたから必要かと思って家から持ってきた」
「…ありがとう…ございます…」
気が利くというか…使えるかもしれないけれど。
「…何故そんなものを持っているんだ」
若干顔を引きつらせながら殿下が尋ねた。
「昔、祖父が政敵に毒殺されそうになった事があって以来、我が家に常備しています。王家にもあるはずですが」
「…宰相家にもあるとは思わなかったぞ」
あ…思い出した。
これ、ゲームでも使ったアイテムだ。
毒である事を証明するもので…ゲームでは確か、殿下が王家に伝わる秘薬だと言っていたけれど…
でも、これがあればなんとかなるかもしれない。
私は小瓶を握りしめた。
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