53 / 59
第五章 令嬢は真実を知る
10
しおりを挟む
(レベッカ視点2)
強制力などないはずなのに、何故か攻略対象の一人、リアムとイベント的な事が起きている。
一体どういう事なのだ。
本来学年が違う生徒と会う事は少ないのに、図書館や職員室などでよく遭遇する。
それはゲームのイベントと同じものもあれば違うものもあったりする。
そして最初は顔を合わせるだけだったのが、やがて向こうから話しかけるようになってきたのだ。
ゲームのリアムはとにかく毒舌で言動にトゲがある。
けれど実際のリアムは気の利いた言葉はないけれどそこに悪意はなく、むしろ私への好意すら感じられる…朴訥な青年という印象だ。
そうしてある日、昼食に自分で作ったサンドウィッチをアレクシアと食べていたのを殿下とリアムにおすそ分けするというイベントが発生し、そのお礼にと何故か王宮に招かれ。
さらにその場で何故かリアムと二人きりで庭園を散策し…夜会のパートナーになる事になったのだ。
…いや、おかしくない?
ゲームでリアムのパートナーとなるのは、学年最後に開かれる卒業パーティーだ。
そこでネックレスと、初めての優しい言葉を貰うのだ。
それがどうして…まだ三分の一も経っていない、夏期休暇前の夜会で。
その夜会はとにかく大変だった。
リアムのエスコートにより注目された事も辛かったが…
それよりも大変だったのは、アレクシアがゲームのように、パトリックルートのライバル令嬢に扇子で打たれたのだ。
その時の殿下の反応なども気になったけれど…
見舞いに行ったアレクシアから聞かされた、隠しキャラの事、それから彼女が記憶喪失になった時の症状の話に…胸騒ぎがした。
その症状が、殿下のルートで起きる毒薬事件と似ているのだ。
事件で毒を盛られたのはアレクシアではないはずだが…ゲームに出てこないはずのアレクシアにゲームと同じようなイベントが起きる事や、隠しルートと関わりがある事など…無関係とは思えない。
私はその毒草について調べ出した。
けれど学園の図書館にも、王立図書館にも通ったけれど該当しそうなものはない。
夏期休暇が終わる少し前にアレクシアの元を訪ねると、彼女の身には更に色々な事が起きていた。
アレクシアにゲームでの毒の事を話すと顔を青ざめさせた。
…何か心当たりがあるようだ。
早く毒草が存在するのか見つけなければ。
決意も新たに王立図書館へ行くと、リアムと遭遇した。
彼とは夏期休暇中も何度か会う機会があって…まあ、色々とあったのだけれど。
「そんなものに興味があるのか」
私が手にしていた薬草学の本を見て、リアムは不思議そうな顔をした。
———前は会話がぎこちなかった彼だが、最近は普通に話すようになっていた。
「…ええ…探したい薬草があるのですが、見つからなくて」
さすがに毒草とは言えない。
「もっと詳しい本があればいいのですが…」
ここにある本はあらかた目を通してしまった。
「それなら王宮にある図書館だな。あそこは専門書が充実している」
「…でもそのような場所には入れませんし」
一介の学生が王宮の施設など、使えるはずもない。
「私が一緒なら閲覧許可を出せる」
「え?」
「父の仕事の手伝いでよく利用するから許可証を持っているんだ。私の助手という形にすれば入れる」
「本当ですか?!」
さすが宰相の息子。
そんなコネを持っていたとは。
「でも…リアム様にお付き合い頂くのも申し訳ないです…」
「———では、見返りに私の頼みを聞いてくれるか」
「頼み?」
「…以前もらった、あのパンに具を挟んだものを…また食べたいのだ」
以前…サンドウィッチの事?
「そんな事でよろしければ」
いくらでも作るけど。
「そうか」
そう言ってリアムは…嬉しそうに笑った。
その貴重な笑顔に思わずドキリとしてしまったけれど。
———何故かそのサンドウィッチを持って侯爵家の別邸に行く事になってしまった。
…いや…本来ならば入れない王宮の図書館に入れるんだから…友人のためと思えば…それくらい…
そうして今、私は王宮図書館に来ている。
目の前には見た事のない貴重な本がずらりと並んでいる。
目移りしてしまいそうになるのを堪えて、薬草関係の棚へ向かった。
王立図書館と同じ本が多いけれど…一冊の、古そうな本に目を止めた。
それは国内外の珍しい薬草を集めた本で、個人で研究したものをまとめたもののようだった。
閲覧席に座り、パラパラとめくっていく。
毒草のページは丁寧に…見逃さないように…
「…あった」
柑橘系の香りを持ち、麻痺や発熱の作用のある植物。
そして…過剰に摂取すると記憶障害が起きる事もある…
「———本当にあったんだ…」
「見つかったのか」
不意に背後から声が聞こえてびくりとする。
振り返るとリアムが本を覗き込んでいた。
「毒草?そんなものを調べていたのか」
「あ…ええと…」
しまった…見られてしまった。
「———稀少な植物でレスタンクール領にしか生えない、と」
リアムの言葉にはっとして本を見る。
「レスタンクール…って…」
聞いた事ないけれど…
「北部にある伯爵領だな。確か王妃様の姉君の嫁ぎ先だ」
さすが未来の宰相候補。
全ての領土を把握しているのだろうか。
あれ、王妃様の姉君って…
「そこの下の息子が君のクラスにいるだろう。ベルティーニ家の養子に入った」
「…テオドーロ様?」
アレクシアの弟の…
「え…待って…」
アレクシアは…部屋の水にレモンの香りがしていたと言わなかった?
まさか…
待って…思い出さなきゃ。
王子ルートで毒を与えた犯人は分からなかったけれど…その犯人じゃないと手に入らない場所に生えてるって…
ネットで…確か隠しルートでその謎が明かされると…
隠しルートにはアレクシアも出ていて…
アレクシアに固執するテオドーロ…
隠れキャラは…ヤンデレで…後は確か———シスコン…?
「そんな…まさか」
「レベッカ?」
青ざめた私をリアムが訝しげに見た。
強制力などないはずなのに、何故か攻略対象の一人、リアムとイベント的な事が起きている。
一体どういう事なのだ。
本来学年が違う生徒と会う事は少ないのに、図書館や職員室などでよく遭遇する。
それはゲームのイベントと同じものもあれば違うものもあったりする。
そして最初は顔を合わせるだけだったのが、やがて向こうから話しかけるようになってきたのだ。
ゲームのリアムはとにかく毒舌で言動にトゲがある。
けれど実際のリアムは気の利いた言葉はないけれどそこに悪意はなく、むしろ私への好意すら感じられる…朴訥な青年という印象だ。
そうしてある日、昼食に自分で作ったサンドウィッチをアレクシアと食べていたのを殿下とリアムにおすそ分けするというイベントが発生し、そのお礼にと何故か王宮に招かれ。
さらにその場で何故かリアムと二人きりで庭園を散策し…夜会のパートナーになる事になったのだ。
…いや、おかしくない?
ゲームでリアムのパートナーとなるのは、学年最後に開かれる卒業パーティーだ。
そこでネックレスと、初めての優しい言葉を貰うのだ。
それがどうして…まだ三分の一も経っていない、夏期休暇前の夜会で。
その夜会はとにかく大変だった。
リアムのエスコートにより注目された事も辛かったが…
それよりも大変だったのは、アレクシアがゲームのように、パトリックルートのライバル令嬢に扇子で打たれたのだ。
その時の殿下の反応なども気になったけれど…
見舞いに行ったアレクシアから聞かされた、隠しキャラの事、それから彼女が記憶喪失になった時の症状の話に…胸騒ぎがした。
その症状が、殿下のルートで起きる毒薬事件と似ているのだ。
事件で毒を盛られたのはアレクシアではないはずだが…ゲームに出てこないはずのアレクシアにゲームと同じようなイベントが起きる事や、隠しルートと関わりがある事など…無関係とは思えない。
私はその毒草について調べ出した。
けれど学園の図書館にも、王立図書館にも通ったけれど該当しそうなものはない。
夏期休暇が終わる少し前にアレクシアの元を訪ねると、彼女の身には更に色々な事が起きていた。
アレクシアにゲームでの毒の事を話すと顔を青ざめさせた。
…何か心当たりがあるようだ。
早く毒草が存在するのか見つけなければ。
決意も新たに王立図書館へ行くと、リアムと遭遇した。
彼とは夏期休暇中も何度か会う機会があって…まあ、色々とあったのだけれど。
「そんなものに興味があるのか」
私が手にしていた薬草学の本を見て、リアムは不思議そうな顔をした。
———前は会話がぎこちなかった彼だが、最近は普通に話すようになっていた。
「…ええ…探したい薬草があるのですが、見つからなくて」
さすがに毒草とは言えない。
「もっと詳しい本があればいいのですが…」
ここにある本はあらかた目を通してしまった。
「それなら王宮にある図書館だな。あそこは専門書が充実している」
「…でもそのような場所には入れませんし」
一介の学生が王宮の施設など、使えるはずもない。
「私が一緒なら閲覧許可を出せる」
「え?」
「父の仕事の手伝いでよく利用するから許可証を持っているんだ。私の助手という形にすれば入れる」
「本当ですか?!」
さすが宰相の息子。
そんなコネを持っていたとは。
「でも…リアム様にお付き合い頂くのも申し訳ないです…」
「———では、見返りに私の頼みを聞いてくれるか」
「頼み?」
「…以前もらった、あのパンに具を挟んだものを…また食べたいのだ」
以前…サンドウィッチの事?
「そんな事でよろしければ」
いくらでも作るけど。
「そうか」
そう言ってリアムは…嬉しそうに笑った。
その貴重な笑顔に思わずドキリとしてしまったけれど。
———何故かそのサンドウィッチを持って侯爵家の別邸に行く事になってしまった。
…いや…本来ならば入れない王宮の図書館に入れるんだから…友人のためと思えば…それくらい…
そうして今、私は王宮図書館に来ている。
目の前には見た事のない貴重な本がずらりと並んでいる。
目移りしてしまいそうになるのを堪えて、薬草関係の棚へ向かった。
王立図書館と同じ本が多いけれど…一冊の、古そうな本に目を止めた。
それは国内外の珍しい薬草を集めた本で、個人で研究したものをまとめたもののようだった。
閲覧席に座り、パラパラとめくっていく。
毒草のページは丁寧に…見逃さないように…
「…あった」
柑橘系の香りを持ち、麻痺や発熱の作用のある植物。
そして…過剰に摂取すると記憶障害が起きる事もある…
「———本当にあったんだ…」
「見つかったのか」
不意に背後から声が聞こえてびくりとする。
振り返るとリアムが本を覗き込んでいた。
「毒草?そんなものを調べていたのか」
「あ…ええと…」
しまった…見られてしまった。
「———稀少な植物でレスタンクール領にしか生えない、と」
リアムの言葉にはっとして本を見る。
「レスタンクール…って…」
聞いた事ないけれど…
「北部にある伯爵領だな。確か王妃様の姉君の嫁ぎ先だ」
さすが未来の宰相候補。
全ての領土を把握しているのだろうか。
あれ、王妃様の姉君って…
「そこの下の息子が君のクラスにいるだろう。ベルティーニ家の養子に入った」
「…テオドーロ様?」
アレクシアの弟の…
「え…待って…」
アレクシアは…部屋の水にレモンの香りがしていたと言わなかった?
まさか…
待って…思い出さなきゃ。
王子ルートで毒を与えた犯人は分からなかったけれど…その犯人じゃないと手に入らない場所に生えてるって…
ネットで…確か隠しルートでその謎が明かされると…
隠しルートにはアレクシアも出ていて…
アレクシアに固執するテオドーロ…
隠れキャラは…ヤンデレで…後は確か———シスコン…?
「そんな…まさか」
「レベッカ?」
青ざめた私をリアムが訝しげに見た。
86
お気に入りに追加
4,859
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。
傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。
そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。
自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。
絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。
次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる