52 / 59
第五章 令嬢は真実を知る
09
しおりを挟む
(レベッカ視点1)
何で———よりによって、このゲームなんだろう。
学園を見上げた瞬間、前世の記憶がなだれ込んできて…その情報量に混乱しながらも私は思った。
入学式の朝だった。
校舎に既視感を覚えて…そこから全てを思い出すのはあっという間だった。
———その前に何回かここに来ていたのに、どうしてその時は思い出さなかったのだろう。
日本で大学に通っていた。
勉強はそこそこに、ゲームやアニメなど趣味に勤しんでいた、いわゆるオタクだった。
乙女ゲームも幾つも遊んだのに…何で、よりによって攻略対象が皆面倒くさいゲームに転生しないとならないのだろう。
死ぬ間際に遊んでいたからだろうか。
三人目の王子ルートをクリアするのに徹夜してしまった。
寝不足のまま大学へ向かい…多分、車に轢かれたかしたのだろう。
ゲームの世界に転生する小説や漫画は好きで読んでいた。
だけどまさか自分の身に起きるなんて———しかも、ヒロインに転生するとは。
攻略したくない。
自分が置かれた立場を悟り、すぐ強く思った。
今は入学式の朝…ゲームスタートだ。
確かここでイベントがあったはず…そうだ、転ばされるんだ。
通路の端へ立ちしばらく様子を見ることにした。
すると一人の男子生徒が走ってきて、女子にぶつかりそうになっていた。
隣の男子が腕を引いたから転ばなかったけれど…すぐにその女子の前へ、二人の攻略対象———腹黒王子とドM子息が現れた。
四人は何か話していて…これはもしかして、イベント回避できたのでは?
私はそっと四人の脇を通り抜けようとした。
「…ヒロイン?」
ふいに聞こえた小さな呟きに、おもわず声の主、殿下達に囲まれていた女子を振り返った。
とても綺麗な子だった。
丁寧に編み込んだダークブロンドの髪、女の私でも庇護欲をそそられそうな、白くて華奢な身体。
キラキラしたサファイアブルーの瞳が私を見つめていた。
こんな綺麗な子…ゲームには出ていなかった気がするけど。
それに今、〝ヒロイン〟って言った?
そんな言葉はこの世界にはない。
それを知っているのは———私と同じ、転生者?
彼女は入学式へ移動する直前に教室へ入ってきた。
同じクラスなのか。
一緒にいる、彼女と同じ色彩をもった男子も…モブとは思えないくらい、とても顔が整っている。
美形二人の登場にクラスが一瞬騒ついた。
「誰…?」
「ほら…留年された方よ」
「留年?」
側から聞こえてきた言葉に思わず聞き返した。
「あの方はアレクシア・ベルティーニ様。王子様達の従妹で生徒会長の婚約者なの」
話をしていた女子の一人が教えてくれた。
「本当は二年生だけれど、病気で記憶喪失になってしまったんですって」
「まあ、かわいそう…」
「一緒にいるのはきっと弟のテオドーロ様ね」
「お綺麗な姉弟だわ…」
生徒会長…って攻略対象の?
その婚約者———ゲームには出てこなかったはずだけれど。
記憶喪失?留年?
どういう事?
ゲームとの相違に戸惑ったまま入学式が始まった。
…入試を受けた時に思い出していれば手を抜いたのに。
最高得点を出してしまったらしく、代表で挨拶をする事になっていた。
これはゲームにもあるくだりで…攻略対象の生徒会長に存在を認識されるのだ。
壇上に立ち、挨拶を読み上げ…最後に私は私が座っていた席を見た。
その背後にはアレクシアが座っている。
私と視線が合うと、びっくりしたように肩がピクンと震え、青い瞳が大きく見開く。
その猫みたいな仕草に思わず笑みがこぼれた。
その日の予定が全て終わると、教室に生徒会長で攻略対象のパトリックが現れた。
仲睦ましげにアレクシアと会話をしている。
…この二人って、口もきかないほど仲が悪いんじゃなかったっけ。
気になるので彼らの後を追って教室を出ると、馬車止めの所で殿下達と遭遇していた。
アレクシアの肩を抱くパトリックと、顔を赤らめて彼を見上げるアレクシア。
…ラブラブじゃないの。
何で?どういう事?!
翌日。
ゲームとは関わりたくないけれど、どうしても気になるので私はアレクシアに接触した。
やはり彼女も転生者で、私同様、昨日前世やゲームの事を思い出したという。
そして記憶喪失になり原因を忘れたため、今はパトリックと仲が良いのだと。
良かった…ゲームの強制力はないんだ。
これでパトリックはアレクシアがしっかり捕まえて、他の二人と接触しなければゲームは回避できる。
せっかくだから前世で好きな声優がやっていた担任のアラン先生を狙うのはどうだろう。
声がゲームと同じでビックリしたのよね。
同じ前世持ちで美人な友達ができて、ゲーム関係なく恋をしたりして学園生活を楽しめる!
———そんな私の計画は、けれどあっさり崩れていった。
何で———よりによって、このゲームなんだろう。
学園を見上げた瞬間、前世の記憶がなだれ込んできて…その情報量に混乱しながらも私は思った。
入学式の朝だった。
校舎に既視感を覚えて…そこから全てを思い出すのはあっという間だった。
———その前に何回かここに来ていたのに、どうしてその時は思い出さなかったのだろう。
日本で大学に通っていた。
勉強はそこそこに、ゲームやアニメなど趣味に勤しんでいた、いわゆるオタクだった。
乙女ゲームも幾つも遊んだのに…何で、よりによって攻略対象が皆面倒くさいゲームに転生しないとならないのだろう。
死ぬ間際に遊んでいたからだろうか。
三人目の王子ルートをクリアするのに徹夜してしまった。
寝不足のまま大学へ向かい…多分、車に轢かれたかしたのだろう。
ゲームの世界に転生する小説や漫画は好きで読んでいた。
だけどまさか自分の身に起きるなんて———しかも、ヒロインに転生するとは。
攻略したくない。
自分が置かれた立場を悟り、すぐ強く思った。
今は入学式の朝…ゲームスタートだ。
確かここでイベントがあったはず…そうだ、転ばされるんだ。
通路の端へ立ちしばらく様子を見ることにした。
すると一人の男子生徒が走ってきて、女子にぶつかりそうになっていた。
隣の男子が腕を引いたから転ばなかったけれど…すぐにその女子の前へ、二人の攻略対象———腹黒王子とドM子息が現れた。
四人は何か話していて…これはもしかして、イベント回避できたのでは?
私はそっと四人の脇を通り抜けようとした。
「…ヒロイン?」
ふいに聞こえた小さな呟きに、おもわず声の主、殿下達に囲まれていた女子を振り返った。
とても綺麗な子だった。
丁寧に編み込んだダークブロンドの髪、女の私でも庇護欲をそそられそうな、白くて華奢な身体。
キラキラしたサファイアブルーの瞳が私を見つめていた。
こんな綺麗な子…ゲームには出ていなかった気がするけど。
それに今、〝ヒロイン〟って言った?
そんな言葉はこの世界にはない。
それを知っているのは———私と同じ、転生者?
彼女は入学式へ移動する直前に教室へ入ってきた。
同じクラスなのか。
一緒にいる、彼女と同じ色彩をもった男子も…モブとは思えないくらい、とても顔が整っている。
美形二人の登場にクラスが一瞬騒ついた。
「誰…?」
「ほら…留年された方よ」
「留年?」
側から聞こえてきた言葉に思わず聞き返した。
「あの方はアレクシア・ベルティーニ様。王子様達の従妹で生徒会長の婚約者なの」
話をしていた女子の一人が教えてくれた。
「本当は二年生だけれど、病気で記憶喪失になってしまったんですって」
「まあ、かわいそう…」
「一緒にいるのはきっと弟のテオドーロ様ね」
「お綺麗な姉弟だわ…」
生徒会長…って攻略対象の?
その婚約者———ゲームには出てこなかったはずだけれど。
記憶喪失?留年?
どういう事?
ゲームとの相違に戸惑ったまま入学式が始まった。
…入試を受けた時に思い出していれば手を抜いたのに。
最高得点を出してしまったらしく、代表で挨拶をする事になっていた。
これはゲームにもあるくだりで…攻略対象の生徒会長に存在を認識されるのだ。
壇上に立ち、挨拶を読み上げ…最後に私は私が座っていた席を見た。
その背後にはアレクシアが座っている。
私と視線が合うと、びっくりしたように肩がピクンと震え、青い瞳が大きく見開く。
その猫みたいな仕草に思わず笑みがこぼれた。
その日の予定が全て終わると、教室に生徒会長で攻略対象のパトリックが現れた。
仲睦ましげにアレクシアと会話をしている。
…この二人って、口もきかないほど仲が悪いんじゃなかったっけ。
気になるので彼らの後を追って教室を出ると、馬車止めの所で殿下達と遭遇していた。
アレクシアの肩を抱くパトリックと、顔を赤らめて彼を見上げるアレクシア。
…ラブラブじゃないの。
何で?どういう事?!
翌日。
ゲームとは関わりたくないけれど、どうしても気になるので私はアレクシアに接触した。
やはり彼女も転生者で、私同様、昨日前世やゲームの事を思い出したという。
そして記憶喪失になり原因を忘れたため、今はパトリックと仲が良いのだと。
良かった…ゲームの強制力はないんだ。
これでパトリックはアレクシアがしっかり捕まえて、他の二人と接触しなければゲームは回避できる。
せっかくだから前世で好きな声優がやっていた担任のアラン先生を狙うのはどうだろう。
声がゲームと同じでビックリしたのよね。
同じ前世持ちで美人な友達ができて、ゲーム関係なく恋をしたりして学園生活を楽しめる!
———そんな私の計画は、けれどあっさり崩れていった。
109
お気に入りに追加
4,903
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる