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第五章 令嬢は真実を知る
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翌日の放課後。
私は学園の図書館へと向かった。
レベッカに任せ放しではいけないと思ったのだ。
彼女はもうこの図書館を調べたと言っていたけれど、別の目で見れば何か発見があるかもしれないし。
「とはいっても…」
ずらりと並んだ本を前に、途方に暮れてしまう。
…どうやって調べたらいいのかしら?
薬草の本ってどれ?
それらしき本はあったけれど、どうやって調べればいいんだろう…これ全部読むの?
———前世ならばスマホで簡単に調べられたんだろうけれど…
ため息をついて、私は本を一冊手に取ると机に腰を下ろした。
「…もうこんな時間」
ようやく一冊を斜め読みし終え、壁の時計を見上げた。
一人で図書館に行くと言ったら、あまり長く滞在しないよう過保護なテオドーロに言われたのだ。
そのテオドーロは今、男子だけが参加する剣の授業に出ている。
授業が終わるまでに教室に戻ると約束させられたのだ。
私は本を棚に戻すと図書館を出た。
学園は単独の建物がいくつもあり、図書館も独立している。
両脇に綺麗な花が飾られた通路を通り、校舎へと戻った。
一年生の教室は三階にある。
二、三年生はこの時間授業はなく、ほとんどの生徒は帰っただろう。
人気のない階段を昇り、三階へ着いた。
「アレクシアさん」
教室へ進もうとすると声を掛けられた。
振り返り———私は固まった。
そこに立っていたのは殿下の婚約者、ブリジットだった。
…一番会いたくなかった人に…しかも人気のない場所で…
これは…とてもまずいのでは。
「あなたにお話がありますの」
コツン、と靴音が響いた。
「お話というより、お願いね」
口角を上げた口元には笑みが浮かんでいるけれど…その目は笑っていない。
思わず後ずさりそうになる。
『回避する方法はとにかく一人きりで階段に近づかない事ね』
レベッカの言葉が頭によぎる。
…階段は今、私とブリジットの間にあった。
このまま後ろに下がれば…でも…廊下の先にも別の階段があるのだ。
「…お願いとは…」
「レオポルド様に近づかないで頂きたいの」
コツン、とまた一歩近づく。
「いえ、それだけではなくて。顔も見せないで頂きたいわ」
「…そんな事を言われても…」
私から殿下に近づいた事はない。
同じ学園にいるのだし、親戚として接する機会もあるだろう。
「あなたが邪魔なの」
ブリジットの口元から笑みが消えた。
「レオポルド様はいつもあなたを目で追っているわ。食堂に行けばあなたの姿を探して、いなければ気もそぞろで。あなたが婚約者と一緒にいるのを見る目は明らかに嫉妬しているわ。私なんて…いてもいなくても同じなのに」
最後の言葉は震えていた。
悲しみと、怒りと…様々な感情が入り混じった、悲痛な声。
マルゲリットは一方的な片思いだった。
けれどブリジットは…婚約者だ。
誰よりも側にいられる権利を持つのに…相手にされないなんて。
同情すると共に、罪悪感を感じた。
彼女に…そしてパトリックに。
きっと彼にも同じ気持ちを味合わせていたのだろう。
私と殿下の〝誓い〟のせいで———
「…私は、殿下の事をお慕いしてはいません」
ブリジットに向かって私は言った。
「あなたが慕っていなくとも殿下は違うのよ」
「では…殿下に仰ってください」
「言ったわ、何度も何度も」
ブリジットの顔は辛さを堪えるように…それでも美しさと強さを失っていなかった。
…そうか、彼女は戦ってきたのか。
自分へと心を向ける事のない殿下から、逃げる事なく。
———強い人なんだ。
彼女の顔を見てそう思った。
「レオポルド様の心が私になくとも、結婚するのは私だからと言い聞かせてきたわ。けれどあなたが記憶をなくしてから、レオポルド様の執着が強くなっていって…。もう耐えられないの」
誰かを好きになる気持ちは…どうやって生まれて、消えるのだろう。
報われない恋と分かっていても…それでも好きになる事をやめられないのは。
どうすればいいのだろう。
「———来年、パトリックが卒業したら…すぐに結婚する予定です」
私は言った。
…殿下の気持ちを消す事は私にも出来ないけれど。
「そうすれば少しは殿下も…」
「結婚?」
突然の声にはっとして———私とブリジットは声のした方を見た。
私は学園の図書館へと向かった。
レベッカに任せ放しではいけないと思ったのだ。
彼女はもうこの図書館を調べたと言っていたけれど、別の目で見れば何か発見があるかもしれないし。
「とはいっても…」
ずらりと並んだ本を前に、途方に暮れてしまう。
…どうやって調べたらいいのかしら?
薬草の本ってどれ?
それらしき本はあったけれど、どうやって調べればいいんだろう…これ全部読むの?
———前世ならばスマホで簡単に調べられたんだろうけれど…
ため息をついて、私は本を一冊手に取ると机に腰を下ろした。
「…もうこんな時間」
ようやく一冊を斜め読みし終え、壁の時計を見上げた。
一人で図書館に行くと言ったら、あまり長く滞在しないよう過保護なテオドーロに言われたのだ。
そのテオドーロは今、男子だけが参加する剣の授業に出ている。
授業が終わるまでに教室に戻ると約束させられたのだ。
私は本を棚に戻すと図書館を出た。
学園は単独の建物がいくつもあり、図書館も独立している。
両脇に綺麗な花が飾られた通路を通り、校舎へと戻った。
一年生の教室は三階にある。
二、三年生はこの時間授業はなく、ほとんどの生徒は帰っただろう。
人気のない階段を昇り、三階へ着いた。
「アレクシアさん」
教室へ進もうとすると声を掛けられた。
振り返り———私は固まった。
そこに立っていたのは殿下の婚約者、ブリジットだった。
…一番会いたくなかった人に…しかも人気のない場所で…
これは…とてもまずいのでは。
「あなたにお話がありますの」
コツン、と靴音が響いた。
「お話というより、お願いね」
口角を上げた口元には笑みが浮かんでいるけれど…その目は笑っていない。
思わず後ずさりそうになる。
『回避する方法はとにかく一人きりで階段に近づかない事ね』
レベッカの言葉が頭によぎる。
…階段は今、私とブリジットの間にあった。
このまま後ろに下がれば…でも…廊下の先にも別の階段があるのだ。
「…お願いとは…」
「レオポルド様に近づかないで頂きたいの」
コツン、とまた一歩近づく。
「いえ、それだけではなくて。顔も見せないで頂きたいわ」
「…そんな事を言われても…」
私から殿下に近づいた事はない。
同じ学園にいるのだし、親戚として接する機会もあるだろう。
「あなたが邪魔なの」
ブリジットの口元から笑みが消えた。
「レオポルド様はいつもあなたを目で追っているわ。食堂に行けばあなたの姿を探して、いなければ気もそぞろで。あなたが婚約者と一緒にいるのを見る目は明らかに嫉妬しているわ。私なんて…いてもいなくても同じなのに」
最後の言葉は震えていた。
悲しみと、怒りと…様々な感情が入り混じった、悲痛な声。
マルゲリットは一方的な片思いだった。
けれどブリジットは…婚約者だ。
誰よりも側にいられる権利を持つのに…相手にされないなんて。
同情すると共に、罪悪感を感じた。
彼女に…そしてパトリックに。
きっと彼にも同じ気持ちを味合わせていたのだろう。
私と殿下の〝誓い〟のせいで———
「…私は、殿下の事をお慕いしてはいません」
ブリジットに向かって私は言った。
「あなたが慕っていなくとも殿下は違うのよ」
「では…殿下に仰ってください」
「言ったわ、何度も何度も」
ブリジットの顔は辛さを堪えるように…それでも美しさと強さを失っていなかった。
…そうか、彼女は戦ってきたのか。
自分へと心を向ける事のない殿下から、逃げる事なく。
———強い人なんだ。
彼女の顔を見てそう思った。
「レオポルド様の心が私になくとも、結婚するのは私だからと言い聞かせてきたわ。けれどあなたが記憶をなくしてから、レオポルド様の執着が強くなっていって…。もう耐えられないの」
誰かを好きになる気持ちは…どうやって生まれて、消えるのだろう。
報われない恋と分かっていても…それでも好きになる事をやめられないのは。
どうすればいいのだろう。
「———来年、パトリックが卒業したら…すぐに結婚する予定です」
私は言った。
…殿下の気持ちを消す事は私にも出来ないけれど。
「そうすれば少しは殿下も…」
「結婚?」
突然の声にはっとして———私とブリジットは声のした方を見た。
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