35 / 59
第四章 令嬢は困惑する
01
しおりを挟む
『———。王子ルートやってる?』
『まだ。もう一度パトリックを攻略してるの』
『えー何で?パトリック気に入ったの?』
『ん…駆け落ち以外のルートないのかなあと思って』
『友情エンドとか』
『そういうのになっちゃうのかな』
『だってどうしても婚約者と別れられないんでしょ』
『…ねえ、何でパトリックの婚約者ってゲームに出てこないの?仲が悪いにしても、それだけ切れない存在だったら出てきてもおかしくないのに』
『あ、でも出てくるよパトリックの婚約者』
『ホント?どこで?』
『パトリックルートじゃなくて、隠しキャラのルートだけど』
『隠しキャラ?あのヤバイって言ってた?』
『そうそう』
『それにどうしてパトリックの婚約者が出てくるの?』
『その隠しルートっていうのがね———』
「あ…」
夢の途中で目が覚めた。
…今のは…そうだ、前世での友人との会話だ。
ゲームに…私が出ていた?
どうしてあの会話を今まで忘れていたのだろう。
私が出てきたという隠しキャラとは一体…?
夢の会話の続きは確かにあったはずなのに…思い出せない。
———すごく大事な事のような気がするのだけれど…
「っ…」
起き上がろうとすると顔に痛みが走る。
額に手を当てると、まだ熱があるようだった。
三日前の夜会でマルゲリットに扇子で叩かれ、その場で意識を失って倒れた私は熱を出した。
記憶をなくした時のように何日も寝込む事はなく、翌朝には目覚めたのだが熱は高く学園は休んでいる。
あと数日で夏期休暇に入るから…おそらく私が学園に行けるのは休暇明けになるだろう。
どのみち熱が下がっても、顔に痣が残っている間は家族が私を外に出してくれそうにもない。
あの時、確かに記憶を取り戻したと思った。
けれど…目が覚めると再び忘れてしまったようだった。
殿下の事をレオと呼んだ事は覚えている。
———昔はそう呼んでいた気がする。
だけど殿下とどう過ごしていたか…何があったのか、それは思い出せなかった。
「シア」
テオドーロが顔を覗かせた。
「起きてたの」
「今目を覚ました所よ。学園に行くの?」
「ああ」
テオドーロはベッドの縁に腰を下ろすと私の額に手を当てた。
「まだ高いね」
「でも昨日より気分はいいわ」
「…ごめん、僕が離れたから…」
「もう。何度も言わないの」
事あるごとにテオドーロは夜会の時の事を謝罪する。
あの時私が一人にならなければ…確かにマルゲリットに手を出される事はなかっただろう。
けれど。
「あの時じゃなくてもいつかはマルゲリット様は私の所に来たわ。…大勢の目の前で良かったのよ」
もしもあれが人目につかない場所で起きていたら…公爵令嬢が伯爵令嬢に手を上げた事など、うやむやにされていたかもしれない。
マルゲリットがどうなるのかは、まだ決まっていないらしい。
私はしばらく停学でいいと思うのだけれど、パトリックや殿下が激怒しているのだ。
彼女はまだ王宮の牢に入れられたままだ。
「だけどシアは怪我をしてしまった」
「…仕方がないわ」
「僕が…あの時シアを一人にしなければ…」
テオドーロは私の頬に手を触れた。
痛みの残るそこは、内出血で青黒くなっている。
「…しばらくすれば消えるから」
お医者様も跡は残らないと言っていた。
多分夏期休暇明けには消えているだろう。
「だけど…」
「本当に、もう大丈夫だから」
テオドーロの目を見て私は笑みを浮かべた。
「早く学園に行かないと。もう時間じゃないの?」
「…それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。…そうだテオ」
「何?」
「レベッカに、会いに来てって伝えてくれる?」
彼女には色々と聞きたい事がある。
「分かった」
テオドーロは私の頬に軽くキスを落とすと部屋を出て行った。
『まだ。もう一度パトリックを攻略してるの』
『えー何で?パトリック気に入ったの?』
『ん…駆け落ち以外のルートないのかなあと思って』
『友情エンドとか』
『そういうのになっちゃうのかな』
『だってどうしても婚約者と別れられないんでしょ』
『…ねえ、何でパトリックの婚約者ってゲームに出てこないの?仲が悪いにしても、それだけ切れない存在だったら出てきてもおかしくないのに』
『あ、でも出てくるよパトリックの婚約者』
『ホント?どこで?』
『パトリックルートじゃなくて、隠しキャラのルートだけど』
『隠しキャラ?あのヤバイって言ってた?』
『そうそう』
『それにどうしてパトリックの婚約者が出てくるの?』
『その隠しルートっていうのがね———』
「あ…」
夢の途中で目が覚めた。
…今のは…そうだ、前世での友人との会話だ。
ゲームに…私が出ていた?
どうしてあの会話を今まで忘れていたのだろう。
私が出てきたという隠しキャラとは一体…?
夢の会話の続きは確かにあったはずなのに…思い出せない。
———すごく大事な事のような気がするのだけれど…
「っ…」
起き上がろうとすると顔に痛みが走る。
額に手を当てると、まだ熱があるようだった。
三日前の夜会でマルゲリットに扇子で叩かれ、その場で意識を失って倒れた私は熱を出した。
記憶をなくした時のように何日も寝込む事はなく、翌朝には目覚めたのだが熱は高く学園は休んでいる。
あと数日で夏期休暇に入るから…おそらく私が学園に行けるのは休暇明けになるだろう。
どのみち熱が下がっても、顔に痣が残っている間は家族が私を外に出してくれそうにもない。
あの時、確かに記憶を取り戻したと思った。
けれど…目が覚めると再び忘れてしまったようだった。
殿下の事をレオと呼んだ事は覚えている。
———昔はそう呼んでいた気がする。
だけど殿下とどう過ごしていたか…何があったのか、それは思い出せなかった。
「シア」
テオドーロが顔を覗かせた。
「起きてたの」
「今目を覚ました所よ。学園に行くの?」
「ああ」
テオドーロはベッドの縁に腰を下ろすと私の額に手を当てた。
「まだ高いね」
「でも昨日より気分はいいわ」
「…ごめん、僕が離れたから…」
「もう。何度も言わないの」
事あるごとにテオドーロは夜会の時の事を謝罪する。
あの時私が一人にならなければ…確かにマルゲリットに手を出される事はなかっただろう。
けれど。
「あの時じゃなくてもいつかはマルゲリット様は私の所に来たわ。…大勢の目の前で良かったのよ」
もしもあれが人目につかない場所で起きていたら…公爵令嬢が伯爵令嬢に手を上げた事など、うやむやにされていたかもしれない。
マルゲリットがどうなるのかは、まだ決まっていないらしい。
私はしばらく停学でいいと思うのだけれど、パトリックや殿下が激怒しているのだ。
彼女はまだ王宮の牢に入れられたままだ。
「だけどシアは怪我をしてしまった」
「…仕方がないわ」
「僕が…あの時シアを一人にしなければ…」
テオドーロは私の頬に手を触れた。
痛みの残るそこは、内出血で青黒くなっている。
「…しばらくすれば消えるから」
お医者様も跡は残らないと言っていた。
多分夏期休暇明けには消えているだろう。
「だけど…」
「本当に、もう大丈夫だから」
テオドーロの目を見て私は笑みを浮かべた。
「早く学園に行かないと。もう時間じゃないの?」
「…それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。…そうだテオ」
「何?」
「レベッカに、会いに来てって伝えてくれる?」
彼女には色々と聞きたい事がある。
「分かった」
テオドーロは私の頬に軽くキスを落とすと部屋を出て行った。
93
お気に入りに追加
4,902
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる