記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子

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第四章 令嬢は困惑する

01

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『———。王子ルートやってる?』
『まだ。もう一度パトリックを攻略してるの』
『えー何で?パトリック気に入ったの?』
『ん…駆け落ち以外のルートないのかなあと思って』

『友情エンドとか』
『そういうのになっちゃうのかな』
『だってどうしても婚約者と別れられないんでしょ』
『…ねえ、何でパトリックの婚約者ってゲームに出てこないの?仲が悪いにしても、それだけ切れない存在だったら出てきてもおかしくないのに』

『あ、でも出てくるよパトリックの婚約者』
『ホント?どこで?』
『パトリックルートじゃなくて、隠しキャラのルートだけど』

『隠しキャラ?あのヤバイって言ってた?』
『そうそう』
『それにどうしてパトリックの婚約者が出てくるの?』
『その隠しルートっていうのがね———』




「あ…」

夢の途中で目が覚めた。
…今のは…そうだ、前世での友人との会話だ。

ゲームに…私が出ていた?


どうしてあの会話を今まで忘れていたのだろう。
私が出てきたという隠しキャラとは一体…?
夢の会話の続きは確かにあったはずなのに…思い出せない。
———すごく大事な事のような気がするのだけれど…


「っ…」
起き上がろうとすると顔に痛みが走る。
額に手を当てると、まだ熱があるようだった。


三日前の夜会でマルゲリットに扇子で叩かれ、その場で意識を失って倒れた私は熱を出した。
記憶をなくした時のように何日も寝込む事はなく、翌朝には目覚めたのだが熱は高く学園は休んでいる。
あと数日で夏期休暇に入るから…おそらく私が学園に行けるのは休暇明けになるだろう。
どのみち熱が下がっても、顔に痣が残っている間は家族が私を外に出してくれそうにもない。



あの時、確かに記憶を取り戻したと思った。
けれど…目が覚めると再び忘れてしまったようだった。

殿下の事をレオと呼んだ事は覚えている。
———昔はそう呼んでいた気がする。
だけど殿下とどう過ごしていたか…何があったのか、それは思い出せなかった。


「シア」

テオドーロが顔を覗かせた。
「起きてたの」
「今目を覚ました所よ。学園に行くの?」
「ああ」
テオドーロはベッドの縁に腰を下ろすと私の額に手を当てた。

「まだ高いね」
「でも昨日より気分はいいわ」
「…ごめん、僕が離れたから…」
「もう。何度も言わないの」

事あるごとにテオドーロは夜会の時の事を謝罪する。
あの時私が一人にならなければ…確かにマルゲリットに手を出される事はなかっただろう。
けれど。

「あの時じゃなくてもいつかはマルゲリット様は私の所に来たわ。…大勢の目の前で良かったのよ」
もしもあれが人目につかない場所で起きていたら…公爵令嬢が伯爵令嬢に手を上げた事など、うやむやにされていたかもしれない。

マルゲリットがどうなるのかは、まだ決まっていないらしい。
私はしばらく停学でいいと思うのだけれど、パトリックや殿下が激怒しているのだ。
彼女はまだ王宮の牢に入れられたままだ。



「だけどシアは怪我をしてしまった」
「…仕方がないわ」
「僕が…あの時シアを一人にしなければ…」
テオドーロは私の頬に手を触れた。
痛みの残るそこは、内出血で青黒くなっている。

「…しばらくすれば消えるから」
お医者様も跡は残らないと言っていた。
多分夏期休暇明けには消えているだろう。
「だけど…」
「本当に、もう大丈夫だから」
テオドーロの目を見て私は笑みを浮かべた。
「早く学園に行かないと。もう時間じゃないの?」

「…それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。…そうだテオ」
「何?」
「レベッカに、会いに来てって伝えてくれる?」
彼女には色々と聞きたい事がある。

「分かった」
テオドーロは私の頬に軽くキスを落とすと部屋を出て行った。
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