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第三章 令嬢はゲームに巻き込まれる
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「どう?」
くるりと回ると、ドレープをたっぷり入れた裾が大きく広がった。
「…綺麗だけど…」
「けど?」
「———そのドレスを用意したのがあいつだってのがムカつく」
テオドーロは不快そうに眉をひそめた。
今日は夜会の日。
私はパトリックから贈られたドレスに身を包んでいた。
レースをふんだんに使ったクリーム色のドレスは花のように愛らしい。
イヤリングとネックレスはエメラルドとダイヤを組み合わせたもの。
アップにした髪にはドレスと同じ色の花飾りを散らした。
普段も前世の記憶からすればドレスのような装いだけれど、やはりパーティー用の盛装は違う。
コルセットは苦しいし、背中が大きく開いているのは少し恥ずかしいけれど…お姫様のような格好に気分が高揚してしまう。
本来ならばパートナーであるパトリックに迎えに来てもらうものなのだが、生徒会の仕事があるので先に会場に行かなければならず、学校へはテオドーロと一緒に行く事になった。
「このまま僕がエスコートしようか」
馬車に揺られながらテオドーロが言った。
「ああでもそれならアクセサリーを変えないと。あいつの目の色なんて駄目だ」
「…そんな事言ってないで。ダンスの相手は決まったの?」
「うん、姉上と踊る」
「私以外でよ」
「———適当に決めるよ」
窓の外に視線を移して、テオドーロはため息をついた。
夜会は授業の一環なので、少なくとも二人以上と踊らないとならない決まりだ。
その相手を選ぶのも勉強なのだ。
「テオ…誰か気になる人はいないの?」
入学して三ヶ月。
それなりにテオドーロは女生徒達と交流しているけれど、まだ特定の親しい相手はいないようだった。
「いる訳ないよ」
窓を見つめたままそう答えて、テオドーロは私へと向いた。
「それよりも姉上、ダンスの時足を踏まないようにね」
「う…それは…」
「その靴で踏まれると結構痛いから」
「…ごめんなさい」
記憶をなくして、ダンスも忘れてしまった。
基本的な姿勢といったものは身体が覚えていたけれど…ステップなどは忘れてしまっており、踊るのはままならなかった。
体力が回復してから練習をしていたけれど、家を出る前にこのドレスを着てテオドーロを相手に最後の練習をしたらいつもより長くて重いドレスに苦戦して、何度か相手の足を踏んでしまった。
その時のテオドーロの顔…よほど痛かったのだと思う。
「あいつの足は思い切り踏んでいいけどね」
そう言ってテオドーロはくすりと笑った。
「シア」
馬車の扉が開くと、パトリックが立っていた。
「待っていたよ」
そう言って手を差し出す。
私を馬車から降ろすと、パトリックは私の姿をつくづくと眺めた。
「とても綺麗だね、シア。よく似合っている」
「…ありがとうございます。リックも…とても素敵です」
黒の夜会服に身を包んだパトリックは、いつもより髪を丁寧に撫でつけていて大人びて見える。
タイを留めるサファイアのブローチは、ネックレスのお礼をするよう母に言われて私が贈ったものだ。
「生徒会長はお忙しいのでしょう。わざわざ出迎えなくても大丈夫ですよ」
馬車から降りたテオドーロが冷めた口調と眼差しでそう言った。
「今日は後は挨拶をするだけだ。シアは俺が付き添うから、君は君と話をしたいと思っている子達の所に行ってくればいい」
テオドーロにそう返すと、パトリックは私に腕を差し出した。
その腕に手を添えると、私達は会場に向かって歩き出した。
くるりと回ると、ドレープをたっぷり入れた裾が大きく広がった。
「…綺麗だけど…」
「けど?」
「———そのドレスを用意したのがあいつだってのがムカつく」
テオドーロは不快そうに眉をひそめた。
今日は夜会の日。
私はパトリックから贈られたドレスに身を包んでいた。
レースをふんだんに使ったクリーム色のドレスは花のように愛らしい。
イヤリングとネックレスはエメラルドとダイヤを組み合わせたもの。
アップにした髪にはドレスと同じ色の花飾りを散らした。
普段も前世の記憶からすればドレスのような装いだけれど、やはりパーティー用の盛装は違う。
コルセットは苦しいし、背中が大きく開いているのは少し恥ずかしいけれど…お姫様のような格好に気分が高揚してしまう。
本来ならばパートナーであるパトリックに迎えに来てもらうものなのだが、生徒会の仕事があるので先に会場に行かなければならず、学校へはテオドーロと一緒に行く事になった。
「このまま僕がエスコートしようか」
馬車に揺られながらテオドーロが言った。
「ああでもそれならアクセサリーを変えないと。あいつの目の色なんて駄目だ」
「…そんな事言ってないで。ダンスの相手は決まったの?」
「うん、姉上と踊る」
「私以外でよ」
「———適当に決めるよ」
窓の外に視線を移して、テオドーロはため息をついた。
夜会は授業の一環なので、少なくとも二人以上と踊らないとならない決まりだ。
その相手を選ぶのも勉強なのだ。
「テオ…誰か気になる人はいないの?」
入学して三ヶ月。
それなりにテオドーロは女生徒達と交流しているけれど、まだ特定の親しい相手はいないようだった。
「いる訳ないよ」
窓を見つめたままそう答えて、テオドーロは私へと向いた。
「それよりも姉上、ダンスの時足を踏まないようにね」
「う…それは…」
「その靴で踏まれると結構痛いから」
「…ごめんなさい」
記憶をなくして、ダンスも忘れてしまった。
基本的な姿勢といったものは身体が覚えていたけれど…ステップなどは忘れてしまっており、踊るのはままならなかった。
体力が回復してから練習をしていたけれど、家を出る前にこのドレスを着てテオドーロを相手に最後の練習をしたらいつもより長くて重いドレスに苦戦して、何度か相手の足を踏んでしまった。
その時のテオドーロの顔…よほど痛かったのだと思う。
「あいつの足は思い切り踏んでいいけどね」
そう言ってテオドーロはくすりと笑った。
「シア」
馬車の扉が開くと、パトリックが立っていた。
「待っていたよ」
そう言って手を差し出す。
私を馬車から降ろすと、パトリックは私の姿をつくづくと眺めた。
「とても綺麗だね、シア。よく似合っている」
「…ありがとうございます。リックも…とても素敵です」
黒の夜会服に身を包んだパトリックは、いつもより髪を丁寧に撫でつけていて大人びて見える。
タイを留めるサファイアのブローチは、ネックレスのお礼をするよう母に言われて私が贈ったものだ。
「生徒会長はお忙しいのでしょう。わざわざ出迎えなくても大丈夫ですよ」
馬車から降りたテオドーロが冷めた口調と眼差しでそう言った。
「今日は後は挨拶をするだけだ。シアは俺が付き添うから、君は君と話をしたいと思っている子達の所に行ってくればいい」
テオドーロにそう返すと、パトリックは私に腕を差し出した。
その腕に手を添えると、私達は会場に向かって歩き出した。
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