記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子

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第三章 令嬢はゲームに巻き込まれる

06

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「アレクシアは」

レベッカ達を見送って、私を座らせると殿下は隣へと腰を下ろした。

「婚約者と上手くいっているの?」
「はい」
「…そう」
その声はどこか暗いような響きを含んでいた。

「本当に、シアは忘れてしまったんだね。———私との誓いも」
「え…?」
誓い?
そういえば…殿下が私の家に現れた時も言っていた。

「私は一日だって忘れた事がないのに」
私を見る殿下の瞳は、先刻までの優しさが消えてほの暗く光っている。


「…あの…誓いとは…」
「これを見ても思い出さない?」
殿下はポケットに手を入れると、小さな袋を取り出した。
そして私の手を取ると、その中身を手のひらに乗せた。

それはネックレスだった。
周囲にダイヤをちりばめ、青いサファイアが輝いている。
…これって…まさかゲームの…?

「これは私が昔君にあげたものだ。だけど事情があってまた私の元に戻ってきた」
「事情とは…」
「本当に思い出さない?」
目の前に殿下の瞳があった。
私を射抜くように見つめるサファイアの瞳。
———見つめられていると胸が苦しくなるような…この感覚は…


「これはもう一度シアにあげる」
殿下は私の手にネックレスを握り込ませた。

「だから思い出して。昔の事を…私との誓いの事を」






「もらってしまった…」
家に帰り、部屋で私は改めてネックレスを眺めた。

…これはゲームに出てくるネックレスなのだろうか。
でも前に一度私にくれたものだと言っていたし…それに考えたらサファイアは私の瞳の色でもある。
ゲームのネックレスとは別物の可能性も高い。

「レベッカに聞いてみないと…」
レベッカといえば…リアム様とはどうだったのだろう。

二人が庭園から戻ってきた時は、殿下に言われた事で頭が一杯で様子を窺うどころではなかった。



「殿下との誓い…」
一体、何を約束したのだろう。
このネックレスと関係があるのだろうか。

記憶がなくても学園生活は送れている。
けれど…過去の出来事が思い出せないというもどかしさは、いつもつきまとっている。

記憶を思い出せれば良いのだろうけれど、その兆候は未だないし、それに…。
思い出すのも、また怖いのだ。
———記憶をなくした原因を知るのが。

お医者様の言ったように、何かが私の身に起きて…それで記憶をなくしたいと、自分が望んだとしたら?
このまま思い出さない方が幸せかもしれないと…父も言っていた。
私の過去に…何があったのだろう。



「っ…」
無意識に手の中のネックレスを握りしめてしまい、痛みに我に返った。

私が記憶をなくしたせいで、悲しむ人がいる。
私が思い出さない事を望む人もいる。

私は———


私は、どちらを望めばいいのだろう。
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