記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子

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第三章 令嬢はゲームに巻き込まれる

02

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「今の…」
遠ざかる二人の背中を見送りながらレベッカが口を開いた。

「殿下のイベントなのよね」
「…やっぱり…?」
「ヒロインが一人でここで食べてると殿下が現れるの。ゲームではサンドウィッチじゃなくて焼き菓子なんだけど。さっきみたいに食べて…口元についたくずを取って自分で食べちゃうの」
レベッカは私へ振り向いた。
「でも私じゃなくて、アレクシアのを食べたわね」
「な、なんで…」


「うーん…アレクシアの好感度が高いから?」
首をひねりながらレベッカは言った。

「好感度?」
「アレクシアは殿下と仲がいいでしょう」
「それは…従兄弟で子供の時から知ってるから…」
私には記憶がなくても、殿下とは幼馴染のようなものなのだと思う。

「でもゲームの殿下は親しくしている女性はいなかったわ。婚約者でさえ距離を置いていたもの」
「そうなの…?で、でもさっきのでレベッカも殿下からの好感度が上がったかも」

「だけど今のイベントは、終盤の方でかなり好感度が高くならないと起きないイベントなのよ。そうでなければ王子様が生徒の手作りなんて食べないでしょう」
「それは…そうね…」
「だから私は関係ないと思うわ。ああ良かったー」
レベッカは安堵の息を吐いた。

「好感度が高くないのにイベント起きそうになってるからドキドキしてたんだけど。私じゃなくてアレクシアだったのね」
「でも私は〝ヒロイン〟じゃないのに…。それに終盤に起きるイベントが今起きるのもおかしくない?まだ入学して二ヶ月しか経ってないのよ」
「それは…かなりアレクシアの好感度が高いから?」
「だから私は関係ないのに」

「私だってリアム様攻略する気ないのに勝手にイベントが起きるのよ。アレクシアにイベントが起きてもおかしくないわ」
「そういうものなの…?」
でも私は…パトリックの婚約者なのに。
どうして殿下のイベントが私に起きるの?


「いい?このイベントは重要なイベントなのよ」
びっとレベッカは指を立てた。

「重要…?」
「そう、どれだけ殿下が心を開いたのか分かるし、それにさっきお礼をすると言っていたでしょう」
「ええ…」
「あれでサファイアのネックレスを持ってきたらもう好感度は完璧ね」

「サファイア?そんな高価なものがサンドウィッチのお礼?」
「まあお礼というのは口実ね。ほらこのゲーム、好感度マックスになると攻略対象の瞳と同じ色の石のネックレスがもらえるじゃない」
「そういえば…」
リアムはアメジストで、パトリックはエメラルド…って。

「あ…」
「どうしたの」
「私…パトリックからエメラルドのネックレス貰ってる…」
「まあ。もう攻略済みなの」

「え、でもあれは…病気のお守りだって…」
「だからそんなの贈る口実だから。どんな形なの?」
「大きな雫型で…」
そういえばあの形は…
「…ゲームで見たのと同じ…ような気がする…」
貰ったのはゲームを思い出す前だったから気づかなかったけれど。


「やっぱり攻略済みなのね。もしも殿下もってなったらどちらを選ぶの?」
「ええ?!」
どちらって、そんなの。
「私はパトリックの婚約者よ。殿下なんて…ありえないわ」

ちくり、と。
何故か胸の奥に小さな痛みを覚えた。
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