記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子

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第二章 令嬢はモブである事を思い出す

06

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「テ、テオドーロ様!お昼ご一緒して下さいませんか!」
「ちょっと!私がお願いしようとしていたのよ!」
「あのテオドーロ様…よろしかったら私と…」

午前の授業が終わった途端、テオドーロが女生徒達に囲まれた。


学園は、婚約者のいない者にとっては大事な出会いの場でもあると母から聞かされた。
特に女子にとっては結婚相手の家柄はとても重要で、王妃の実家であるベルティーニ伯爵家の後継で、未だ婚約者のいないテオドーロを狙う子はきっと多いであろうと。
家柄だけでなく、攻略対象者達に負けないくらい見目も良いテオドーロには婚約話が幾つも来ているのだけれど、本人が頑なに固辞し続けているという。
その理由に…心当たりがなくもないけれど。
———この学園でいい出会いがあれば、テオドーロの私への気持ちも変わるかもしれない。
私はそんな期待をしている。


「悪いけど僕は姉と一緒に食べるので」
なのにテオドーロは塩対応だ。
恨みのこもった視線が一斉に私に向けられた。
婚活に必死な彼女達にとって私は邪魔者なのだろう。

「…テオ、私はいいから彼女達と一緒に行ってきて」
級友に恨まれると私の今後の学園生活にも支障が出る。
こういう集団生活では異性よりも同性との関係が大事なのはきっと前世と変わらないと思う。
だからそう言うと、テオドーロはムッとしたように眉をひそめた。

「駄目だよ、一人でなんか危ないでしょ」
危ない?学園でお昼を食べるのが?
「でも…」
「アレクシア様」
声を掛けられて振り向くと。
ヒロインが立っていた。


「良かったら私とお昼をご一緒してくれませんか」
ヒロインらしい愛らしい笑顔で彼女———確か名前はレベッカだったか———は言った。
助け船!と思ったけれど…
ヒロインと一緒に?お昼を食べる?
二人きりで?
それは……心の準備がまだ…

「…お願いします」
女生徒達の視線の圧に負けて私は返事を返した。


「え…姉上!」
「それではテオドーロ様、お姉様をお借りしますね」
弟よ、彼女達の相手、頑張って。
心の中でエールを送りながら私はレベッカと共に食堂へ向かった。





さすが貴族の子女が集まる学園。
学食はどこの高級レストランかと思うくらい立派だ。
メニューはブュッフェスタイルで好きなものを好きなだけ選べるようになっている。

席も自由で爵位は関係ない…となっているけれど、やはり身分差を意識しない訳にはいかないらしく。
少し高くなった、眺めの良い席は王族や公爵など高い爵位の家の子達が使うのが暗黙のルールとなっている…というのはゲームでの知識だけれど。
現実でもそれはあるらしく、殿下と婚約者のブリジット、リアム達が座っているのが見えた。


「兄弟仲がいいんですね」

料理を取り、適当な場所を見つけてレベッカと向かい合って腰を下ろす。
食べ始めるとレベッカが口を開いた。

「…仲がいいと言うか…過保護というか…」
「過保護?」
「少し前まで病気で寝たきりだったので…」

「———アレクシア様は病気で留年されたという噂は本当なのですか?」
「…ええ」
私は頷いた。
「その病気のせいで、記憶喪失になったというのも?」
「ええ…学園で学んだ事も忘れてしまったので、また一年からやり直す事になったのです」

「記憶喪失というのは…ご自身の事を忘れてしまったという事ですか」
「ええ…家族や身の回りの事をです」
「———でも。私が〝ヒロイン〟だという事は覚えていたんですよね」


ゲームタイトルにもあるように、ヒロインはその瞳がとても印象的だ。
大きな琥珀色の瞳は少し緑や青も混ざっていて、光の加減で複雑な色に変化する。
攻略対象達を魅了する、聡明さと意志の強さを宿した瞳が真っ直ぐに私を見ていた。

「え、ええと…」

そんな瞳で見られると、言い逃れをしてはいけないような気持ちになってくる。

「覚えていたというか…昨日思い出して…」
「昨日?」
「パトリックやレオポルド殿下に見覚えがあって…でも分からなくて…それで昨日、学園に来たら色々と、思い出して…」
しどろもどろになりそうになりながら、私は言った。
「それは、〝ゲーム〟の事ですか」
「ええ…あの…」
私は勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい!」
「…何を謝るんですか?」
「イベント…私のせいで潰してしまったかも…」


「ああ。それは謝らないで下さい。むしろ感謝していますので」
「…え?」
私は顔を上げた。
感謝?

「その事は場所を変えて話しましょうか」
にっこりと笑顔でレベッカはそう言った。
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