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第二章 令嬢はモブである事を思い出す
05
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「おはよう、アレクシア」
学園へ着き教室へと向かう途中で殿下とリアムと会った。
…そういえばゲームの殿下は、友人やネットの評判では腹黒王子と呼ばれていたけれど…
目の前の、穏やかな笑みをたたえているいかにも王子様という気品ある殿下の、どこが腹黒なのだろう。
「おはようございます、殿下」
「身体は大丈夫そう?」
「はい」
皆が私の体調を心配してくれる。
確かに何日も高熱で寝込み、体力は落ちたけれど今は日常生活を送る分には問題がないくらい回復していた。
ただ食事を取れなくて痩せてしまったらしく、以前と比べて病弱そうに見えるらしい。
「記憶がないと不便だろう。学年は違ってしまったけれど何か困った事があればいつでも私の所にきてくれていいからね」
「ありがとうごさいます」
「それと…」
「レオポルド様。おはようございます」
女性の声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、ゴージャスと形容したくなる美人が立っていた。
カールさせた金髪に、気の強そうな、やや吊り上がった水色の瞳。
…この分かりやすい容姿は、確か…。
「おはよう、ブリジット」
美人に挨拶をすると殿下は私を見た。
「彼女はブリジット・マレシャル。私の婚約者だ」
ああ、やはり。
ゲームのスチルで見た事がある。
殿下のルートを選択すると登場する、ライバル令嬢だ。
「…初めまして」
やはりどう挨拶していいのか分からず私はリアムの時と同じように挨拶した。
ゲームで殿下はまだ未プレイだったから、彼女がどういう人なのか前世の知識もないのだ。
「初めまして?…本当に記憶がありませんのね」
ブリジットは眉をひそめた。
「はい…すみません」
「謝る事ではないよ、アレクシア」
頭を下げた私に殿下は笑みを向けた。
「…まいりましょう、レオポルド様」
私を一瞥するとブリジットは殿下の腕を取った。
「アレクシア。今度の休みに王宮に来てくれないか」
「王宮…ですか」
「君の記憶が戻るか王宮の医師に診てもらおうと思って。君の家に行かせてもいいんだけど母上が会いたがっていたから」
「王妃様が?」
「母上も君の病気をとても心配していたからね、元気な姿を見せてやって欲しい」
「…分かりました」
王妃様は私にとって叔母でもある。
…確かに身内の病気は心配するだろう。
「レオポルド様」
ブリジットが殿下の腕を強くひいた。
「それではまたね」
「感じの悪い女だな」
振り向きざま私に鋭い視線を送ってきたブリジットと殿下達が立ち去るのを見送りながらテオが言った。
「殿下に近づこうとする女には容赦ないって噂だけど。姉上は殿下の従妹だし向こうから話しかけてきたのに」
「…それだけ殿下の事がお好きなんでしょう」
「あんな性格の悪い女に好かれて可哀想に」
「テオ…」
辛辣な弟に思わずため息が漏れた。
今のだけで性格が悪いとは断言できないと思うけれど…
もしかしたら記憶をなくす前から私と仲が悪かったのかもしれないし。
そう、パトリックと同じように…
「…そういえば…」
「姉上?」
「テオ。私…記憶をなくす前と今とで変わった?」
ふいに気になりテオドーロに尋ねた。
———パトリックを一方的に嫌っていた私は、もしかして性格が悪かったか、悪かったように見られていたのではないだろうか。
…今のブリジットのように。
「…いや?」
テオドーロは首を振った。
「目を覚ました時は他人行儀だったけど。今の姉上は記憶がない以外はそのままだよ」
「そう…」
「どうしたの唐突に」
「…急に気になったから」
「記憶があってもなくても、姉上は姉上だよ」
テオドーロはそう言って私の頭をぽんと軽く叩いた。
「教室へ行こう」
「ええ」
頷いて、私はテオドーロと並んで歩き出した。
学園へ着き教室へと向かう途中で殿下とリアムと会った。
…そういえばゲームの殿下は、友人やネットの評判では腹黒王子と呼ばれていたけれど…
目の前の、穏やかな笑みをたたえているいかにも王子様という気品ある殿下の、どこが腹黒なのだろう。
「おはようございます、殿下」
「身体は大丈夫そう?」
「はい」
皆が私の体調を心配してくれる。
確かに何日も高熱で寝込み、体力は落ちたけれど今は日常生活を送る分には問題がないくらい回復していた。
ただ食事を取れなくて痩せてしまったらしく、以前と比べて病弱そうに見えるらしい。
「記憶がないと不便だろう。学年は違ってしまったけれど何か困った事があればいつでも私の所にきてくれていいからね」
「ありがとうごさいます」
「それと…」
「レオポルド様。おはようございます」
女性の声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、ゴージャスと形容したくなる美人が立っていた。
カールさせた金髪に、気の強そうな、やや吊り上がった水色の瞳。
…この分かりやすい容姿は、確か…。
「おはよう、ブリジット」
美人に挨拶をすると殿下は私を見た。
「彼女はブリジット・マレシャル。私の婚約者だ」
ああ、やはり。
ゲームのスチルで見た事がある。
殿下のルートを選択すると登場する、ライバル令嬢だ。
「…初めまして」
やはりどう挨拶していいのか分からず私はリアムの時と同じように挨拶した。
ゲームで殿下はまだ未プレイだったから、彼女がどういう人なのか前世の知識もないのだ。
「初めまして?…本当に記憶がありませんのね」
ブリジットは眉をひそめた。
「はい…すみません」
「謝る事ではないよ、アレクシア」
頭を下げた私に殿下は笑みを向けた。
「…まいりましょう、レオポルド様」
私を一瞥するとブリジットは殿下の腕を取った。
「アレクシア。今度の休みに王宮に来てくれないか」
「王宮…ですか」
「君の記憶が戻るか王宮の医師に診てもらおうと思って。君の家に行かせてもいいんだけど母上が会いたがっていたから」
「王妃様が?」
「母上も君の病気をとても心配していたからね、元気な姿を見せてやって欲しい」
「…分かりました」
王妃様は私にとって叔母でもある。
…確かに身内の病気は心配するだろう。
「レオポルド様」
ブリジットが殿下の腕を強くひいた。
「それではまたね」
「感じの悪い女だな」
振り向きざま私に鋭い視線を送ってきたブリジットと殿下達が立ち去るのを見送りながらテオが言った。
「殿下に近づこうとする女には容赦ないって噂だけど。姉上は殿下の従妹だし向こうから話しかけてきたのに」
「…それだけ殿下の事がお好きなんでしょう」
「あんな性格の悪い女に好かれて可哀想に」
「テオ…」
辛辣な弟に思わずため息が漏れた。
今のだけで性格が悪いとは断言できないと思うけれど…
もしかしたら記憶をなくす前から私と仲が悪かったのかもしれないし。
そう、パトリックと同じように…
「…そういえば…」
「姉上?」
「テオ。私…記憶をなくす前と今とで変わった?」
ふいに気になりテオドーロに尋ねた。
———パトリックを一方的に嫌っていた私は、もしかして性格が悪かったか、悪かったように見られていたのではないだろうか。
…今のブリジットのように。
「…いや?」
テオドーロは首を振った。
「目を覚ました時は他人行儀だったけど。今の姉上は記憶がない以外はそのままだよ」
「そう…」
「どうしたの唐突に」
「…急に気になったから」
「記憶があってもなくても、姉上は姉上だよ」
テオドーロはそう言って私の頭をぽんと軽く叩いた。
「教室へ行こう」
「ええ」
頷いて、私はテオドーロと並んで歩き出した。
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