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25 新しい山の主

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「ああ嬢ちゃん、ちょうど良かった」
 本物の魔王城へ戻るとアルバンさんが駆け寄ってきた。
「何かご用ですか」
「大怪我をしたやつがいるんだ。大きいし温泉には運べないくらい酷くてな」
「え?」
「来てくれ」
 そう言うなりアルバンさんは私を担ぎ上げた。

「きゃっ」
「あ、おい!」
 バサリと羽ばたく音と、エーリックの焦った声を聞きながら私の身体は宙を舞った。


「……アルバンさん……ひどい……」
 転移魔法は一瞬なのに、アルバンさんは空を飛んだ。
 とても速いスピードでしかも上下左右に動くから、乗り物酔いしたように気持ちが悪い。
「悪いな、俺は二人だと移動魔法が得意じゃなくてな」
 ぐったりした私の頭をなでながらアルバンさんは言った。
「で、怪我したのはこいつだ」

「……これって……ドラゴン!?」
 目の前にいる、羽根が生えた大きなその姿は確かにドラゴンだった。
 ドラゴンもこの世界にいるのね! とテンションが上がりかけたが、横たわった緑色の身体のあちこちが赤黒く染まっているのに気づいた。
 慌てて駆け寄りその身体に手を触れると、ひんやりとして硬い肌の、その奥へと魔力を注いでいく。
 しばらくそうしていると、やがてドラゴンの身体が淡い光に包まれた。

「――ふう。これで大丈夫です」
 光が消えると、鱗が艶々に輝いたドラゴンが現れた。
 黒い目を開くとドラゴンは羽根をゆっくりと動かした。
「おお。すごいな嬢ちゃん」
 アルバンさんが感心したように声を上げた。
「助かったよ。こいつが死んだら山が荒れるからな」 
「山が荒れる?」
「ドラゴンは魔物とはまた別の存在で、この山の主だ。ドラゴンは代替わりをすると、次の主を決めるために成年の雄同士で戦う。そうして勝者が次の主になるんだ」
 ゆっくりと立ち上がったドラゴンを見上げてアルバンさんは言った。
「こいつは新しい主だが、戦いが激しくて瀕死状態だった。主がいない山は秩序が失われるんだ」
「そうなのね……」
 それは大変だわ。

「じゃあ、あなたが新しい山の主なのね」
 ドラゴンを見上げた。
 その身長は三階建ての建物くらいだろうか。これまでこの世界で見た中で一番大きな生き物だ。
 私を見つめていたドラゴンは、頭を軽く振ると天を仰いだ。
 大きな咆哮が山に鳴り響く。
「――新しい主は自分だという勝鬨だな」
 山自体が振動しているのではないかと思うくらい、その声は私の身体全体に響いていた。

 やがてドラゴンは大きく羽ばたくと、山頂の方へ飛び去っていった。
 その先を見送っていると、何かキラキラしたものが落ちてきた。
「ドラゴンの鱗か」
 光るものを手に取ったアルバンさんが、それを私に手渡した。
「きっと礼だな、もらっておけ」
「……ありがとう」
 手のひらほどの大きな緑色の鱗はひんやりして、キラキラと輝いていた。
「人間の間では宝石よりも希少だと言われてるそうだ。きっと高く売れるぜ」
「売りませんよ!」
 お礼だってくれたものを売るなんて失礼すぎるわ。
「ははっ。しかし嬢ちゃん、身体は平気なのか?」
「え?」
「あんな大きなドラゴンを治療したんだ、魔力が尽きないのか?」
「あ……それは大丈夫みたいです」
 ブラウさんからも聞かれたけれど、普通は魔法を使いすぎると魔力切れというものが起きるらしいが、私は今のところそういう状態になったことはないのだ。
(これも女神の祝福のおかげなのかな)
 そんなことを思いながら、私たちは魔王城へと帰っていった。
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