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第27話
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「お久しぶりでございます」
ダンスを終えたレベッカとアレクの元に、レベッカの父親リンデロート伯爵が歩み寄ってきた。
「あの時はお世話になりました。まさか貴方が王子だったとは……」
「肩書きだけですよ。今回の任務が終わればまたギルドに戻る予定です」
リンデロート伯爵が娘と再会するきっかけとなった護衛任務にはアレクも参加していた。
アレクの目の前で父は娘と涙の再会を果たしたのだ。
「そうでしたか。恐れ入りますが娘をお借りしても?」
「ええ、僕も彼と話したいと思っていましたから」
同じように歩み寄ってきたルーカスを横目で見てアレクは答えた。
ルーカスとアレクは広間から廊下へ出ると、人気のない通路へと向かった。
「話とは何だ」
「もちろん今回の目的についてです」
立ち止まるとアレクはルーカスに向いた。
「レベッカ嬢の白竜討伐参加に反対されていたので」
「当たり前だ。婚約者を危険な目に遭わせられるはずがない」
「本人は行く気でも?」
「レベッカに特別な力があることは知っている。だが、それと彼女を遣わせるのは別の話だ」
アレクを見据えてルーカスは答えた。
「彼女は魔術師であることに誇りを持っているし、責任感が強い。自身の力でないと倒せないという白竜退治に行かれなかったら、とても後悔するでしょうね」
ルーカスを見据え返してアレクは言った。
「反対した貴方を恨むかもしれません」
「脅しか」
「いいえ。ただ彼女の性格ならば、黙って国を抜け出してでも討伐へ行くでしょう。ああ見えて結構強情ですから」
微笑んだアレクは、すぐに真顔になった。
「後悔しているんです」
「後悔?」
「我が国最高の魔力を持つ『青の魔女リサ』をこの国へ帰らせてしまったことを。あのままギルドに残っていればもう白竜は倒せていたし被害も少なくて済んだのではないかとね。彼女自身、貴族に戻ることを最初は拒んでいましたし」
「貴族を拒んでいた?」
「自分が貴族としてやっていけると思っていなかったんです。ですが父親に泣かれましてね、彼女は優しいですから、断りきれなかったんです」
一度視線を落としてため息をつくと、アレクは再びルーカスを見た。
「それに、戻らなければ貴方と婚約することもなかったでしょうし。本当に後悔していますよ」
「――そうか。それは残念だったな」
「ええ、残念です。ですがまだ可能性はあると思っていますよ」
「可能性?」
「貴族令嬢であることと魔術師として生きること。彼女が自分らしく生きられるのはどちらでしょうね」
言葉を区切るとアレクはふっと笑った。
「まあ、それは彼女が決めることですが。それでは失礼いたします」
頭を下げるとアレクは身を翻した。
「……自分の方が付き合いが長いからって、偉そうに」
アレクの背中を睨みつけながら、ルーカスは呟いた。
*****
歓迎会から二日後、私は王宮へ向かった。
馬車が到着し、扉が開かれるとルーカス様が立っていた。
「ご機嫌よう、ルーカス様」
「ああ」
差し出された手を取ろうとすると、ルーカス様はその手を腰へと回し私を抱き上げた。
「きゃっ」
「レベッカは軽いな」
抱き上げた私を馬車から降ろして、ルーカス様は笑った。
「こんなに華奢な身体で、よく魔物と戦えたものだ」
「……体力はありますから」
それに、魔力を体内に巡らせることで疲労や怪我も回復させることができる。
「そうか」
改めて差し出された手を取ると、ルーカス様は歩き出した。
(……いつもと様子が違うような)
表情が暗いというか、固いというか。
「どうした?」
横顔を見上げていると、視線に気づいてルーカス様が私を見た。
「……いえ」
首を振ると、頬に柔らかなものが触れた。
それがルーカス様の唇だと気づいて、触れられた所が熱くなる。
「なっ何を……」
「キスして欲しくて見ていたんじゃないのか?」
「違います!」
「そうか」
ふっと笑ったルーカス様は、いつもと同じだった。
応接室へ入ると、既にアレクたちがいた。
「遅くなりました」
「いや、我々が早く来ただけだから」
笑顔でアレクは答えた。
今日は白竜退治のことで結論を出す予定だ。
私は行くと決めているし、家族にも伝えてある。
両親は泣いていたけれど、五歳から私を育ててくれた人たちへの恩返しだと言ったら納得してくれた。
やがて陛下とエドヴァルド殿下、そして宰相が入ってきた。
「さて、スラッカ王国からの依頼の件だが」
腰を下ろすと陛下が口を開いた。
「当人のレベッカ嬢はどう思っている?」
「はい。私にしかできないのであれば行くべきだと思います」
そう、ただの協力要請ではない。
私の青い炎でしか倒せないのだから、私が行かなければならない。
(それに……これは多分、ゲームのクエストだ)
私はまだ辿り着けていなかったけれど、白い竜と戦う画像をSNSで見たことがある。
だからこの竜退治は、本来ならばゲームの主人公が行うものだ。
でも私が主人公の登場機会を潰してしまった。
だから代わりに私が退治しないとならないんだ。
「どうか行くことをお許し下さい」
陛下を見つめて私は言った。
「……そうか」
陛下は頷くとアレクを見た。
「白い竜を倒せるのがレベッカ嬢だけというのは本当か?」
「研究者はそう申しております」
アレクは答えた。
「それに私も彼女と何度も竜退治に行きましたが、彼女の炎は竜の炎を圧倒していました。白竜に勝てるのは青い炎だけだと私も確信しています」
「そうか。竜は空を自在に飛ぶ。我が国へ被害が及ぶ可能性もある以上、協力すべきだろうが。レベッカ嬢は未来の王子妃でもある」
陛下は視線をルーカス様へ移した。
「ルーカス。お前はどう考える」
「レベッカ」
ルーカス様は私を見た。
「そんなに行きたいか」
「はい」
緑色の綺麗な目を見つめ返して答える。
「――分かった」
ルーカス様は私の頭をくしゃりと撫でた。
「俺も行く」
「……え?」
今、なんて?
「レベッカだけを行かせられない。俺も白竜退治に同行する。それが条件だ」
そう言って、ルーカス様は陛下を見た。
「よろしいですね、父上」
「そうだな。確かにレベッカ嬢が行くとなると護衛をつける必要があるが、ルーカスが適任だろう」
陛下はアレクに向いた。
「アレッシオ王子、それでいかがかな」
「――承知いたしました」
少し間をおいてアレクは頭を下げた。
「え、でも護衛なんて……」
そんなのいらないよ!?
「いいか、君は俺の正式な婚約者、王族に準じる立場だ」
私に向くとルーカス様は言った。
「他国へ行くならば護衛が必ず必要になる」
「でも、ルーカス様でなくても……」
私専用の護衛ならアンナたちがいるし。
「俺と離れている間に悪い虫が付く可能性があるだろう」
悪い虫? どういうこと?
首を傾げていると、くくっと笑く声が聞こえた。
「意外と心配性なんだな、ルーカスは」
笑ったのはエドヴァルド殿下だった。
「まあ仕方ないか。レベッカ嬢、ルーカスも一緒に連れて行ってやってくれ」
「……はあ……分かりました」
よく分からないけれど、そうすれば行かれるのなら断る理由はない。
私は頷いた。
ダンスを終えたレベッカとアレクの元に、レベッカの父親リンデロート伯爵が歩み寄ってきた。
「あの時はお世話になりました。まさか貴方が王子だったとは……」
「肩書きだけですよ。今回の任務が終わればまたギルドに戻る予定です」
リンデロート伯爵が娘と再会するきっかけとなった護衛任務にはアレクも参加していた。
アレクの目の前で父は娘と涙の再会を果たしたのだ。
「そうでしたか。恐れ入りますが娘をお借りしても?」
「ええ、僕も彼と話したいと思っていましたから」
同じように歩み寄ってきたルーカスを横目で見てアレクは答えた。
ルーカスとアレクは広間から廊下へ出ると、人気のない通路へと向かった。
「話とは何だ」
「もちろん今回の目的についてです」
立ち止まるとアレクはルーカスに向いた。
「レベッカ嬢の白竜討伐参加に反対されていたので」
「当たり前だ。婚約者を危険な目に遭わせられるはずがない」
「本人は行く気でも?」
「レベッカに特別な力があることは知っている。だが、それと彼女を遣わせるのは別の話だ」
アレクを見据えてルーカスは答えた。
「彼女は魔術師であることに誇りを持っているし、責任感が強い。自身の力でないと倒せないという白竜退治に行かれなかったら、とても後悔するでしょうね」
ルーカスを見据え返してアレクは言った。
「反対した貴方を恨むかもしれません」
「脅しか」
「いいえ。ただ彼女の性格ならば、黙って国を抜け出してでも討伐へ行くでしょう。ああ見えて結構強情ですから」
微笑んだアレクは、すぐに真顔になった。
「後悔しているんです」
「後悔?」
「我が国最高の魔力を持つ『青の魔女リサ』をこの国へ帰らせてしまったことを。あのままギルドに残っていればもう白竜は倒せていたし被害も少なくて済んだのではないかとね。彼女自身、貴族に戻ることを最初は拒んでいましたし」
「貴族を拒んでいた?」
「自分が貴族としてやっていけると思っていなかったんです。ですが父親に泣かれましてね、彼女は優しいですから、断りきれなかったんです」
一度視線を落としてため息をつくと、アレクは再びルーカスを見た。
「それに、戻らなければ貴方と婚約することもなかったでしょうし。本当に後悔していますよ」
「――そうか。それは残念だったな」
「ええ、残念です。ですがまだ可能性はあると思っていますよ」
「可能性?」
「貴族令嬢であることと魔術師として生きること。彼女が自分らしく生きられるのはどちらでしょうね」
言葉を区切るとアレクはふっと笑った。
「まあ、それは彼女が決めることですが。それでは失礼いたします」
頭を下げるとアレクは身を翻した。
「……自分の方が付き合いが長いからって、偉そうに」
アレクの背中を睨みつけながら、ルーカスは呟いた。
*****
歓迎会から二日後、私は王宮へ向かった。
馬車が到着し、扉が開かれるとルーカス様が立っていた。
「ご機嫌よう、ルーカス様」
「ああ」
差し出された手を取ろうとすると、ルーカス様はその手を腰へと回し私を抱き上げた。
「きゃっ」
「レベッカは軽いな」
抱き上げた私を馬車から降ろして、ルーカス様は笑った。
「こんなに華奢な身体で、よく魔物と戦えたものだ」
「……体力はありますから」
それに、魔力を体内に巡らせることで疲労や怪我も回復させることができる。
「そうか」
改めて差し出された手を取ると、ルーカス様は歩き出した。
(……いつもと様子が違うような)
表情が暗いというか、固いというか。
「どうした?」
横顔を見上げていると、視線に気づいてルーカス様が私を見た。
「……いえ」
首を振ると、頬に柔らかなものが触れた。
それがルーカス様の唇だと気づいて、触れられた所が熱くなる。
「なっ何を……」
「キスして欲しくて見ていたんじゃないのか?」
「違います!」
「そうか」
ふっと笑ったルーカス様は、いつもと同じだった。
応接室へ入ると、既にアレクたちがいた。
「遅くなりました」
「いや、我々が早く来ただけだから」
笑顔でアレクは答えた。
今日は白竜退治のことで結論を出す予定だ。
私は行くと決めているし、家族にも伝えてある。
両親は泣いていたけれど、五歳から私を育ててくれた人たちへの恩返しだと言ったら納得してくれた。
やがて陛下とエドヴァルド殿下、そして宰相が入ってきた。
「さて、スラッカ王国からの依頼の件だが」
腰を下ろすと陛下が口を開いた。
「当人のレベッカ嬢はどう思っている?」
「はい。私にしかできないのであれば行くべきだと思います」
そう、ただの協力要請ではない。
私の青い炎でしか倒せないのだから、私が行かなければならない。
(それに……これは多分、ゲームのクエストだ)
私はまだ辿り着けていなかったけれど、白い竜と戦う画像をSNSで見たことがある。
だからこの竜退治は、本来ならばゲームの主人公が行うものだ。
でも私が主人公の登場機会を潰してしまった。
だから代わりに私が退治しないとならないんだ。
「どうか行くことをお許し下さい」
陛下を見つめて私は言った。
「……そうか」
陛下は頷くとアレクを見た。
「白い竜を倒せるのがレベッカ嬢だけというのは本当か?」
「研究者はそう申しております」
アレクは答えた。
「それに私も彼女と何度も竜退治に行きましたが、彼女の炎は竜の炎を圧倒していました。白竜に勝てるのは青い炎だけだと私も確信しています」
「そうか。竜は空を自在に飛ぶ。我が国へ被害が及ぶ可能性もある以上、協力すべきだろうが。レベッカ嬢は未来の王子妃でもある」
陛下は視線をルーカス様へ移した。
「ルーカス。お前はどう考える」
「レベッカ」
ルーカス様は私を見た。
「そんなに行きたいか」
「はい」
緑色の綺麗な目を見つめ返して答える。
「――分かった」
ルーカス様は私の頭をくしゃりと撫でた。
「俺も行く」
「……え?」
今、なんて?
「レベッカだけを行かせられない。俺も白竜退治に同行する。それが条件だ」
そう言って、ルーカス様は陛下を見た。
「よろしいですね、父上」
「そうだな。確かにレベッカ嬢が行くとなると護衛をつける必要があるが、ルーカスが適任だろう」
陛下はアレクに向いた。
「アレッシオ王子、それでいかがかな」
「――承知いたしました」
少し間をおいてアレクは頭を下げた。
「え、でも護衛なんて……」
そんなのいらないよ!?
「いいか、君は俺の正式な婚約者、王族に準じる立場だ」
私に向くとルーカス様は言った。
「他国へ行くならば護衛が必ず必要になる」
「でも、ルーカス様でなくても……」
私専用の護衛ならアンナたちがいるし。
「俺と離れている間に悪い虫が付く可能性があるだろう」
悪い虫? どういうこと?
首を傾げていると、くくっと笑く声が聞こえた。
「意外と心配性なんだな、ルーカスは」
笑ったのはエドヴァルド殿下だった。
「まあ仕方ないか。レベッカ嬢、ルーカスも一緒に連れて行ってやってくれ」
「……はあ……分かりました」
よく分からないけれど、そうすれば行かれるのなら断る理由はない。
私は頷いた。
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