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第6章 秘密の特技
06
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「だから乙女ゲームのヒロインの座はリリアン様に譲ります」
笑顔でシャルロットは言った。
「え? 何で私?」
「だってフレデリク殿下とカミーユ様に溺愛されてて、攻略対象じゃないけど別の人から求婚されて。学園内でもマリアンヌ様は可愛くなったって人気高いんですよ。もうリリアン様がヒロインじゃないですか」
「え……人気が高い?」
そんなの全然知らないんですけれど。
「殿下とカミーユ様にブロックされてるから出来ませんけれど、お近づきになりたいと思ってる男子は多いですからね」
「そうなの?」
「逆ハーってやつですよね。で、リリアン様の本命はやっぱりフレデリク殿下ですか」
「――正直、フレデリク殿下はあまり……」
「ダメなんですか? あんなに溺愛されているのに」
「その溺愛が重いのよ。先日の時だって、あの後部屋に戻ったら大変だったんだから」
王宮で脱走した後、私はアドリアン殿下の部屋からフレデリク殿下の部屋へと戻った。
秘密通路を使ってこっそり戻ろうかと思ったのだけれど、『通路を知っていることは誰にも言わない方がいいです』とセベリノさんに言われたのだ。
王子の婚約者とはいえ王族でない私がそれを知っているとなれば大事になると。
それもそうかと納得し、鍵は開いていたから庭を散策していましたと言い訳をしようと思いながら部屋に戻ったのだ。
「アン!」
部屋に入るなりフレデリク殿下が抱きついてきた。
「どこに行っていたの?!」
「――フレデリク。リリアンが窒息するわよ」
ぎゅうっと力任せに抱きすくめられて、少し意識が遠のきかけた耳にローズモンドの声が聞こえた。
「お帰りなさい、リリアン」
殿下が腕を緩めて、呼吸できるようになったのでほう、と息を吐いているとローズモンドが側に立った。
「フレデリクが『リリアンが消えた』って大騒ぎしていたのよ」
「――ひとりで暇だったから庭を見ていただけよ」
「どうやって外に……」
「どうって」
殿下の呟きに首を傾げる。
「扉から?」
「だって鍵を掛けていたのに!」
「フレデリク。だから言ったでしょう」
ローズモンドが小さくため息をついた。
「リリアンにそういうのは意味ないって。どんな鍵でも開けるのよこの子は」
「まあ、そんなことはないわ……多分」
全ての鍵を開けたことはないから分からないもの。
でもこの世界の鍵はそんなに複雑な構造ではないので、大体の鍵は開けられると思う。
今回はやらなかったけれど、秘密通路を見つけるのと同様、鍵を開けるのも私の特技なのだ。
前世の映画で見た、針金とかで鍵を開けるのが面白そうで試してみたらできたのだ。
ゲーム内でも、リリアンが秘密の宝箱を開ける場面があったので、これもゲームの能力なんだと思う。
「……じゃあ今度は何かに繋いで」
繋ぐ?!
「フレデリク」
鋭いローズモンドの声が響いた。
「どうしてあなたはそうやってリリアンを束縛しようとするの。そういうのを特に嫌う子だって伝えたわよね」
「だって。リリアンは僕の婚約者なのにお祖母さまやカミーユや、みんなが僕から取っていくじゃないですか」
「フレデリク……婚約者だからといって、リリアンはあなただけのものではないのよ」
「アンは僕のものだ」
殿下は再び私を強く抱きしめた。
「アンには僕だけでいい。お祖母さまも、誰とも会わなくていいんだ」
「それってヤンデレじゃないですか!」
話を聞いていたシャルロットが悲鳴のような声を上げた。
「やっぱりそう思うわよね……」
あの時の殿下の目、怖かったもの。
「え、殿下って可愛いワンコ系キャラじゃなかったでしたっけ。どちらかというとカミーユ様がヤンデレ入ってたような」
そう、ゲームのカミーユは最初女嫌いでクールなキャラだけど、ヒロインに心を開いていくにつれて執着するような態度を見せるのよね。
――それでも、殿下みたいに閉じ込めたり繋ごうとすることはなかったはずだけれど。
「以前の殿下も、ってそんなに知ってるわけではないですけれど、でもそんな感じは全くなかったですよ」
「ローズモンド曰く、私が現れてからおかしくなってしまったみたいなのよね……」
いくら初恋相手とはいえ、そこまで執着するものなのかしら。
「そもそもゲームで、殿下に初恋相手がいたなんてエピソードはなかったですよね」
「ええ」
シャルロットの言葉に頷く。
「絵姿を見て一目惚れしたみたい」
「絵姿ってお見合い用に作るやつですよね。なんであるんですか?」
「ローズモンドが私が知らないところで作らせていたみたい」
「――話聞いてると、ローズモンド様とすごく仲良いというか、ローズモンド様ってリリアン様のこと大好きですよね」
「そう……?」
「ゲームではそこまでべったりではなかったと思うんですけど」
「べったり……」
――確かに、ローズモンドとは卒業後、互いに結婚し、彼女が王妃になってからも頻繁に会っていた。
「そういえば、アンドリュー様にも言われたわ。ローズモンドが自分よりも私を優先するのが妬けるって」
「攻略対象よりお助けキャラですか! 殿下のリリアン様への執着って、きっとローズモンド様譲りですよね」
「そうなのかしら……」
「転生して中身が違うからゲームとは異なる展開になっちゃうんですかね。ただでさえ愛され妹キャラなのに、天然要素が入ったらそれは強いですよね」
「天然?」
え、私のこと?
「まあ、私も乙女ゲーム好きで沢山プレイしてきましたけど、リアルでヒロインやるのは正直キツイなと思ってたんで。替わってくれて良かったです」
笑みを浮かべてシャルロットはそう言った。
笑顔でシャルロットは言った。
「え? 何で私?」
「だってフレデリク殿下とカミーユ様に溺愛されてて、攻略対象じゃないけど別の人から求婚されて。学園内でもマリアンヌ様は可愛くなったって人気高いんですよ。もうリリアン様がヒロインじゃないですか」
「え……人気が高い?」
そんなの全然知らないんですけれど。
「殿下とカミーユ様にブロックされてるから出来ませんけれど、お近づきになりたいと思ってる男子は多いですからね」
「そうなの?」
「逆ハーってやつですよね。で、リリアン様の本命はやっぱりフレデリク殿下ですか」
「――正直、フレデリク殿下はあまり……」
「ダメなんですか? あんなに溺愛されているのに」
「その溺愛が重いのよ。先日の時だって、あの後部屋に戻ったら大変だったんだから」
王宮で脱走した後、私はアドリアン殿下の部屋からフレデリク殿下の部屋へと戻った。
秘密通路を使ってこっそり戻ろうかと思ったのだけれど、『通路を知っていることは誰にも言わない方がいいです』とセベリノさんに言われたのだ。
王子の婚約者とはいえ王族でない私がそれを知っているとなれば大事になると。
それもそうかと納得し、鍵は開いていたから庭を散策していましたと言い訳をしようと思いながら部屋に戻ったのだ。
「アン!」
部屋に入るなりフレデリク殿下が抱きついてきた。
「どこに行っていたの?!」
「――フレデリク。リリアンが窒息するわよ」
ぎゅうっと力任せに抱きすくめられて、少し意識が遠のきかけた耳にローズモンドの声が聞こえた。
「お帰りなさい、リリアン」
殿下が腕を緩めて、呼吸できるようになったのでほう、と息を吐いているとローズモンドが側に立った。
「フレデリクが『リリアンが消えた』って大騒ぎしていたのよ」
「――ひとりで暇だったから庭を見ていただけよ」
「どうやって外に……」
「どうって」
殿下の呟きに首を傾げる。
「扉から?」
「だって鍵を掛けていたのに!」
「フレデリク。だから言ったでしょう」
ローズモンドが小さくため息をついた。
「リリアンにそういうのは意味ないって。どんな鍵でも開けるのよこの子は」
「まあ、そんなことはないわ……多分」
全ての鍵を開けたことはないから分からないもの。
でもこの世界の鍵はそんなに複雑な構造ではないので、大体の鍵は開けられると思う。
今回はやらなかったけれど、秘密通路を見つけるのと同様、鍵を開けるのも私の特技なのだ。
前世の映画で見た、針金とかで鍵を開けるのが面白そうで試してみたらできたのだ。
ゲーム内でも、リリアンが秘密の宝箱を開ける場面があったので、これもゲームの能力なんだと思う。
「……じゃあ今度は何かに繋いで」
繋ぐ?!
「フレデリク」
鋭いローズモンドの声が響いた。
「どうしてあなたはそうやってリリアンを束縛しようとするの。そういうのを特に嫌う子だって伝えたわよね」
「だって。リリアンは僕の婚約者なのにお祖母さまやカミーユや、みんなが僕から取っていくじゃないですか」
「フレデリク……婚約者だからといって、リリアンはあなただけのものではないのよ」
「アンは僕のものだ」
殿下は再び私を強く抱きしめた。
「アンには僕だけでいい。お祖母さまも、誰とも会わなくていいんだ」
「それってヤンデレじゃないですか!」
話を聞いていたシャルロットが悲鳴のような声を上げた。
「やっぱりそう思うわよね……」
あの時の殿下の目、怖かったもの。
「え、殿下って可愛いワンコ系キャラじゃなかったでしたっけ。どちらかというとカミーユ様がヤンデレ入ってたような」
そう、ゲームのカミーユは最初女嫌いでクールなキャラだけど、ヒロインに心を開いていくにつれて執着するような態度を見せるのよね。
――それでも、殿下みたいに閉じ込めたり繋ごうとすることはなかったはずだけれど。
「以前の殿下も、ってそんなに知ってるわけではないですけれど、でもそんな感じは全くなかったですよ」
「ローズモンド曰く、私が現れてからおかしくなってしまったみたいなのよね……」
いくら初恋相手とはいえ、そこまで執着するものなのかしら。
「そもそもゲームで、殿下に初恋相手がいたなんてエピソードはなかったですよね」
「ええ」
シャルロットの言葉に頷く。
「絵姿を見て一目惚れしたみたい」
「絵姿ってお見合い用に作るやつですよね。なんであるんですか?」
「ローズモンドが私が知らないところで作らせていたみたい」
「――話聞いてると、ローズモンド様とすごく仲良いというか、ローズモンド様ってリリアン様のこと大好きですよね」
「そう……?」
「ゲームではそこまでべったりではなかったと思うんですけど」
「べったり……」
――確かに、ローズモンドとは卒業後、互いに結婚し、彼女が王妃になってからも頻繁に会っていた。
「そういえば、アンドリュー様にも言われたわ。ローズモンドが自分よりも私を優先するのが妬けるって」
「攻略対象よりお助けキャラですか! 殿下のリリアン様への執着って、きっとローズモンド様譲りですよね」
「そうなのかしら……」
「転生して中身が違うからゲームとは異なる展開になっちゃうんですかね。ただでさえ愛され妹キャラなのに、天然要素が入ったらそれは強いですよね」
「天然?」
え、私のこと?
「まあ、私も乙女ゲーム好きで沢山プレイしてきましたけど、リアルでヒロインやるのは正直キツイなと思ってたんで。替わってくれて良かったです」
笑みを浮かべてシャルロットはそう言った。
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