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第5章 繋がる望み
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「殿下……あの」
「――どうしてアンは僕のことを名前で呼んでくれないの」
「それは……」
「呼んでくれないと、このままキスするけど」
息がかかりそうなくらい間近で見つめながらそう言われてしまうと……さすがに拒めない。
「……フレデリク様」
そう呼ぶと、嬉しそうに目の前の瞳が細められた。
衣装合わせを終えて着替えも終え、ローズモンドとお茶をしましょう……となった所に殿下が現れ、攫われるように彼の部屋まで連れてこられた。
私をソファへ座らせると自分もその隣に密着して座り、腰に手を回され……これは、襲われているのでは……。
「アン。僕の……リリアン」
殿下は私を抱きしめた。
「お祖母様もカミーユもずるい。僕だってアンのことを一番知りたいし一緒に出かけたい。僕だって――」
私の肩へと顔を埋める。
「……昔のアンと会いたかった」
「殿……フレデリク様」
「僕が一番アンのことを好きなのに」
どうして……殿下はそんなに私のことが好きなのだろう。
いくら絵姿が気に入ったとしても、ローズモンドから私の話を聞いていたとしても……それまで一度も会ったことがないのだ。
殿下の中でどれほど理想化されているのか分からないけれど、実際の私はそんなに好かれるほどの人間ではないだろうに。
「殿下、あの……っ」
ふいに首筋に痛みが走った。
「――名前で呼ばないから。印つけちゃったよ」
顔を上げると、殿下は私を一度見てから視線を首筋に落とした。
「アンの白い肌に赤い印がはっきり付いてる。花びらみたいで綺麗だね」
「……フレデリクさま……」
今……もしかしてキスマーク付けられたの?
「ふふ、僕の印だ」
嬉しそうな声と共に、まだ痛みの残るその場所に何か柔らかくて温度のあるものが触れる感覚が落ちる。
何回も……って何をしているの?!
「殿下っ」
「また名前で呼んでくれない」
肌を吸われる痛みが走る。
待って?! 殿下ってこういうキャラだったっけ?!
ゲームではワンコ系で、ハッピーエンドを迎えた時も頬にキスするのが精一杯の純真な少年だったのに……キスマークつけるとかどこで覚えたの?!
――でもそういえば初めて会った時から抱きしめてきて、ぐいぐい来て……ゲームの殿下とは別人だったかも。
「ねえアン、やっぱり王宮で暮らそう」
耳元で声が響く。
「街でもどこでも行きたいところに連れて行く。だから早く、結婚しよう」
「……フレデリク様」
私は口を開いた。
「フレデリク様が結婚したいのは『リリアン』ですよね」
「そうだよ」
「でも、この身体は『マリアンヌ』のもので……いつかはマリアンヌの魂が戻ってくるでしょう」
私はそれまで、この身体を借りているに過ぎない。
「その時に……フレデリク様はマリアンヌのことを大切にしてくださいますか」
「どうしてそういうことを言うの?」
ぐ、と殿下は強く私を抱きしめた。
「僕が結婚するのはリリアンだ。ずっと、一生。リリアンだけだ」
「でも私は……」
「僕はずっと、リリアンだけが好きだったんだ。どうして……アンは僕を受け入れてくれないの」
それは……だってこの身体はマリアンヌのものだから。
私はずっとここにいてはいけない存在なのだ。
「僕はアンと生きる。何十年も、ずっと一緒だよ」
強い意志を込めた声に、私はそれ以上言い返す事はできなかった。
「――どうしてアンは僕のことを名前で呼んでくれないの」
「それは……」
「呼んでくれないと、このままキスするけど」
息がかかりそうなくらい間近で見つめながらそう言われてしまうと……さすがに拒めない。
「……フレデリク様」
そう呼ぶと、嬉しそうに目の前の瞳が細められた。
衣装合わせを終えて着替えも終え、ローズモンドとお茶をしましょう……となった所に殿下が現れ、攫われるように彼の部屋まで連れてこられた。
私をソファへ座らせると自分もその隣に密着して座り、腰に手を回され……これは、襲われているのでは……。
「アン。僕の……リリアン」
殿下は私を抱きしめた。
「お祖母様もカミーユもずるい。僕だってアンのことを一番知りたいし一緒に出かけたい。僕だって――」
私の肩へと顔を埋める。
「……昔のアンと会いたかった」
「殿……フレデリク様」
「僕が一番アンのことを好きなのに」
どうして……殿下はそんなに私のことが好きなのだろう。
いくら絵姿が気に入ったとしても、ローズモンドから私の話を聞いていたとしても……それまで一度も会ったことがないのだ。
殿下の中でどれほど理想化されているのか分からないけれど、実際の私はそんなに好かれるほどの人間ではないだろうに。
「殿下、あの……っ」
ふいに首筋に痛みが走った。
「――名前で呼ばないから。印つけちゃったよ」
顔を上げると、殿下は私を一度見てから視線を首筋に落とした。
「アンの白い肌に赤い印がはっきり付いてる。花びらみたいで綺麗だね」
「……フレデリクさま……」
今……もしかしてキスマーク付けられたの?
「ふふ、僕の印だ」
嬉しそうな声と共に、まだ痛みの残るその場所に何か柔らかくて温度のあるものが触れる感覚が落ちる。
何回も……って何をしているの?!
「殿下っ」
「また名前で呼んでくれない」
肌を吸われる痛みが走る。
待って?! 殿下ってこういうキャラだったっけ?!
ゲームではワンコ系で、ハッピーエンドを迎えた時も頬にキスするのが精一杯の純真な少年だったのに……キスマークつけるとかどこで覚えたの?!
――でもそういえば初めて会った時から抱きしめてきて、ぐいぐい来て……ゲームの殿下とは別人だったかも。
「ねえアン、やっぱり王宮で暮らそう」
耳元で声が響く。
「街でもどこでも行きたいところに連れて行く。だから早く、結婚しよう」
「……フレデリク様」
私は口を開いた。
「フレデリク様が結婚したいのは『リリアン』ですよね」
「そうだよ」
「でも、この身体は『マリアンヌ』のもので……いつかはマリアンヌの魂が戻ってくるでしょう」
私はそれまで、この身体を借りているに過ぎない。
「その時に……フレデリク様はマリアンヌのことを大切にしてくださいますか」
「どうしてそういうことを言うの?」
ぐ、と殿下は強く私を抱きしめた。
「僕が結婚するのはリリアンだ。ずっと、一生。リリアンだけだ」
「でも私は……」
「僕はずっと、リリアンだけが好きだったんだ。どうして……アンは僕を受け入れてくれないの」
それは……だってこの身体はマリアンヌのものだから。
私はずっとここにいてはいけない存在なのだ。
「僕はアンと生きる。何十年も、ずっと一緒だよ」
強い意志を込めた声に、私はそれ以上言い返す事はできなかった。
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