32 / 66
第4章 黒魔術
11
しおりを挟む
「マリアンヌ様、あの侍従の人には近づかない方がいいです」
医務室から出てしばらく歩くとシャルロットが口を開いた。
「あら、どうして?」
「あの人絶対マリアンヌ様のこと、狙ってますよ」
「……ええ?!」
セベリノさんが? 私を?
「昼に倒れたマリアンヌ様を医務室まで運ぶ間、ずっとにやけた顔でマリアンヌ様のこと見てたんですよ。それにさっきだって、距離が近過ぎです」
「それで決めつけるのは……。それに私、おばあちゃんなのに」
セベリノさんは私がマリアンヌの祖母だと知っている。
まだ二十代前半だろう、若くて見目もいいし、王家の黒魔術師という肩書のセベリノさんなのだ、私なんかに興味を持たなくてもモテるだろうに。
「マリアンヌ様に関しては中身の年齢は気にならないと思いますよ。むしろ元のマリアンヌ様より精神年齢は低くなってるんじゃないですか」
「ええ……」
そうなの?!
「ともかくミジャン王国とは関わりにならない方がいいですって。どうして殿下が留学してるか知ってます?」
「後継争いに巻き込まれないためよね」
「それも一つですけど。ゲームで命を狙われていたと言ったでしょう」
「ええ」
「そうやって自分の命を狙う兄弟を、逆に暗殺するために黒魔術師を探しにこの国へ来たんですよ」
暗殺?
でも王族に術を使うのは禁じられているって……そうか、セベリノさんにはできないから別の人を探しに来たのかしら。
「……それが殿下の伯母様?」
「ゲームでは具体的な名前は出てきませんでしたけどね。結局見つからなかったですし」
「まあ、伯母様は見つからなかったの……」
それじゃあマリアンヌに術をかけた相手も分からないということ?
「兄弟で殺し合うような物騒な国なんです。関わると危険です」
「――でもそういう兄弟での争いは、よくあることではないの?」
今の国王も、先代も王妃一人だけだしそういった争いは聞いたことはないけれど。
側室がいる時には色々――それこそ死人がでることもあったと聞いたことがある。
それは王家だけではなくて貴族の間でもそうだ。
「うちも、祖母が祖父の愛人を抹殺したことがあると聞いたわ」
「抹殺……」
シャルロットは顔を引きつらせた。
「領地に、生まれた子供と一緒に閉じ込めていたという塔があって。幽霊が出るから近づいてはいけないと言われていたわ」
森の側にあった塔は昼間でも陰気な空気に包まれていて、言われなくても怖くて近づけなかった。
「……その子供はどうしたんです?」
「祖父の子、私の父には他に兄弟はいなかったから、養子に出されたかあるいは……」
その辺は言葉を濁されて教えてもらえなかったから分からないけれど。
「うわあ……」
シャルロットがドン引きしている。
「でもそういう話はどの家でも一つや二つ、あるはずよ」
「貴族ってやっぱり怖い……」
「貴族にとって、誰が家を継ぐのかはとても大事だから。どうしても争いは起きてしまうわね」
「……そうやって受け入れるマリアンヌ様も怖いです」
シャルロットはそう言って息を吐いた。
「貴族としてはよくあることでも、元日本人として抵抗はないんですか?」
「そうねえ。でも前世でも、曽祖父がお妾さんを囲っていたり祖父が芸者さんの面倒を見ていた話は聞いていたから。正妻との間に色々あったそうよ」
「うわあ。って前世からお嬢様ですか!」
「昔の話よ。父親は普通の会社員だったし」
「いやそれきっと普通の感覚が庶民じゃないですよね。小学校から大学までエスカレーター式だったとか」
「あらどうして分かるの?」
「くっ……やっぱり前世からのお嬢か」
「そうなのかしら?」
学校の友人も普通の家の……でもそう言われると『普通』が分からなくなってくる。
「やっぱり私には貴族とかそういう世界は無理そうです」
はあ、とシャルロットはもう一度大きくため息をついた。
医務室から出てしばらく歩くとシャルロットが口を開いた。
「あら、どうして?」
「あの人絶対マリアンヌ様のこと、狙ってますよ」
「……ええ?!」
セベリノさんが? 私を?
「昼に倒れたマリアンヌ様を医務室まで運ぶ間、ずっとにやけた顔でマリアンヌ様のこと見てたんですよ。それにさっきだって、距離が近過ぎです」
「それで決めつけるのは……。それに私、おばあちゃんなのに」
セベリノさんは私がマリアンヌの祖母だと知っている。
まだ二十代前半だろう、若くて見目もいいし、王家の黒魔術師という肩書のセベリノさんなのだ、私なんかに興味を持たなくてもモテるだろうに。
「マリアンヌ様に関しては中身の年齢は気にならないと思いますよ。むしろ元のマリアンヌ様より精神年齢は低くなってるんじゃないですか」
「ええ……」
そうなの?!
「ともかくミジャン王国とは関わりにならない方がいいですって。どうして殿下が留学してるか知ってます?」
「後継争いに巻き込まれないためよね」
「それも一つですけど。ゲームで命を狙われていたと言ったでしょう」
「ええ」
「そうやって自分の命を狙う兄弟を、逆に暗殺するために黒魔術師を探しにこの国へ来たんですよ」
暗殺?
でも王族に術を使うのは禁じられているって……そうか、セベリノさんにはできないから別の人を探しに来たのかしら。
「……それが殿下の伯母様?」
「ゲームでは具体的な名前は出てきませんでしたけどね。結局見つからなかったですし」
「まあ、伯母様は見つからなかったの……」
それじゃあマリアンヌに術をかけた相手も分からないということ?
「兄弟で殺し合うような物騒な国なんです。関わると危険です」
「――でもそういう兄弟での争いは、よくあることではないの?」
今の国王も、先代も王妃一人だけだしそういった争いは聞いたことはないけれど。
側室がいる時には色々――それこそ死人がでることもあったと聞いたことがある。
それは王家だけではなくて貴族の間でもそうだ。
「うちも、祖母が祖父の愛人を抹殺したことがあると聞いたわ」
「抹殺……」
シャルロットは顔を引きつらせた。
「領地に、生まれた子供と一緒に閉じ込めていたという塔があって。幽霊が出るから近づいてはいけないと言われていたわ」
森の側にあった塔は昼間でも陰気な空気に包まれていて、言われなくても怖くて近づけなかった。
「……その子供はどうしたんです?」
「祖父の子、私の父には他に兄弟はいなかったから、養子に出されたかあるいは……」
その辺は言葉を濁されて教えてもらえなかったから分からないけれど。
「うわあ……」
シャルロットがドン引きしている。
「でもそういう話はどの家でも一つや二つ、あるはずよ」
「貴族ってやっぱり怖い……」
「貴族にとって、誰が家を継ぐのかはとても大事だから。どうしても争いは起きてしまうわね」
「……そうやって受け入れるマリアンヌ様も怖いです」
シャルロットはそう言って息を吐いた。
「貴族としてはよくあることでも、元日本人として抵抗はないんですか?」
「そうねえ。でも前世でも、曽祖父がお妾さんを囲っていたり祖父が芸者さんの面倒を見ていた話は聞いていたから。正妻との間に色々あったそうよ」
「うわあ。って前世からお嬢様ですか!」
「昔の話よ。父親は普通の会社員だったし」
「いやそれきっと普通の感覚が庶民じゃないですよね。小学校から大学までエスカレーター式だったとか」
「あらどうして分かるの?」
「くっ……やっぱり前世からのお嬢か」
「そうなのかしら?」
学校の友人も普通の家の……でもそう言われると『普通』が分からなくなってくる。
「やっぱり私には貴族とかそういう世界は無理そうです」
はあ、とシャルロットはもう一度大きくため息をついた。
11
お気に入りに追加
706
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる