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第4章 黒魔術

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「マリアンヌ様、あの侍従の人には近づかない方がいいです」
医務室から出てしばらく歩くとシャルロットが口を開いた。

「あら、どうして?」
「あの人絶対マリアンヌ様のこと、狙ってますよ」
「……ええ?!」
セベリノさんが? 私を?

「昼に倒れたマリアンヌ様を医務室まで運ぶ間、ずっとにやけた顔でマリアンヌ様のこと見てたんですよ。それにさっきだって、距離が近過ぎです」
「それで決めつけるのは……。それに私、おばあちゃんなのに」
セベリノさんは私がマリアンヌの祖母だと知っている。
まだ二十代前半だろう、若くて見目もいいし、王家の黒魔術師という肩書のセベリノさんなのだ、私なんかに興味を持たなくてもモテるだろうに。

「マリアンヌ様に関しては中身の年齢は気にならないと思いますよ。むしろ元のマリアンヌ様より精神年齢は低くなってるんじゃないですか」
「ええ……」
そうなの?!
「ともかくミジャン王国とは関わりにならない方がいいですって。どうして殿下が留学してるか知ってます?」
「後継争いに巻き込まれないためよね」
「それも一つですけど。ゲームで命を狙われていたと言ったでしょう」
「ええ」
「そうやって自分の命を狙う兄弟を、逆に暗殺するために黒魔術師を探しにこの国へ来たんですよ」

暗殺?
でも王族に術を使うのは禁じられているって……そうか、セベリノさんにはできないから別の人を探しに来たのかしら。
「……それが殿下の伯母様?」
「ゲームでは具体的な名前は出てきませんでしたけどね。結局見つからなかったですし」
「まあ、伯母様は見つからなかったの……」
それじゃあマリアンヌに術をかけた相手も分からないということ?


「兄弟で殺し合うような物騒な国なんです。関わると危険です」
「――でもそういう兄弟での争いは、よくあることではないの?」
今の国王も、先代も王妃一人だけだしそういった争いは聞いたことはないけれど。
側室がいる時には色々――それこそ死人がでることもあったと聞いたことがある。
それは王家だけではなくて貴族の間でもそうだ。
「うちも、祖母が祖父の愛人を抹殺したことがあると聞いたわ」

「抹殺……」
シャルロットは顔を引きつらせた。

「領地に、生まれた子供と一緒に閉じ込めていたという塔があって。幽霊が出るから近づいてはいけないと言われていたわ」
森の側にあった塔は昼間でも陰気な空気に包まれていて、言われなくても怖くて近づけなかった。
「……その子供はどうしたんです?」
「祖父の子、私の父には他に兄弟はいなかったから、養子に出されたかあるいは……」
その辺は言葉を濁されて教えてもらえなかったから分からないけれど。

「うわあ……」
シャルロットがドン引きしている。
「でもそういう話はどの家でも一つや二つ、あるはずよ」
「貴族ってやっぱり怖い……」
「貴族にとって、誰が家を継ぐのかはとても大事だから。どうしても争いは起きてしまうわね」
「……そうやって受け入れるマリアンヌ様も怖いです」
シャルロットはそう言って息を吐いた。
「貴族としてはよくあることでも、元日本人として抵抗はないんですか?」

「そうねえ。でも前世でも、曽祖父がお妾さんを囲っていたり祖父が芸者さんの面倒を見ていた話は聞いていたから。正妻との間に色々あったそうよ」
「うわあ。って前世からお嬢様ですか!」
「昔の話よ。父親は普通の会社員だったし」
「いやそれきっと普通の感覚が庶民じゃないですよね。小学校から大学までエスカレーター式だったとか」
「あらどうして分かるの?」

「くっ……やっぱり前世からのお嬢か」
「そうなのかしら?」
学校の友人も普通の家の……でもそう言われると『普通』が分からなくなってくる。


「やっぱり私には貴族とかそういう世界は無理そうです」
はあ、とシャルロットはもう一度大きくため息をついた。
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