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第4章 黒魔術
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「マリアンヌ様!」
グラリと揺れた耳にシャルロットの叫び声が響く。
「何するんですか!」
よろめいた私の身体を抱き止めて、シャルロットが侍従を睨みつけた。
「申し訳ございません。まさかこういう反応が返ってくるとは思いませんでした」
「セベリノ、今のは何だ」
頭を下げた侍従にアドリアン殿下が声を掛けた。
「はい。マリアンヌ様に術がかけられているのは確かですね。私の術が弾かれました」
「術?」
「黒魔術です」
私をじっと見つめて、セベリノと呼ばれた侍従が言った。
「え……」
黒魔術?
私……マリアンヌに?
「ですが、どうも奇妙ですね」
「奇妙とは」
「マリアンヌ様にかけられた術に弾かれたのとはまた別の、遮る感覚がありました」
尋ねた殿下にセベリノさんが答えた。
「どういうことだ」
「そうですね……失礼、もう一度よろしいですか」
再び手を伸ばしてきたセベリノさんから庇うように、シャルロットが私の身体を引き寄せた。
「いきなり何なんですか! 危ないし失礼です!」
――怒ってくれるのは嬉しいけれど、おそらく貴族であろう、他国の王子の侍従に向かって怒るのも失礼になるのでは。
ハラハラしてしまう私をよそに、シャルロットは相手を強く睨みつけた。
「すまぬな、だがこちらにも事情があってな」
けれどシャルロットの態度に怒ることもなく、アドリアン殿下は謝罪の言葉を口にした。
「事情ってなんですか」
「黒魔術師を探していてな、その手がかりになるかと思ったのだ」
「黒魔術師?」
「私の伯母だ」
「殿下の伯母様、ですか」
「優秀な黒魔術師だったが、故あって今はこの国に暮らしているらしいのだ」
らしい……ということは居場所が分からないのかしら。
「その人とマリアンヌ様と、どう関係があるのですか」
「それは分からぬが、この国に黒魔術師はいないと聞く。マリアンヌ嬢に黒魔術をかけた者が本人なのか縁がある者なのか知りたいのだ」
「私の術を弾くということは相当な力の持ち主ですね」
セベリノさんが言葉を続けた。
「関わりがあるのは間違いないでしょう」
「どうして……私に黒魔術が」
「それも調べたいのだが」
アドリアン殿下の、琥珀色の鋭い眼差しが私を射抜くように見つめる。
「マリアンヌ嬢はまだ記憶は戻らぬのか」
「……はい……」
「記憶――そうか」
セベリノさんが呟くと私へと向いた。
「あの遮るような感覚は、記憶……いや、魂の違和感か」
「え?」
「マリアンヌ様の魂と身体が……いや、貴女はマリアンヌ様ではありませんね」
黒い瞳がじっと私を見つめた。
「……黒魔術ってそんなことも分かるの?」
「え、ちょっとマリアンヌ様」
そう口にすると、シャルロットが私の服の裾を慌てて引いた。
「なに認めてるんですか!」
「え……だって別人だって分かってしまったのでしょう」
「そうですけど! そこは一度否定するなりして駆け引きしないと」
「駆け引き?」
何のために? どうやって?
「別人とはどういうことだ」
アドリアン殿下が眉をひそめて私を見た。
「え、あの、ええと……」
「魂の違和感って、どういうことですか」
私が言い淀んでいると、シャルロットがセベリノさんを見て尋ねた。
「肉体と魂の結びつき方で、その者が病にかかっていたり呪われているのを知ることができます。ですがマリアンヌ様の魂はそれらの状態と異なり、身体に馴染んでいないというか異質な魂が入っているように感じます」
セベリノさんが答えた。
そんなことが分かるの?!
「ですが、全く別人というわけでもなさそうですし……」
「――それは血は繋がっているからかしら?」
「だから黙りましょうかマリアンヌ様」
思わず口にするとシャルロットに睨まれた。
ひどい……だって本当のことじゃない。
「つまり、貴女は何者だ?」
アドリアン殿下が私を見た。
「……ええと、私は……」
ちらとシャルロットを見ると、呆れたような顔をしていた。
――これはあれね、仕方ないということよね。
「マリアンヌの祖母のリリアンです」
二人に向かって私は名乗った。
グラリと揺れた耳にシャルロットの叫び声が響く。
「何するんですか!」
よろめいた私の身体を抱き止めて、シャルロットが侍従を睨みつけた。
「申し訳ございません。まさかこういう反応が返ってくるとは思いませんでした」
「セベリノ、今のは何だ」
頭を下げた侍従にアドリアン殿下が声を掛けた。
「はい。マリアンヌ様に術がかけられているのは確かですね。私の術が弾かれました」
「術?」
「黒魔術です」
私をじっと見つめて、セベリノと呼ばれた侍従が言った。
「え……」
黒魔術?
私……マリアンヌに?
「ですが、どうも奇妙ですね」
「奇妙とは」
「マリアンヌ様にかけられた術に弾かれたのとはまた別の、遮る感覚がありました」
尋ねた殿下にセベリノさんが答えた。
「どういうことだ」
「そうですね……失礼、もう一度よろしいですか」
再び手を伸ばしてきたセベリノさんから庇うように、シャルロットが私の身体を引き寄せた。
「いきなり何なんですか! 危ないし失礼です!」
――怒ってくれるのは嬉しいけれど、おそらく貴族であろう、他国の王子の侍従に向かって怒るのも失礼になるのでは。
ハラハラしてしまう私をよそに、シャルロットは相手を強く睨みつけた。
「すまぬな、だがこちらにも事情があってな」
けれどシャルロットの態度に怒ることもなく、アドリアン殿下は謝罪の言葉を口にした。
「事情ってなんですか」
「黒魔術師を探していてな、その手がかりになるかと思ったのだ」
「黒魔術師?」
「私の伯母だ」
「殿下の伯母様、ですか」
「優秀な黒魔術師だったが、故あって今はこの国に暮らしているらしいのだ」
らしい……ということは居場所が分からないのかしら。
「その人とマリアンヌ様と、どう関係があるのですか」
「それは分からぬが、この国に黒魔術師はいないと聞く。マリアンヌ嬢に黒魔術をかけた者が本人なのか縁がある者なのか知りたいのだ」
「私の術を弾くということは相当な力の持ち主ですね」
セベリノさんが言葉を続けた。
「関わりがあるのは間違いないでしょう」
「どうして……私に黒魔術が」
「それも調べたいのだが」
アドリアン殿下の、琥珀色の鋭い眼差しが私を射抜くように見つめる。
「マリアンヌ嬢はまだ記憶は戻らぬのか」
「……はい……」
「記憶――そうか」
セベリノさんが呟くと私へと向いた。
「あの遮るような感覚は、記憶……いや、魂の違和感か」
「え?」
「マリアンヌ様の魂と身体が……いや、貴女はマリアンヌ様ではありませんね」
黒い瞳がじっと私を見つめた。
「……黒魔術ってそんなことも分かるの?」
「え、ちょっとマリアンヌ様」
そう口にすると、シャルロットが私の服の裾を慌てて引いた。
「なに認めてるんですか!」
「え……だって別人だって分かってしまったのでしょう」
「そうですけど! そこは一度否定するなりして駆け引きしないと」
「駆け引き?」
何のために? どうやって?
「別人とはどういうことだ」
アドリアン殿下が眉をひそめて私を見た。
「え、あの、ええと……」
「魂の違和感って、どういうことですか」
私が言い淀んでいると、シャルロットがセベリノさんを見て尋ねた。
「肉体と魂の結びつき方で、その者が病にかかっていたり呪われているのを知ることができます。ですがマリアンヌ様の魂はそれらの状態と異なり、身体に馴染んでいないというか異質な魂が入っているように感じます」
セベリノさんが答えた。
そんなことが分かるの?!
「ですが、全く別人というわけでもなさそうですし……」
「――それは血は繋がっているからかしら?」
「だから黙りましょうかマリアンヌ様」
思わず口にするとシャルロットに睨まれた。
ひどい……だって本当のことじゃない。
「つまり、貴女は何者だ?」
アドリアン殿下が私を見た。
「……ええと、私は……」
ちらとシャルロットを見ると、呆れたような顔をしていた。
――これはあれね、仕方ないということよね。
「マリアンヌの祖母のリリアンです」
二人に向かって私は名乗った。
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