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四幕目 2

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「いよいよ今日は神殿ですね」
「ああ」
馬車に乗り込んで振り返り、そう言うとアルフ様は頷いた。

約一カ月の旅だった。
長かったような…あっという間だったような。
アルフ様達が現れてから色々あったけれど、ようやく終わる。
———いや、これからの方が大変なんだろうけれど。
だけど少なくとも大きな問題の一つはこれで終わるはずだ。



聖なる神殿は麓に森や草原が広がる、静かな山の中にポツリとあるらしい。
———観光で来るようなところじゃないのね。
勝手に前世のヨーロッパの大聖堂みたいな賑やかな所を想像していたよ。

「ねえミア」
馬車を走らせているとアルフ様が声を掛けた。
「はい」
「……ミアは、僕の事どう思ってる?」
「えっ」
危うく手綱を落としそうになる。

「どうって…」
「元々神殿まで馬車を頼んだのは仕事としてだけれど、婚約者となって世話をしてくれて。危険な目に合うような事に巻き込んでしまって。…迷惑だったよね」
「いえっ迷惑だなんてそんな」
「だけど僕はミアに出会えて、こうやって一緒に旅ができた事がとても嬉しいんだ」
思わず振り返った。

「この一ヶ月間、楽しかった。———ミアも同じように思ってくれていたら嬉しいんだ」
私の方を向いてアルフ様は言った。


「…私も、アルフ様と出会えて、旅が出来て…楽しかったです」
顔が赤くなるのを感じながら私は答えた。
「本当に?」
「はい」
「———ミア、呪いが解けたら…」
ガクン、と馬車が大きく揺れた。

「っ」
思わず手綱を離してしまい———転がるように背後に倒れてしまった。
「ミア!」
ぶつかってきた私の身体をアルフ様が抱き止めた。
「何が…」
「ネーロ?!」
激しい揺れに、ネーロが急に速度を上げたのだと気付いた。

「ネーロ!どうしたの!」
「追っ手か?!」
アルフ様の言葉にハッとして、背後を振り返る。
「あ…馬と…兵士?!」
背後からこちらに向かってくる複数の馬が見えた。
その上に乗る者の腰に剣が下がっているように見える。

「何頭だ」
「え…と、五…六?」
激しい揺れに目眩がしそうになりながらも目を凝らす。
「やはり来たか」
私を抱きしめてアルフ様が呟いた。
「ジュード達の姿は見えないか?」
「…まだ…」
「———ネーロは手綱なしで走っているのか」
「はい…でもネーロなら…大丈夫です」
「え?」
「私が指示しなくても…全部出来る子なので」
そう、無人の馬車は怪しがられるから一応御者台に座るけれど。
実はいつも基本ネーロにお任せなのだ。

「ネーロ!神殿はあの森の向こうだから急いで…!」
私の言葉に馬車がさらに速度を上げた。

前方に森が見える。
その奥…山の途中に白い建物のようなものが見える。
きっとあれが聖なる神殿———


「ミア、後ろの様子は」
背後を振り返る。
「…距離が近づいて———あ」
「ミア?」
「あれは…ジュードさん?!」
追ってくる一団の更に後ろから、複数の馬が見えた。
その先頭は遠目からでも見覚えのある顔だった。

戦闘が始まった。
剣がぶつかる音が聞こえる。
どうしよう。
ええと…そうだ荷台を捨ててネーロに…でもどうやって?!
馬車を止めたら捕まっちゃう!

「…ミア嬢!」
突然の声が聞こえて頭を振る。
「カーティスさん!」
「森に入ったら一度止まれ!」
いつの間にか馬に乗ったカーティスさんが馬車に並走するように走っていた。


森まで来るとネーロは止まった。
急いでアルフ様を下ろして自分も下りようとすると…思わず地面にへたり込んでしまった。
「ミア」
アルフ様が私の腕を掴む。
「…大丈夫?」
「は、い」
「ごめん。怖いよね」
怖い…そうか怖いのか。

「急げ!」
顔を上げるとカーティスさんがネーロと馬車を繋ぐ横棒を外していた。
そうだ…怖がっている場合じゃない。
何とか立ち上がって…足が震えるのを堪えてネーロの側へ行く。
アフル様が先に跨り、カーティスさんに乗せてもらう。

「カーティス、あれは侯爵家の手の者か。何人いる」
アルフ様が尋ねた。
「は。ジュード達が相手にしているのは六名。まだ他にもいる可能性が」
「わかった。お前は背後を守れ」
私の腰に手を回してアルフ様が手綱を握った。

「ネーロ、任せたぞ。とにかく神殿へ突っ走れ!」
アルフ様の声に嘶くとネーロは走り出した。
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