370 / 375
2-2
しおりを挟む
2―2
垣ノ島で久慈村などの人たちを降ろし、代表者が垣ノ島の酋長のニウさんと挨拶を交わした。
「ほう。是川よりも南にも、人は住んでいたのか」
ニウさんは冗談を言いつつ、皆を歓待した。
「俺たちは明日、入江に向かいます」
お父さんはそう言って、ニウさんに話をつけた。
「垣ノ島も大船村も、他の村も交流が活発になってきた。ただ、海が温かくなったせいかヒグマも活発に動くようになった。村の外には出ないよう、注意しておいてくれ」
ニウさんの言葉にお父さんは頷き、皆に告げた。
「カラさん。ヒグマと僕たちの村に出る熊は違うんですか?」
ウルから尋ねられ、僕は入江で聞いたヒグマの話を口にした。
「うーん、大きいと強いんですか?」
ウルはいまいち、よくわかっていないような顔をした。
「見ればわかると言いたいが、見たくはないって感じだな」
垣ノ島の人が話に加わり、ウルは夜中に、僕にくっつく様にして眠りについた。
次の日の朝、僕は腕の痛みで目が覚めた。三内から渡島まで櫂を漕いだ疲れと、ウルが僕の腕に絡みつく様にして眠っていたからだ。
「ウル、そろそろ起きて」
僕が寝ているウルの頬を優しく叩いても、ウルは熟睡していた。
「ウル。朝ごはんが食べられなくなるよ?」
僕が冗談半分に言うと、なんとウルはすぐに目を見開いた。
「え、僕の分は?」
ウルの大きな声で、他の大人たちやマオとカオも起きだした。
「なぁに、ウルの分は無いよ?」
「ウルには遠いもんね」
マオとカオも寝ぼけているようで、話がかみ合っていなかった。
「え、ご飯は山の上で食べるんですか?」
僕は寝ぼけているウルとマオとカオを手で押しつつ、海で顔を洗わせた。
久慈村を含む周辺の人たちとはここで別れ、僕たちは入江へと船を漕いだ。
「寒いですね」
装飾品を身体に蒔きつけてあるウルが、風で髪の毛を扇がれながら呟いた。
「ウルは寒がりだっけ?」
櫂を漕ぎながら尋ねると、ウルは「冬に産まれたから、寒いのは平気だってキンさんは言っていたのになぁ」と、腑に落ちない顔で答えた。
「そう言えば、ヨウは大雨の日に産まれたって聞いたな」
「あ、だから泳ぎが得意なんでしょうか?」
僕は大雨と泳ぎの事に、何か関係があるのだろうかと考えた。
「ウル、船酔いはしないの?」
僕が思いだした様に尋ねると、ウルは「全くしません」と答えた。
「うーん、冬に産まれた子は船酔いしないのかもね」
僕が冗談で言うと、ウルは自分の手を叩いた。
「ヤンさんも、冬に産まれたって言っていました」
僕はウルと、他愛も無い話をしながら入江へと向かった。当分、ウルと話せる機会が無いからだ。
入江に着くと、僕はお父さんと一緒に、ヌイさんに入江に留まる事を許可してもらうお願いをしに行った。
「カラは、もう一人前に仕事が出来ます。そして、責任をとれる子供だと、親馬鹿と言われるかもしれませんが、俺は思っています」
お父さんが言い終えると、僕も続けて「お願いします」と言い、頭を下げた。
「構わんよ。ハムから聞いておる。自分は嫌いだが、狩猟や漁、病人への看護が上手いとな」
ヌイさんは笑いつつ、隣にいたモニさんに「いいよな?」と尋ね、モニさんも「構わないけど」と言ったが、少し不安そうな顔つきだった。
「カラ、あなたはもしもの時の事を考えて、受け入れられる覚悟があるかしら?」
モニさんから尋ねられ、僕は「あります」と、悲しさを交えながら、力強く頷いた。
「モニ。カラは聞かれなくとも、覚悟の上で来たはずじゃ」
ヌイさんがモニさんの肩に優しく手を置き、モニさんは「わかっているんだけど」と、納得しきれていないような口調だった。
「レイは、冬を越せると思いますか?」
僕が率直に尋ねると、ヌイさんが口を開いた。
「風邪をひけば、終わりかもしれん。最近、喋ると痰が絡まって息がし辛い時があると聞いた。風邪をひけば、痰だけでなく咳も出る」
ヌイさんの言葉に、僕は覚悟していたつもりだったのだが、つもりだった気分になってきた。
「今なら、帰れるぞ?」
お父さんの声が聞こえたけれど、僕は首を横に振った。
「僕は帰らない。逃げない。僕はレイのためもあるけど、自分のために残りたい。僕とレイは、親友だから」
僕が言い終えると、モニさんは「それなら、もう何も言わないわ」と言い、僕の頭を優しく撫でた。
「今の班長はムウだ。レイと一緒にいるのは構わないが、子供の仕事もしてもらう事になる。ムウと、相談してやりなさい」
ヌイさんはそう言って、是川から持ってきた交易品を見に行った。
しばらくして、ハムさんとムウに抱えられたレイが、サキさんと一緒にやってきた。
「レイ、僕は一緒に冬を越すよ」
僕がレイに向かって言うと、レイは少し何かを考え、悲観する様な顔をしてから、無理やり造った様な笑顔で「よろしくね」と、僕に言った。
垣ノ島で久慈村などの人たちを降ろし、代表者が垣ノ島の酋長のニウさんと挨拶を交わした。
「ほう。是川よりも南にも、人は住んでいたのか」
ニウさんは冗談を言いつつ、皆を歓待した。
「俺たちは明日、入江に向かいます」
お父さんはそう言って、ニウさんに話をつけた。
「垣ノ島も大船村も、他の村も交流が活発になってきた。ただ、海が温かくなったせいかヒグマも活発に動くようになった。村の外には出ないよう、注意しておいてくれ」
ニウさんの言葉にお父さんは頷き、皆に告げた。
「カラさん。ヒグマと僕たちの村に出る熊は違うんですか?」
ウルから尋ねられ、僕は入江で聞いたヒグマの話を口にした。
「うーん、大きいと強いんですか?」
ウルはいまいち、よくわかっていないような顔をした。
「見ればわかると言いたいが、見たくはないって感じだな」
垣ノ島の人が話に加わり、ウルは夜中に、僕にくっつく様にして眠りについた。
次の日の朝、僕は腕の痛みで目が覚めた。三内から渡島まで櫂を漕いだ疲れと、ウルが僕の腕に絡みつく様にして眠っていたからだ。
「ウル、そろそろ起きて」
僕が寝ているウルの頬を優しく叩いても、ウルは熟睡していた。
「ウル。朝ごはんが食べられなくなるよ?」
僕が冗談半分に言うと、なんとウルはすぐに目を見開いた。
「え、僕の分は?」
ウルの大きな声で、他の大人たちやマオとカオも起きだした。
「なぁに、ウルの分は無いよ?」
「ウルには遠いもんね」
マオとカオも寝ぼけているようで、話がかみ合っていなかった。
「え、ご飯は山の上で食べるんですか?」
僕は寝ぼけているウルとマオとカオを手で押しつつ、海で顔を洗わせた。
久慈村を含む周辺の人たちとはここで別れ、僕たちは入江へと船を漕いだ。
「寒いですね」
装飾品を身体に蒔きつけてあるウルが、風で髪の毛を扇がれながら呟いた。
「ウルは寒がりだっけ?」
櫂を漕ぎながら尋ねると、ウルは「冬に産まれたから、寒いのは平気だってキンさんは言っていたのになぁ」と、腑に落ちない顔で答えた。
「そう言えば、ヨウは大雨の日に産まれたって聞いたな」
「あ、だから泳ぎが得意なんでしょうか?」
僕は大雨と泳ぎの事に、何か関係があるのだろうかと考えた。
「ウル、船酔いはしないの?」
僕が思いだした様に尋ねると、ウルは「全くしません」と答えた。
「うーん、冬に産まれた子は船酔いしないのかもね」
僕が冗談で言うと、ウルは自分の手を叩いた。
「ヤンさんも、冬に産まれたって言っていました」
僕はウルと、他愛も無い話をしながら入江へと向かった。当分、ウルと話せる機会が無いからだ。
入江に着くと、僕はお父さんと一緒に、ヌイさんに入江に留まる事を許可してもらうお願いをしに行った。
「カラは、もう一人前に仕事が出来ます。そして、責任をとれる子供だと、親馬鹿と言われるかもしれませんが、俺は思っています」
お父さんが言い終えると、僕も続けて「お願いします」と言い、頭を下げた。
「構わんよ。ハムから聞いておる。自分は嫌いだが、狩猟や漁、病人への看護が上手いとな」
ヌイさんは笑いつつ、隣にいたモニさんに「いいよな?」と尋ね、モニさんも「構わないけど」と言ったが、少し不安そうな顔つきだった。
「カラ、あなたはもしもの時の事を考えて、受け入れられる覚悟があるかしら?」
モニさんから尋ねられ、僕は「あります」と、悲しさを交えながら、力強く頷いた。
「モニ。カラは聞かれなくとも、覚悟の上で来たはずじゃ」
ヌイさんがモニさんの肩に優しく手を置き、モニさんは「わかっているんだけど」と、納得しきれていないような口調だった。
「レイは、冬を越せると思いますか?」
僕が率直に尋ねると、ヌイさんが口を開いた。
「風邪をひけば、終わりかもしれん。最近、喋ると痰が絡まって息がし辛い時があると聞いた。風邪をひけば、痰だけでなく咳も出る」
ヌイさんの言葉に、僕は覚悟していたつもりだったのだが、つもりだった気分になってきた。
「今なら、帰れるぞ?」
お父さんの声が聞こえたけれど、僕は首を横に振った。
「僕は帰らない。逃げない。僕はレイのためもあるけど、自分のために残りたい。僕とレイは、親友だから」
僕が言い終えると、モニさんは「それなら、もう何も言わないわ」と言い、僕の頭を優しく撫でた。
「今の班長はムウだ。レイと一緒にいるのは構わないが、子供の仕事もしてもらう事になる。ムウと、相談してやりなさい」
ヌイさんはそう言って、是川から持ってきた交易品を見に行った。
しばらくして、ハムさんとムウに抱えられたレイが、サキさんと一緒にやってきた。
「レイ、僕は一緒に冬を越すよ」
僕がレイに向かって言うと、レイは少し何かを考え、悲観する様な顔をしてから、無理やり造った様な笑顔で「よろしくね」と、僕に言った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
An endless & sweet dream 醒めない夢 2024年5月見直し完了 5/19
設樂理沙
ライト文芸
息をするように嘘をつき・・って言葉があるけれど
息をするように浮気を繰り返す夫を持つ果歩。
そしてそんな夫なのに、なかなか見限ることが出来ず
グルグル苦しむ妻。
いつか果歩の望むような理想の家庭を作ることが
できるでしょうか?!
-------------------------------------
加筆修正版として再up
2022年7月7日より不定期更新していきます。
皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~
波月玲音
歴史・時代
六世紀初頭、皇統断絶の危機に実在した、手白香皇女(たしらかのひめみこ)が主人公です。
旦那さんは歳のうーんと離れた入り婿のくせに態度でかいし、お妃沢山だし、自分より年取った義息子がいるし、、、。
頼りにしていた臣下には裏切られるし、異母姉妹は敵対するし、、、。
そんな中で手白香皇女は苦労するけど、愛息子や色々な人が頑張ってザマァをしてくれる予定です(本当は本人にガツンとさせたいけど、何せファンタジーでは無いので、脚色にも限度が、、、)。
古代史なので資料が少ないのですが、歴史小説なので、作中出てくる事件、人、場所などは、出来るだけ史実を押さえてあります。
手白香皇女を皇后とした継体天皇、そしてその嫡子欽明天皇(仏教伝来時の天皇で聖徳太子のお祖父さん)の子孫が現皇室となります。
R15は保険です。
歴史・時代小説大賞エントリーしてます。
宜しければ応援お願いします。
普段はヤンデレ魔導師の父さまと愉快なイケメン家族に囲まれた元気な女の子の話を書いてます。
読み流すのがお好きな方はそちらもぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる