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2―2
 垣ノ島で久慈村などの人たちを降ろし、代表者が垣ノ島の酋長のニウさんと挨拶を交わした。
「ほう。是川よりも南にも、人は住んでいたのか」
ニウさんは冗談を言いつつ、皆を歓待した。
「俺たちは明日、入江に向かいます」
 お父さんはそう言って、ニウさんに話をつけた。
「垣ノ島も大船村も、他の村も交流が活発になってきた。ただ、海が温かくなったせいかヒグマも活発に動くようになった。村の外には出ないよう、注意しておいてくれ」
ニウさんの言葉にお父さんは頷き、皆に告げた。
「カラさん。ヒグマと僕たちの村に出る熊は違うんですか?」
ウルから尋ねられ、僕は入江で聞いたヒグマの話を口にした。
「うーん、大きいと強いんですか?」
 ウルはいまいち、よくわかっていないような顔をした。
「見ればわかると言いたいが、見たくはないって感じだな」
 垣ノ島の人が話に加わり、ウルは夜中に、僕にくっつく様にして眠りについた。
 次の日の朝、僕は腕の痛みで目が覚めた。三内から渡島まで櫂を漕いだ疲れと、ウルが僕の腕に絡みつく様にして眠っていたからだ。
「ウル、そろそろ起きて」
 僕が寝ているウルの頬を優しく叩いても、ウルは熟睡していた。
「ウル。朝ごはんが食べられなくなるよ?」
 僕が冗談半分に言うと、なんとウルはすぐに目を見開いた。
「え、僕の分は?」
 ウルの大きな声で、他の大人たちやマオとカオも起きだした。
「なぁに、ウルの分は無いよ?」
「ウルには遠いもんね」
 マオとカオも寝ぼけているようで、話がかみ合っていなかった。
「え、ご飯は山の上で食べるんですか?」
 僕は寝ぼけているウルとマオとカオを手で押しつつ、海で顔を洗わせた。
 久慈村を含む周辺の人たちとはここで別れ、僕たちは入江へと船を漕いだ。
「寒いですね」
 装飾品を身体に蒔きつけてあるウルが、風で髪の毛を扇がれながら呟いた。
「ウルは寒がりだっけ?」
 櫂を漕ぎながら尋ねると、ウルは「冬に産まれたから、寒いのは平気だってキンさんは言っていたのになぁ」と、腑に落ちない顔で答えた。
「そう言えば、ヨウは大雨の日に産まれたって聞いたな」
「あ、だから泳ぎが得意なんでしょうか?」
 僕は大雨と泳ぎの事に、何か関係があるのだろうかと考えた。
「ウル、船酔いはしないの?」
 僕が思いだした様に尋ねると、ウルは「全くしません」と答えた。
「うーん、冬に産まれた子は船酔いしないのかもね」
僕が冗談で言うと、ウルは自分の手を叩いた。
「ヤンさんも、冬に産まれたって言っていました」
 僕はウルと、他愛も無い話をしながら入江へと向かった。当分、ウルと話せる機会が無いからだ。
 入江に着くと、僕はお父さんと一緒に、ヌイさんに入江に留まる事を許可してもらうお願いをしに行った。
「カラは、もう一人前に仕事が出来ます。そして、責任をとれる子供だと、親馬鹿と言われるかもしれませんが、俺は思っています」
お父さんが言い終えると、僕も続けて「お願いします」と言い、頭を下げた。
「構わんよ。ハムから聞いておる。自分は嫌いだが、狩猟や漁、病人への看護が上手いとな」
 ヌイさんは笑いつつ、隣にいたモニさんに「いいよな?」と尋ね、モニさんも「構わないけど」と言ったが、少し不安そうな顔つきだった。
「カラ、あなたはもしもの時の事を考えて、受け入れられる覚悟があるかしら?」
 モニさんから尋ねられ、僕は「あります」と、悲しさを交えながら、力強く頷いた。
「モニ。カラは聞かれなくとも、覚悟の上で来たはずじゃ」
 ヌイさんがモニさんの肩に優しく手を置き、モニさんは「わかっているんだけど」と、納得しきれていないような口調だった。
「レイは、冬を越せると思いますか?」
 僕が率直に尋ねると、ヌイさんが口を開いた。
「風邪をひけば、終わりかもしれん。最近、喋ると痰が絡まって息がし辛い時があると聞いた。風邪をひけば、痰だけでなく咳も出る」
ヌイさんの言葉に、僕は覚悟していたつもりだったのだが、つもりだった気分になってきた。
「今なら、帰れるぞ?」
 お父さんの声が聞こえたけれど、僕は首を横に振った。
「僕は帰らない。逃げない。僕はレイのためもあるけど、自分のために残りたい。僕とレイは、親友だから」
 僕が言い終えると、モニさんは「それなら、もう何も言わないわ」と言い、僕の頭を優しく撫でた。
「今の班長はムウだ。レイと一緒にいるのは構わないが、子供の仕事もしてもらう事になる。ムウと、相談してやりなさい」
 ヌイさんはそう言って、是川から持ってきた交易品を見に行った。
しばらくして、ハムさんとムウに抱えられたレイが、サキさんと一緒にやってきた。
「レイ、僕は一緒に冬を越すよ」
 僕がレイに向かって言うと、レイは少し何かを考え、悲観する様な顔をしてから、無理やり造った様な笑顔で「よろしくね」と、僕に言った。

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