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三内には、太陽が完全に海に沈んでから着いた。もし、三内の人たちが焚火を焚いてくれていなかったら、何処に船をつければいいのかわからなったかもしれない。
「遅くはなったが、無事について良かった」
ヤンさんは呟きつつ、僕と一緒に荷を降ろし始めた。
「思ったより時間がかかりましたね。何だか、櫂が上手く動かせなかった気がします」
僕が荷を持ちながら言うと、お父さんも「そうだったな」と言い、頷いた。
「他の村の人が慣れていたなったせいじゃない。海流がいつもと少し違ったから、遅くなったんだ」
お父さんは、わざと大きな声で言った。初めて三内に行く人たちの中には、自分たちが操船に慣れていないせいだと思っている人たちがいたからだ。
「おーい、何処から来たんだ?」
遠くから男性の声が聞こえ、僕は「是川と久慈村、その周辺からです」と、聞き覚えのある声の主に向かって声を出した。
「ああ、カラか。これで最後になるかもしれないと思うと寂しいぞ」
ハキさんはかがり火を持ちつつ、近づいて来た。
「誰も怪我人はいないか?」
ハキさんはかがり火を自分の上に向け、ここにいる全員に火の光が当たる様にした。
「大丈夫です。誰も、怪我はしていません」
お父さんが皆を見渡す様に言うと、ハキさんは安堵の息を吐いた。
「それはよかった。少し、海流が乱れているって話を聞いているんだ。秋田から来た人は、いつもよりも海流が早過ぎて、櫂を動かさずに着けたって言っていたほどだ」
ハキさんはかがり火で僕たち一人ずつの顔を見渡しながら、「ま、冗談っぽかったけどな」と付け加えた。
「宿泊所は空いていますか?」
お父さんが荷を持ちつつ、ハキさんに尋ねた。
「いつも通りの満杯だ。だが、この時期に来る村はだいたい決まっているから、少しは空きがある」
ハキさんの言葉に、ウルは「横になれる?」と、疲れた顔と声で尋ねた。
「君みたいな子供なら、何人いても大丈夫なくらいだ」
ハキさんが答えると、ウルは安心した顔になった。
「よかった。でも、そんなに宿泊所って広いのかな?」
ウルの疑問に、僕は「宿泊所が広いのか、人間の数が多いのか。明日になればわかるよ」と言った。
宿泊所の入り口脇に荷物を置くと、ウルはすぐに横になった。
「人がたくさんいるみたいですね」
ウルはそう言うと、すぐに眠りについた。僕も疲れてはいたものの、夜中の宿泊所を立ったまま見た事はなかったので、少し辺りを見渡した。
「人は、眠らないと生きていけない生き物なんだよな」
僕が呟く様に言うと、マオとカオは「眠らない人間って、いると思うんですか?」と、眠たそうに尋ねてきた。
「いるかもしれないし、いないかもしれない。鳥の中には、夜中に狩りをする種類もいるんだ。もしかしたら、夜中に起きていて、昼間は眠っている人間もいるかもしれないね」
僕が二人に言うと、マオとカオはすでに眠っていた。
「俺は、いたら嬉しいな。昼は俺が漕いで、夜はそういう人たちに漕いでもらえば、ずっと船で移動が出来るさ」
ヤンさんは少し笑みを浮かべつつ、荷物を整理し始めた。かがり火が近いので、風で火の粉が当たらない場所に荷物を敷き詰めている。
「カラは、いてほしいか?」
お父さんは大人たちに寝る場所を指示しつつ、僕の耳に囁いてきた。
「うーん、いないでもいいかな」
僕の答えに、お父さんは少し驚いたようだった。
「どうしてだ。ヤンの様に、いたら面白いと思うと思ったんだが」
「だって、人間は朝になったら起きて、夜中に寝るのが自然的な生き方だと思うんだ。もちろん、そういう人たちがいたとしたら、その生き方を否定は出来ないけどね」
僕はお父さんに指示された場所に横になりつつ、宿泊所の天井を眺めた。
「もし、そういう人たちと仲良くなったら、人間は一日中行動出来ちゃう。そんな生き物はいない。ハウさんの言葉を借りるなら、自然に反するって言えると思うんだ」
僕が言い終えると、隣にお父さんも横になった。
「そうだな。こうやって、知らない人でもみんな一緒に眠る事も、交流の一つかもしれないな」
お父さんはそう言うと、すぐにいびきをかき始めた。
「でも、人の身体の上に手足を乗せるのは、争いの一つになるかもしれないんだよなぁ」
僕はさっそく乗っかってきた、お父さんの手を優しく押し戻しつつ、眠りについた。
次の日の朝、僕は人の足音で目が覚めた。宿泊所の入り口近くだったので、多くの人が出入りする足音が響いていた。
「えーと、僕はまだ夢を見ているのかな?」
ウルは人が通り過ぎる度に、目を泳がせていた。
「大丈夫だよ。外にはもっと驚く事があるから」
お父さんたちに荷を持つよう言われ、僕たちも荷を担ぎ、外に出た。
「え、人間しかいないの?」
ウルは目を丸くしながら、僕もかつて言っただろう、よくわからない感嘆の言葉を口にした。
三内には、太陽が完全に海に沈んでから着いた。もし、三内の人たちが焚火を焚いてくれていなかったら、何処に船をつければいいのかわからなったかもしれない。
「遅くはなったが、無事について良かった」
ヤンさんは呟きつつ、僕と一緒に荷を降ろし始めた。
「思ったより時間がかかりましたね。何だか、櫂が上手く動かせなかった気がします」
僕が荷を持ちながら言うと、お父さんも「そうだったな」と言い、頷いた。
「他の村の人が慣れていたなったせいじゃない。海流がいつもと少し違ったから、遅くなったんだ」
お父さんは、わざと大きな声で言った。初めて三内に行く人たちの中には、自分たちが操船に慣れていないせいだと思っている人たちがいたからだ。
「おーい、何処から来たんだ?」
遠くから男性の声が聞こえ、僕は「是川と久慈村、その周辺からです」と、聞き覚えのある声の主に向かって声を出した。
「ああ、カラか。これで最後になるかもしれないと思うと寂しいぞ」
ハキさんはかがり火を持ちつつ、近づいて来た。
「誰も怪我人はいないか?」
ハキさんはかがり火を自分の上に向け、ここにいる全員に火の光が当たる様にした。
「大丈夫です。誰も、怪我はしていません」
お父さんが皆を見渡す様に言うと、ハキさんは安堵の息を吐いた。
「それはよかった。少し、海流が乱れているって話を聞いているんだ。秋田から来た人は、いつもよりも海流が早過ぎて、櫂を動かさずに着けたって言っていたほどだ」
ハキさんはかがり火で僕たち一人ずつの顔を見渡しながら、「ま、冗談っぽかったけどな」と付け加えた。
「宿泊所は空いていますか?」
お父さんが荷を持ちつつ、ハキさんに尋ねた。
「いつも通りの満杯だ。だが、この時期に来る村はだいたい決まっているから、少しは空きがある」
ハキさんの言葉に、ウルは「横になれる?」と、疲れた顔と声で尋ねた。
「君みたいな子供なら、何人いても大丈夫なくらいだ」
ハキさんが答えると、ウルは安心した顔になった。
「よかった。でも、そんなに宿泊所って広いのかな?」
ウルの疑問に、僕は「宿泊所が広いのか、人間の数が多いのか。明日になればわかるよ」と言った。
宿泊所の入り口脇に荷物を置くと、ウルはすぐに横になった。
「人がたくさんいるみたいですね」
ウルはそう言うと、すぐに眠りについた。僕も疲れてはいたものの、夜中の宿泊所を立ったまま見た事はなかったので、少し辺りを見渡した。
「人は、眠らないと生きていけない生き物なんだよな」
僕が呟く様に言うと、マオとカオは「眠らない人間って、いると思うんですか?」と、眠たそうに尋ねてきた。
「いるかもしれないし、いないかもしれない。鳥の中には、夜中に狩りをする種類もいるんだ。もしかしたら、夜中に起きていて、昼間は眠っている人間もいるかもしれないね」
僕が二人に言うと、マオとカオはすでに眠っていた。
「俺は、いたら嬉しいな。昼は俺が漕いで、夜はそういう人たちに漕いでもらえば、ずっと船で移動が出来るさ」
ヤンさんは少し笑みを浮かべつつ、荷物を整理し始めた。かがり火が近いので、風で火の粉が当たらない場所に荷物を敷き詰めている。
「カラは、いてほしいか?」
お父さんは大人たちに寝る場所を指示しつつ、僕の耳に囁いてきた。
「うーん、いないでもいいかな」
僕の答えに、お父さんは少し驚いたようだった。
「どうしてだ。ヤンの様に、いたら面白いと思うと思ったんだが」
「だって、人間は朝になったら起きて、夜中に寝るのが自然的な生き方だと思うんだ。もちろん、そういう人たちがいたとしたら、その生き方を否定は出来ないけどね」
僕はお父さんに指示された場所に横になりつつ、宿泊所の天井を眺めた。
「もし、そういう人たちと仲良くなったら、人間は一日中行動出来ちゃう。そんな生き物はいない。ハウさんの言葉を借りるなら、自然に反するって言えると思うんだ」
僕が言い終えると、隣にお父さんも横になった。
「そうだな。こうやって、知らない人でもみんな一緒に眠る事も、交流の一つかもしれないな」
お父さんはそう言うと、すぐにいびきをかき始めた。
「でも、人の身体の上に手足を乗せるのは、争いの一つになるかもしれないんだよなぁ」
僕はさっそく乗っかってきた、お父さんの手を優しく押し戻しつつ、眠りについた。
次の日の朝、僕は人の足音で目が覚めた。宿泊所の入り口近くだったので、多くの人が出入りする足音が響いていた。
「えーと、僕はまだ夢を見ているのかな?」
ウルは人が通り過ぎる度に、目を泳がせていた。
「大丈夫だよ。外にはもっと驚く事があるから」
お父さんたちに荷を持つよう言われ、僕たちも荷を担ぎ、外に出た。
「え、人間しかいないの?」
ウルは目を丸くしながら、僕もかつて言っただろう、よくわからない感嘆の言葉を口にした。
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