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 僕の入江での滞在は、僕の思っていた以上に簡単に許された。子供達には僕から言ったが、ウルが「僕は、帰ってもいいよね?」と、不安げな言葉を口にした。
「残るのは僕だけだよ。でも、ウルは帰ってきたらみんなに、三内や入江の事を伝えられるようにしておくんだよ」
僕が言うと、ウルは安堵の息をついた。
「カラさん、僕が子供の班長をしておくので安心してください。みんな、泳げるように訓練をさせておきます」 
 ヨウが言うと、ズイとオクが後ずさりをした。
「ヨウ、ほどほどにね」
 僕は念のため、ジンさんにヨウがやり過ぎない様に頼もうかと思った。
 出発する当日、僕たちは久慈村にいた。
「バクがついて行かないよう、土器造りの場所に縛り付けておいた」
船の準備をしていた時にラドさんから言われ、僕は「バクさんなら、誰も文句は言わないと思いますよ?」と答えた。
「お前や入江の村の人は困らないだろうが、俺が困るんだ。今年は船造りを長くしていたから、男が土器造りをしていなくて、少し足りないんだ」
 僕はラドさんから、本当とも嘘ともつかない事を言われた。
普段は是川の海岸からだが、今回は久慈村から周辺の村の人と共に、三内に行く事になっている。
「あ、間にあってよかった。お腹が空いたら、これを食べてね」
いつの間にかバクさんがやって来て、焼いた栗の入っている籠を渡してくれた。
「バク、土器の火を見ているよう言わなかったか?」
「見てたよ。ついでに、何処に栗を置いておけば、弾けずに焼けるかどうかも確認していたよ。勿論、土器の焼き加減も大丈夫だよ」
バクさんはラドさんに笑顔で言い、ラドさんは「それならいいだけどさぁ」と、煮え切らない声を出した。
「カラ、お土産待ってるよ」
「お土産って、サキさんの作るアレですか?」
 僕が聞き返すと、バクさんは首を横に振った。
「仁斗田島に行った後の、ハムみたいな顔をお土産に待っているよ」
バクさんはそう言って、僕と固い握手を交わした。
「よし、船頭はヤンが行くから、他の慣れていない人は真ん中で、俺が最後尾で行くからな」
 お父さんが号令を出し、久慈村から出発した。
「どのくらいかかるんですか?」
 身体中に交易品を巻き付けたウルが、不安そうに尋ねてきた。
「途中で休憩を入れるから、太陽が海に沈む直前くらいに付くよ」
僕も櫂を持ち、船を漕ぎ始めた。初めて三内に行った時は、僕はウルと同じ恰好だった。でも今は、お父さんやヤンさんと同じように櫂を漕いでいる。
 僕は『立派な子供』になれただろうか。それとも、なりに行くのだろうか。そんな漠然とした浮遊感を感じつつ、僕は櫂を漕いだ。

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