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 僕は何か考え事や悩み事があると、浜辺に座っている事がある。いつだったか、ジンさんとキドさんにも言われた事だ。
 でも、今日は先客としてコシさんがいた。
「コシさん、悩みごとですか?」
 僕が尋ねると、コシさんはダロから舐められただろう顔を僕に向けた。
「そうだね」
 コシさんは元気が無く、いつになく小さく見えた。
「カラは、俺の事をどう思っている?」
 コシさんの表情は、まるで僕が7歳の時の頃の様な顔つきだった。
「どうって、立派に山仕事をこなしていると思いますけど」
 僕が答えると、コシさんは首にかけてある貝殻の装飾品を外した。
「俺はこれがないと、自信を持てないんだ。熊を夢中で追い払ってから、自分の中に自信が湧きあがったと思っていたんだ。でも、俺自身はこれが無いと、子供の頃のままの様な気がして・・」
コシさんは俯きつつ、手で貝殻を弄って音を鳴らした。
「やっぱり、俺はキドの様になれない。いつも、何処か不安なんだ」
僕はコシさんの言っている事が、何となく理解出来た。コシさんは、ある意味祀り上げられたような状態だ。貝殻の装飾品があれば、熊にも負けないという雰囲気が村の中にはある。
 しかし裏を返せば、貝殻の装飾品が無ければコシさんは子供の頃と同じように、弱腰のままだと思っているのだろう。
「コシさんは、その装飾品を捨てたいですか?」
 僕が尋ねると、コシさんは「うん、俺には重すぎるよ」と、本音の様に漏らした。
「コシさん。これはコシさんを馬鹿にしているわけではありませんが、少なくともキドさんやウドさん、ジンさんにイバさん、お兄ちゃんも僕も、コシさん一人だと猪などの獣は獲れないと思っています」
 僕が言うと、コシさんは「やっぱり、そうだよな」と、落ち込んだ声を出した。
「だから、誰もコシさん一人で狩猟に行かせようとしませんし、行かせる気もありません。みんなが助け合って生きていくんです。その装飾品が重いなら、キドさんにも持ってもらえばいいんですよ。一人で悩まないでください」
 僕がそう言うと、コシさんは「お前だって、一人で悩んでいるのが好きなくせに」と言いつつ、立ち上がった。
「そうだな。俺には頼れる兄がたくさんいるんだったな」
「はい」
 僕が頷くと、コシさんは村の中心に向かって大きな声を出した。
「キド、ちょっと来てくれないか?」
 コシさんが言うと、村の中から「お前が来いよ」と言う、キドさんの声が聞こえた。
「どうしようかな?」
 コシさんは苦笑しつつ、僕は「自分から行った方が、相談しやすいと思いますよ」と答えた。
「そうだね」
コシさんは自分に言い聞かせるように呟き、村の中に足を向けた。
「僕にも、お兄ちゃんやお父さん、お母さんがいるんだ」
僕も自分に言い聞かせるように呟いた。

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