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 ザシさんから「何処まで行っていたんだ?」という問いを受けつつ、僕たちは水を土器にいれ、途中で採ってきた食べられる植物を放り込んだ。
「足りないって事は無いが、滞在するならもっと持ってきた方がよかったかもな」
 ザシさんが食料を入れてきた籠の中身を見つつ、土器の中身をかき回し始めた。
「魚なら獲れるんじゃないですか?」
 ハムさんが大洞村の人から貰った釣り具を手に持ちつつ、僕たちに言った。
「うーん、大洞村の人は慣れているから簡単に使えるだろうけど、僕たちには無理じゃないかなぁ」
 僕が言うと、ハムさんは「珍しい。カラが弱気になるなんて」と言ってきた。僕は少しムッとしつつ、「誰でも簡単に魚が釣れるなら、苦労しませんよ」と言い返し、木の匙で土器の中身を盛っていった。
「確かに、知らない土地で、簡単に食料が調達できるなら、すでに多くの人が行き来しているはずだな。流浪しながらでも、飲食に困らないんだからな」
 ザシさんが口の中で咀嚼をしつつ、空を見上げた。ザシさんの目線の先には、是川ではあまり見かけない鳥が飛んでいた。
「それで、仁斗田島に住んでいる人たちは、ロウさんの事を覚えているんでしょうか?」
 ハムさんが今回の目的の、不安要素の一つを口にした。
「たぶん、としか言えない。俺が9歳の時、10年くらい前の話だからな。というかカラ、俺の事を元から是川の村に住んでいたと思っていたってアラから聞いたが、その時のお前は4歳だっただろ。その時の事を、覚えていなかったのか?」
 僕はアラさんに問われ、「実は、あまり覚えていないんです」と正直に答えた。
「覚えていないって、4歳の時だろ?」
 ハムさんにじっと見つめられ、僕は何となく顔が赤くなった。
「だって、その時の僕はお兄ちゃんよりも、ジンさんと一緒に遊んでいたから」
 僕の言葉を聞き、ザシさんとロウさんは「ああ」と、何かが分かった様な声を出した。
「そうだそうだ。ジンが『新しい弟が出来たみたいだ』って喜んでいたな」
 ザシさんが言うと、続けてロウさんも口を開いた。
「ああ、だからアラの機嫌が悪かったんだな。俺から蜂蜜を奪ったり、よそ者扱いをして意地悪をしたんだ」
 ロウさんは思い出したように笑い、僕の肩を少し乱暴に叩いた。
「へぇ。実の兄よりも、一緒にジンさんって人と遊んでいたんですね」
 ハムさんの視線が徐々に僕に近づき、僕はさっと目をそらした。
「カラがジンさんを独り占めするから、キドやコシが怒りだして、その度にカラはキノジイの所に逃げていったんだもんな?」
 ロウさんが僕のあまり思い出したくない、恥ずかしい昔の事を口にし、僕の顔はさらに赤くなった。
「そんなカラが、今や是川の村だけでなく久慈村やその周辺の村々、果ては入江の村まで巻き込んだ騒動を起こしているんだ。時が経つのは早いもんだ」
ザシさんがキノジイのような物言いで、僕の顔を見た。
 僕は三人に向かって何か反論しようとした時だった。ロウさんの顔色が変わり、海の向こうに視線を移した。
「どうしたんですか?」
 僕が尋ねると、ロウさんは「こっちからどう訪ねようと考えていたけれど、その手間が省けた」と言い、海の向こうを指した。
 そこには一艘の船がゆっくりと、明らかに僕たちに向かって動いていた。

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