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カラSide 3―1

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カラSide
 3―1
 大洞村に滞在して三日経ち、僕とロウさん、ザシさんとハムさんで仁斗田島に行く日となった。
「仁斗田島については、詳しくはわからない。人が住んでいるのは確かだが、交流を絶っているので、内情は不明だ」
 ワテさんは僕たちに、少し警戒する様に伝えてきた。
「別に、人間を食べているわけではないでしょう?」
 僕は冗談で言ったのだが、ワテさんは笑わずに「わからん」と、短く答えた。
「ま、いつでも逃げられる準備はしておこうか」
ハムさんはそう言いつつ、弓の矢を束にした。
「ロウさんの親類もいるみたいですし、大丈夫ですよ」
 僕が口を尖らせていると、ロウさんが僕の肩を叩いた。
「ハムの言う事ももっともだ。俺の家系や共に流浪した人たちは、土地や交流を持たずに生きていける『生き方』を試していたんだ。そして、俺の両親は『無理だ』と言って、集団から別れて是川に住むようになった。そして、俺たち家族から別れた集団は、土地を持たないという『生き方』を探していたはずなのに土地を持ち、仁斗田島に定住しているんだ。何か、訳があるに違いない」
ロウさんは少し、厳しい口調で僕に言った。
「でも、ロウさんはシイさんに会いたいんでしょ?」
 僕が言うと、ロウさんは「会いたいが、俺の知っているシイと違う人間になっているかもしれない」と言い出した。
「違うって、どういう事ですか?」
 僕が尋ねると、代わりにザシさんが口を開いた。
「俺とは、逆の様になっているかもしれないさ」
 ザシさんの言う『逆』とは、人と交流するようになったか、しないようになったかという事だろう。ザシさんは事故の悲しみから、長い間ふさぎ込んでいた。
「俺は是川で何があって、ザシさんたちに何があったのかもわからない。だが、仁斗田島に行く事で、一つの答えが見つかるかもしれない。だから、俺は行ってみたいと思ったんだ」
 ハムさんはそう言いつつ、弓の弦を確かめている。
「答えって、何ですか?」
「交流が無くても生きていけるか、生きていけないか。交流があるから人は争うのか。そして、入江ではこれからどうすればいいのかとか、色々だな。場合によっちゃ、レイの望む様な物事にならないかもしれないし、否定しなければならなくなるかもしれない。俺にとっても、辛い事だけどな」
 ハムさんはそう言って、荷物を船に乗せた。
「ハムさんは、レイに喜んで欲しいんですか?」
 僕が尋ねると、ハムさんは「同じ村の人間を、悲しませたい奴が何処にいる?」と、言葉を返してきた。
「俺は入江の代表なんだ。半端な気持ちで行くわけじゃない。俺の一言で全てが決まるという訳じゃないが、入江の将来がかかっていると言っていいんだ。それを、勘違いしないでくれ」
 ハムさんは少し怒ったような口様で僕に言い、船に乗り込んだ。
僕が少し唖然としていると、ザシさんに肩を叩かれた。
「ハムも不安なんだろう。何しろ一人で見知らぬ土地に行き、見聞きした物を全て入江に伝えなければならない。責任を重く感じているんだろう。もし、ハムが本当に村同士の交流が不要と考えているならば、仁斗田島に行く事なんてしないさ」
 僕はザシさんに言われ、ハムさんには多大な責任が、重くのしかかっている事に気がついた。
「僕はハムさんに自分の考えを分かってもらおうとばかり考えていました」
 僕は自分を恥じる様に言うと、今度はロウさんに肩を叩かれた。
「いいんだ。それに気がついただけで、カラは成長しているさ」
ロウさんは僕に言ってから、ハムさんの船に乗り込んだ。小型の船で、二艘で行くことになっている。
「さ、俺たちも行くぞ」
 僕はザシさんと共に船に乗り込み、お父さんやコシさんに船を押してもらい、船は海面を走り出した。
「必ず、帰って来いよ!」
 お父さんの声が聞こえ、僕は「必ず、戻るよ!」と返答した。
そして、僕たちは波に逆らわない様に、大洞村で教えてもらった櫂の漕ぎ方で海を進んだ。櫂を何度も違う動き方をさせなければならなかったので、時間の感覚が無くなりそうだった。

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