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 夕食後、僕は何となく浜辺で座り、海を眺めていた。明日は早いので、早く寝る様にお父さんから言われていたのだが、大洞村や仁斗田島に行けるという興奮で、目がさえていた。
「カラ、寝ないのか?」
 背後からラドさんが寄ってきて、僕の隣に座った。
「酋長就任、おめでとうございます」
 僕が言うと、ラドさんは「お前まで言うか」と言い、僕の頭を乱暴に撫でた。
 僕とラドさんはしばらく、二人で海を眺めていた。特に、気まずい感じはなかった。
「なあ、ちょっと独り言に付き合ってもらっていいか?」
 ラドさんに言われ、僕は何だろうと思いつつも、短く「はい」と答えた。
「俺はさ、バクと年が近かったせいもあって、いつもバクと一緒に組まされていたんだ。でも、俺はバクと一緒に組まされることが嫌だった。その頃のバクは今よりもずっとふらふらと歩きまわって、俺が目を離すと、いつの間にか居なくなっていて、俺も一緒に怒られる事もよくあったんだ」
 ラドさんは一度そこで、話を区切った。
「俺はバクと組まされるのが嫌だった。それを、一番理解しているのがバクだった。少しずつ、バクは俺に何も言わず、ただついて回るだけになった。俺はあまりの変わりように驚いて、バクに『どこかに行かないか?』って誘うと、バクは『ラドが怒られて、悲しむのを見たくない』って言ったんだ。能天気そうに、ただ笑っていただけだと思っていたバクが、俺の事を気にしていたんだ。俺はバクと一緒にいたから、バクの事を一番知っていると思っていたんだが、本当は一番知らなかったのかもしれない。俺は自分が怒られたりするのが嫌で、バクの事を見ていなかったんだ」
ラドさんは少し怒ったように砂を手で掴み、海に放り投げた。
「それでさ、俺はバクに言ったんだ。『何処へ行っても、怒られたりしない人間になろう』ってな。そこでバクが目をつけたのが弓だった。弓さえ使えれば、鳥や獣を射って、食料には困らないだろうっていう安直な考えだった。それから、バクは朝から晩まで弓の練習ばかり。もちろん、俺も付き合わされたさ。そしたら俺に負けないように、バクは夜中でも練習するようになった。例え月が出ていなくて、真っ暗でも『当たったかどうかは、音でわかるからいいじゃないか』って言うんだ。どうしてそこまで練習するのかを聞いたら『ラドが困らないように』って答えたんだ。まったく、あいつは何を考えているのか、今でもわからない時がある。だが、カラっていう是川の子供に会ってから少しはましになった。自分だけや、俺と一緒だけじゃなく、他の人と一緒にやろうと提案し始めたからな。今回の船を造る話も、『周辺の村と一緒にやろう。俺が話に行く』って言ったんだ。けど、バクだけじゃ不安だから、結局俺も付き合わせられたんだけどな」
 ラドさんはそこで口を閉じ、僕を見つめた。
「独り言に付き合わせて悪かったな。あと、そこの木の後ろに隠れている奴も、早く寝ろよ?」
 ラドさんの言葉に僕は驚き、背後にある木を見つめた。暗くて、本当に人がいるのかわからなかった。
 ラドさんが歩き去ると、木の陰からハムさんが現れた。
「ハムさん?」
 僕が名前を呼ぶと、ハムさんは「早く寝ろと、言いに来ただけだ」と答えた。
「それにしても、俺ならバクって人と一緒に組まされていたら、海に放り込んでいたかもな」
「ハムさん」
 僕が少し怒った声をあげると、ハムさんは「かもなと、言っただろ」と、口を返してきた。
「俺はさっきの、ラドさんっていう人より我慢強くは無いし、今のバクさんって人とも、あまり気が合わないかもしれない。でも、それは今まで俺が、あの二人について何も知らなかっただけで、これからは違うかもしれないって事だ」
 バクさんはそう言って、立ち去ろうとした。
「なら、これからはどうしますか。付き合うのを、やめますか?」
僕がハムさんの背中に声を当てると、ハムさんは「さあな」と言っただけで、他には何も言わなかった。
 ただ、僕の声は跳ね返らず、ハムさんの背中に当たり、そのまま入っていった気がした。

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