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 三日後、僕たちは浜辺に集まった。
「忘れ物はないか?」
 お父さんがみなに尋ね、ザシさんが「ありません」と答えた。
「よし、じゃあ村の事は頼んだぞ。アラ、ガンさん」
 僕がお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんは力強く頷いてくれた。
「出発」
 お父さんは短く言い、村に残る人たちが船を海の中まで押してくれた。
「お土産待ってるよー」
 マオとカオの声が聞こえ、船に乗っている僕たちはみんな笑った。
「面白い兄弟だな」
 違う船に乗っているハムさんが、マオとカオを眺めた。
「ハムさんは、二人の様な弟は欲しいですか?」
 僕が尋ねると、ハムさんは「お前以外の子共なら、みんな弟でいいさ」と、少し悲しげに答えた。ハムさんは、母親と弟を失くしている。
 久慈村には、船だとあっという間についた。
「どうして今まで、歩いていっていたんだろう」
 僕が少し文句を言いつつ船から降りると、ザシさんは「歩いたおかげで、栗の木などの木々が見つかったんだし、道も出来たからいいじゃないか」と言い、船から荷を降ろし始めた。
「久しぶりです。ヲンさん。カラも久しぶり。それと、ハムでよかったっけ?」
 バクさんが駆け寄ってきて、僕たちに声をかけた。
「俺の事を、覚えていたんですか?」
 ハムさんは不思議そうに、バクさんを見つめた。バクさんは入江に立ち寄った事はあったものの、数日間の滞在だったからだ。
「覚えているよ。カラなんて嫌いだって、言っていたんだよね?」
バクさんが言うと、ハムさんはばつが悪そうな顔をした。
「カラも、嫌ってくれる人がいて良かったね」
「え?」
 僕はバクさんに言われたが、言っている意味がよく分からなかった。
「どういう事ですか?」
「だって、カラは出会う人全員から好かれようとしていたし、実際に好かれていたじゃない。だから、嫌ってくれる人がいなければ、どうして自分は嫌われる事があるのかって、考えもしなかったでしょ?」
 バクさんは悪意のない、屈託な笑みを浮かべながら僕に言った。
「あ、この荷物は俺が持っていくね」
 バクさんはウドさんから大きな荷物を受け取り、村の中に持っていった。
 僕は一人、バクさんの言った言葉の意味を考えていた。確かに、僕は是川の村のみんなから好かれようとしていたし、好かれたかった。そして、自分でも好かれているという実感が持てたのは、家出をした後、村のみんなが僕を再び、新しく受け入れてくれた後だった。
 僕に対して悪意や嫉妬を持ち、接してくる人は、今までいなかった。僕が無意識に、嫌われるような行動をとっていなかったのか。それとも、僕は元から好かれるような人間だったのだろうか。自分でも、よくわからなくなった。
 僕が考え込んでいると、ハムさんが口を開いた。
「ほら、これ以上俺から嫌われたくなかったら、船から荷を降ろせ」
僕はハムさんに言われ、慌てて船から荷を降ろすのを手伝った。

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