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 今回、入江から来た人の中にハウさんとハムさんもいた。
「ハウ、聞いておきたいことがあるんだ」
お父さんは夜中の内に、ハウさんから人と人が争うのは本当にあったのかを聞きたいのだろう。
「ハムさん」
 僕が名前を呼ぶと、ハムさんは少し手をぶらぶらとさせつつ僕を見た。
「次は、どんな人を入江に住まわせるんだ。こっちは、例え手と足の位置が逆の人間でも受け入れられるぞ。是川と違って、な」
 ハムさんは僕に悪態をつくようにして、是川で準備しておいた家へと入っていった。
「そうですね。次は、是川でも受け入れられる様にしないといけませんね」
 ハムさんには聞こえないに呟きで、自分の考えを言えなかった事が少し悔しかった。
 次の日、サキさんがナホさんやミイと囲まれて装飾品や土偶の話をしており、その輪にイケも加わっていた。
「はい、これが集めておいた材料ね」
 コシさんが大きな籠を持ってきて、女性たちの元に置いた。女性たちのコシさんを見る目は去年から変わりつつあり、コシさんの持ってきた貝殻をお守りにする人まで現れた。
「へえ、どうして円筒型の土器なんだろう。くびれとかが造れないのか?」
 キドさんも籠を降ろし、サキさんの持ってきた小さい土器を見つめた。
「造れるわよ。入江だと大きな獲物、アザラシとかを煮込むために、全体的に大きく造っているのよ?」
 キドさんとサキさんは言い合いをしつつ、コシさんとミイにたしなめられていた。
「何だか元気だな。キドは」
 イバさんが少しつまらなそうに、女性らを眺めていた。イバさんは去年、入江に持っていったアワやヒエの種が、全く芽を出さなかった事を聞いて残念がっていた。
「寒いと中々育たないって言っていましたし。次は三内辺りでアワやヒエを慣らせば、寒くても育つものになるんじゃないでしょうか?」
 僕がイバさんに言うと、イバさんは「そうだな」と呟き、「三内の管理をしているハキさんにでも、頼んでみるか?」と、僕に相談するように言った。
「そうですね。村の位置は去年、詳細に聞いてありますし、今年でハキさんは三内の管理が終わりらしいですから、余裕があれば試してみてくれるかもしれません」
「そうだったな。ついでに、他の三内周辺の村でも育ててみないかも聞いてみるか」
 イバさんは腰を上げ、身体を伸ばしてからアワやヒエを育てている場所に向かって行った。
 交易も無事に終わり、お父さんとハウさんは長く話をしていたそうだ。
「ハウの話は信用できる。ただ、どの村で争いが起きたかまではわからないそうだ」
 お父さんは入江の人たちが帰る前日、僕とお兄ちゃん、ロウさんに話をした。
「人と人が争うのは事実だけど、村同士の交流をしなければ、村は発展しないと僕は思っている」
 僕が言うと、お兄ちゃんも頷いた。
「ここは仁斗田島に行き、村と村は交流をしていない実例を見て、現状を把握しなければならないと思います」
 ロウさんがそう言うと、お父さんは頷いた。
「交流をするか、しないかは別として、交流を全くせずに暮らしていけるのかは俺も興味がある。カラ、ロウ、任せてもいいか?」
お父さんはそう言って、僕とロウさんを見つめた。
「わかりました」
 僕とロウさんは同時に言い、他にザシさんも大いに興味を持っている事を話した。
「そうだな。二人で行くには遠すぎる」
 僕たちが話していると、そこにハウさんがやって来た。
「俺も興味がある。人と人はなぜ争うのか。人と人は協力した方がいいのか。そして、争わずに協力をするにはどうすればいいのか。俺は入江でやる事がある。代わりに、息子のハムを連れて行ってくれないか?」
 ハウさんが僕たちに提案した。お父さんも住んでいる場所の違う人がいる方が、また違った目線で物事が考えられるだろうという事で、その提案に賛同した。
「ハムには俺から言っておく。それと、ハムの帰りは入江に来る時に、一緒に連れてきて欲しい」
 ハウさんはそう言って、僕の方を見た。
「わかった。息子のカラもお世話になりましたしね。あと、ハムの帰りは是川からの交易ではなく、久慈村周辺の村々が三内を経由して、渡島に行く時になると思います。上手くいけば、初夏の前になるでしょう」
 お父さんはそう言って、ハムさんが一緒に仁斗田島に行く事と、当面の間、是川滞在することを了承した。

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