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第8部 カラSIDE 1―1
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第8部
カラSIDE
1―1
山に入ると冬眠明けの、眠たそうにしている猪がいた。僕はマオとカオに遠く迂回をしつつ、罠を仕掛けた場所に先回りをしてもらい、猪をヨウと共に見張っていた。
「カラさん、見えました」
近くの木に登っていたズイが、僕に合図を出した。ズイの目は何処まで見えるのだろうと思うほど、遠くまで見えている様だ。
「いくぞ、ヨウ」
僕とヨウは猪に気がつかれてもいいように飛び出し、弓矢で猪を射った。僕とヨウの放った矢は刺さったものの、猪はそう簡単に仕留められない。
「さあ、どっちに行くのかな?」
ヨウは少し楽しげに言い、逃げる準備をしている。
猪は僕とヨウの元には来ず、逆の獣道を走って逃げていった。
「ヨウ。イケとオク、ウルを連れてこっちに来てくれ」
僕はヨウに、後ろの落とし穴の近くで待機していた三人を呼びに行ってもらった。
ほどなくして四人はやって来て、遠くからは「落ちたよー!」という、マオとカオの大きな声が聞こえてきた。
「暴れているかもしれないから、僕が声を出すまで、安全な場所にウルと待機しておいてくれ」
僕はイケとオクに、今年から子供の仕事に加わったウルを守るよう、指示を出した。
「ヨウは弓を持ってついてきてくれ。ズイはそのまま木の上で、何かあったらすぐ声を出して」
僕はウドさんが使うような大きな石斧に持ち替え、弓を持ったヨウと共にマオとカオが待っている落とし穴に向かった。
そこには大きな、うめき声ともとれる鳴き声が鳴り響いていた。
「カラさん、早く止めを」
カオが猪を穴が開くほど見て声を出し、マオとヨウが暴れる猪の頭に弓を放った。一瞬、猪がヨウを見て動きを止めた。僕はその後ろから、穴に飛び降りるよう勢いをつけて、石斧を猪の頭にきつけた。
猪はうめき声をあげたものの、まだ動いていた。
「それっ!」
マオとカオが、落とし穴の近くに置いておいた大きめの石を、勢いよく猪に向けて投げ落とした。僕は二人の石を避け、猪はその石に怯み、僕はその隙にもう一度、石斧で猪の頭を打ちつけた。
猪はしばらく藻掻いた後、大量の石器が身体に刺さりつつ、動かなくなった。
「猪って、どうしてこんなに強いんでしょうか?」
弓を構えたままのヨウが、まだ油断をせずに猪を見つめている。
僕はマオとカオが投げた石を猪に投げつけ、猪の絶命を確かめた。
「もう、死んでいるみたいだ」
僕が言うと、ヨウが矢を空に放ち、待っているイケたちに合図を出した。
「こんなに石器まみれじゃ、手を切りそうで運べませんね」
ヨウも穴に入り、猪の身体中についている石器を引き抜きつつ、僕に言った。
「そうだね。鹿なら石器で足を傷つければ動けなくなるけど、猪は矢を受けても、石器まみれになっても生きている。ある意味、羨ましいよ」
僕は猪の生命力に感嘆しつつ、曲がったりして使い物にならなくなってしまった石器を残念に思いながら、猪から引き抜いた。
カラSIDE
1―1
山に入ると冬眠明けの、眠たそうにしている猪がいた。僕はマオとカオに遠く迂回をしつつ、罠を仕掛けた場所に先回りをしてもらい、猪をヨウと共に見張っていた。
「カラさん、見えました」
近くの木に登っていたズイが、僕に合図を出した。ズイの目は何処まで見えるのだろうと思うほど、遠くまで見えている様だ。
「いくぞ、ヨウ」
僕とヨウは猪に気がつかれてもいいように飛び出し、弓矢で猪を射った。僕とヨウの放った矢は刺さったものの、猪はそう簡単に仕留められない。
「さあ、どっちに行くのかな?」
ヨウは少し楽しげに言い、逃げる準備をしている。
猪は僕とヨウの元には来ず、逆の獣道を走って逃げていった。
「ヨウ。イケとオク、ウルを連れてこっちに来てくれ」
僕はヨウに、後ろの落とし穴の近くで待機していた三人を呼びに行ってもらった。
ほどなくして四人はやって来て、遠くからは「落ちたよー!」という、マオとカオの大きな声が聞こえてきた。
「暴れているかもしれないから、僕が声を出すまで、安全な場所にウルと待機しておいてくれ」
僕はイケとオクに、今年から子供の仕事に加わったウルを守るよう、指示を出した。
「ヨウは弓を持ってついてきてくれ。ズイはそのまま木の上で、何かあったらすぐ声を出して」
僕はウドさんが使うような大きな石斧に持ち替え、弓を持ったヨウと共にマオとカオが待っている落とし穴に向かった。
そこには大きな、うめき声ともとれる鳴き声が鳴り響いていた。
「カラさん、早く止めを」
カオが猪を穴が開くほど見て声を出し、マオとヨウが暴れる猪の頭に弓を放った。一瞬、猪がヨウを見て動きを止めた。僕はその後ろから、穴に飛び降りるよう勢いをつけて、石斧を猪の頭にきつけた。
猪はうめき声をあげたものの、まだ動いていた。
「それっ!」
マオとカオが、落とし穴の近くに置いておいた大きめの石を、勢いよく猪に向けて投げ落とした。僕は二人の石を避け、猪はその石に怯み、僕はその隙にもう一度、石斧で猪の頭を打ちつけた。
猪はしばらく藻掻いた後、大量の石器が身体に刺さりつつ、動かなくなった。
「猪って、どうしてこんなに強いんでしょうか?」
弓を構えたままのヨウが、まだ油断をせずに猪を見つめている。
僕はマオとカオが投げた石を猪に投げつけ、猪の絶命を確かめた。
「もう、死んでいるみたいだ」
僕が言うと、ヨウが矢を空に放ち、待っているイケたちに合図を出した。
「こんなに石器まみれじゃ、手を切りそうで運べませんね」
ヨウも穴に入り、猪の身体中についている石器を引き抜きつつ、僕に言った。
「そうだね。鹿なら石器で足を傷つければ動けなくなるけど、猪は矢を受けても、石器まみれになっても生きている。ある意味、羨ましいよ」
僕は猪の生命力に感嘆しつつ、曲がったりして使い物にならなくなってしまった石器を残念に思いながら、猪から引き抜いた。
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