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3―11
 朝食後、僕たちは船を置いてある場所まで行き、秋田の人と、入江に行く僕たちと短い別れを言った。
「俺は渡島に行ったことは無いんだが、大丈夫なのか?」
 一人の男性が不安そうに言ったが、見送りに来てくれたハキさんが「海流に乗れれば、勝手に着くさ」と言い、秋田の人たちを元気づけさせた。
「さあ、出発だ」
 僕は秋田の人と船を動かし、海に浮かべた。
「カラ、渡島までの海流はどんな感じなんだ?」
 僕と一緒の船に乗る秋田の男性、チマさんが尋ねてきた。
「さすがに勝手には着きませんが、海流に乗れれば、あまり櫂を動かさずに船は動いていきます」
 僕が言うと、チマさんは「帰りは逆の海流に乗ればいいってわけか」と呟き、一緒に櫂を漕ぎ始めた。
 渡島まで行く途中、チマさんは饒舌だった。
「思ったよりも、波が高くないな」
 チアさんはそう言いつつ、軽快に櫂を動かしていた。その動きは慣れたもので、僕よりもはるかに上手かった。
「秋田でも、船を使った漁をするんですか?」
「当たり前だろ。大きな鯨を獲る時なんて、船が沈没しないようにするだけでも一苦労だ」
 チマさんは色々と、秋田の漁の話をしてくれた。
「僕たちの村は冬でも船が出せる事もありますが、秋田はどうですか?」
「絶対無理だ。とまでは言わないが、ほとんど無理だ。冬はいつも波が高くて、出せたとしても海が冷たくて、とてもじゃないが漁なんて出来ない。その分、大人の男たちは寒くなる前に毎日のように船を出して、漁をしているな」
 僕はチマさんの話を聞いていると、一つの事柄が思い浮かんだ。
「チアさんの村では、漁が出来て大人になるみたいな風潮があるんでしょうか?」
「そうだな。一人で漁が出来て一人前みたいな感じがあるな」
「だから、コマさんは漁が出来ない自分を『生きていても仕方がない』って言ったのでしょうか?」
 僕が尋ねると、チマさんは黙ってしまった。
しばらく気まずい沈黙が流れた後、チマさんは口を開いた。
「俺たちは、動けなくなったコマに『生きていただけでいいじゃないか』って言って慰めたんだが。それが逆に、コマを傷つけていたのかもしれないな」
 僕はチマさんの不安そうな言葉を、肯定も否定もせず、「チマさんは、コマさんの事が好きですか?」と尋ねた。
「ああ、村の大事な一員だ」
 チマさんは、はっきりとした口調で答えた。

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